２８６話・過去１の威力
「じゃあ、行くわよ。」
そう言ってから、グラディウスさんが拳を握りしめ、エルマーナさんの頭に振り下ろした。
「っ！！」
鈍い音と共に、エルマーナさんが頭を抑えながらしゃがみこんだ。
「大丈夫ですか、エルマーナさん？」
心配で声をかけると、エルマーナさんは、頭を抑えたまま顔だけ僕の方を向き、左右にゆっくりと顔を振った。
しかも、うっすらと目には涙を浮かべていた。
「そ… そうですか…」
これを見て、今から僕もこれを受けるのかと、少しだけ怖くなってきた。
「さ、次は、ノーリ君の番よ。」
時間を置かずして、すぐグラディウスさんから声をかけられる。
「は… はい。」
怖くて、まだ心の準備が出来ていないが、受ける事は確定しているので、時間を掛ければかれる程、もっと怖くなってくるかと思い、もう何も考えずに、すっと頭をグラディウスさんにむける。
「言っておくけど、ノーリ君は、エルマーナより強めに行くからね。」
「はい…」
「じゃあ、行くわよ。」
そう言うと同時には頭に今まで感じたことのない程の衝撃が襲ってきて、エルマーナさん同様に頭を抑え、しゃがみこんだんでしまう。
「これでいいですか、ナニーさん。」
「バッチリよ。ありがとう、ぐーちゃん。じゃあ、もうお昼の用意が出来てるから、２人は痛いのは分かるけど、手を洗って来てちょうだい。」
「…分かりました。」 「…はい。」
僕たちは、頭を抑え、少し涙目のまま洗面所へとむかった。
◆
「頭はどうですか、エルマーナさん？」
洗面所にむかいながら、確認してみる。
「まだ痛いですね。ノーリさんは、どうですか？ 私より強めにいかれていたみたいですが？」
「やっぱり、僕の方もまだ痛いですね。」
「やっぱり、そうですよね…」
「はい。因みに何ですけど、昔から何かしらやらかした時の罰も、拳骨だったんですか？」
「そうなんです…」
「あ、やっぱりそうなんだ。」
「はい。と言っても、その時拳骨していたのは、ナニー先生だったんです。だから、今回の拳骨は、過去１の威力でした…」
「あぁ…」
ナニーさんがどうなのか分からないけど、グラディウスさんって、有名な元冒険者だし、高レベルだと思うから、手加減しても、かなりの威力だ。
それは、受けた僕自身理解している。
それに、
「僕の方も、過去１の拳骨だね…」
そこまで拳骨された事がある訳ではないが、それだけは自信をもって言える。
そんなやり取りをしていると、洗面所についたので、交互に手を洗い、食堂にむかった。
食堂には、ナニーさんとアリーさん。そして、欠伸をしながら、目を擦っているラウムさんしかいなかった。
