276話・指摘
エルマーナさんは、一呼吸置いてから、先程のほんのり赤い顔から一変、とても真剣な表情で、
「ノーリさんって、夜中に私を助けてくれた人ですよね?」
そう聞いてきた。
「…えっと、どういう事?」
突然の事で、そう返答するのがやっとで、頭の中では、何でばれてるの!!という気持ちでいっぱいだった。
「ですから、夜私を助けてくれたのは、ノーリさんですよね?」
もう一度、エルマーナさんが聞いてきた。
「どうして、エルマーナさんがそう思うのか分からないけど、僕じゃないよ。」
声が震えないように気を付けながら、そう返事するが、
「嘘ですね?」
間を置かずに、そう言ってきた。
「な… なんで、僕が助けたと思うの?」
「それについては、気になる事があったからです。」
「気になる事?」
内心、何かやってしまったっけと考えながら、そう聞いてみる。
「はい、そうです。」
「あ、もしかして、食事の席で、ラウムさんが、僕の名前を知っていた事? それなら、たぶんグラディウスさんが僕の事を話していたからじゃないかな。」
思い当たった事に対して弁解する。
「それについては確かに、そうだと思いますが、そこではないです。」
「じゃあ、何が気になったの?」
他に思い付く事がなかったから、直接聞いてみる。
「まずは、私の部屋での件です。」
「エルマーナさんの部屋?」
「はい、そうです。ノーリさんと、初めてあった時です。」
「その時、僕何かしたかな?」
「いえ、ノーリさんではありません。」
「どういう事?」
僕じゃないのに、何で僕が助けた事に繋がるのか分からない。
「あの時、まだノーリさんはラウムと会っていないですよね?」
「…そうだね。ラウムさんとは、あの食事の席で初めて会ったね。」
まだ、エルマーナさんの言いたい事が分からない為、話がおかしくならないように、そう答える。
「なら、やっぱりおかしいんです。」
「?」
「だって私、あの時ラウムが扉の外にむけて、頭を下げるのを見たんです。」
「!?」
「あの時、部屋の中には、お姉様やナニー先生、アリーがいたのに、誰に頭を下げているんだろうと気にはなっていたんです。そうしたら、ノーリさんが部屋に入ってきたんです。だから、最初は、ラウムの知り合いかとも思ったんですが、今ノーリさんは、ラウムとは食事の席で初めて会ったといいましたよね?」
「…言ったね。」
「なら、ラウムが頭を下げる理由が分からないですし、もしその前に会っていたのなら、今度は、あの場でラウムが姿を消した理由や食事での自己紹介について説明がつきません。」
「そうだね…」
エルマーナさんにそう言われ、もうそれしか返す言葉がなかった。