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閑話・合言葉

 顔を隠してお母さんの元へ向かうという私の案は、的確な理由と共に、リリーに否定される。

 まぁでも、その通りなので、


「そう… なら、お母さんにこっちに来て貰うしかないわね。」


 すぐ別の案を提案する。


「はい。安全を期すなら、その方法が宜しいかと思います。」


「なら、リリー。お母さんをここに連れて来て貰える?」


「かしこまりました。では私は、今からレジーナ様をお呼びにいかせて頂きます。誰も来ないとは思いますが、グラディウス様は念のため、内側から施錠をお願いします。」


「了解。なら、リリーが部屋を出たら、すぐ鍵を掛けとくわ。お母さんをつれて戻ってきたら、声をかけてちょうだい。」


「かしこまりました。」


「あ、ちょっと待って、リリー。」


 一礼し、部屋から出ようと来たリリーを呼び止める。


「どうされましたか?」


「こういった場合、よく合言葉でも考えるものみたいだけど、私たちも一応考えておく?」


 転移先に使用したこの部屋じたい、人の出入りが殆どない場所を選んでいるし、リリーが出た後は鍵を閉めておくから、誰かが間違えて入ってくることはないと思うが、そう提案してみた。


「合言葉ですか… そこまで必要だとは思いませんが、分かりました。決めておきましょうか。」


「えぇ。じゃあ、私たち2人だけで… 「では、私がノックをしましたら、グラディウス様は、『グラディウス』とお答え下さい。」」


 分かるいい合言葉はある?と尋ねる前に、リリーがそう言葉を被せてきた。


「え、私の名前?」


 まさか、合言葉に私の名前を持ち出すとは思わなかったので聞き返す。


「はい、そうです。」


「そう… なら、ノックがあって、私は自分の名前を言うとして、それでリリーは、それに対してなんて返すつもりなの?」


 少し嫌な予感がしたが、一応返しを尋ねる。


「グラディウス様が、『グラディウス』と合言葉を仰った後、私は、『レジーナ様のネックレスを隠した、イタズラ娘』と返します。いかがでしょうか?」


「……え?」


「聞こえませんでしたか?」


「あ、いや、聞こえたけど、その前に1つ答えてくれる?」


「何でしょうか?」


「何でその事をリリーが知ってるの?」


 確かに小さい頃、ナニーさんの勉強が嫌で、お母さんの部屋に隠れようとした時、誤って机の上にあったお母さんのネックレスを落として壊してしまった。

 そして、バレるのが怖かった当時の私は、それを隠して、すぐその場を後にした。

 あの場には、私以外誰もいなかったから、私がやったとはバレていない筈なのに、どうしてリリーがその事を知っているのか尋ねてみる。

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