257話・お腹
「大きな声がしましたけど、どうかされましたか?」
何も知らない風を装い、開いてある扉から、隣の部屋へと入らせて貰う。
僕が中に入る前に、ラウムさんの姿が見えなくなった。たぶん夜更けに見せてくれた例の姿を見えなくするあれだろう。
これで、ラウムさんの事を一旦気にしなくて済む。
それで中では、おとぎ話に出てくるメデューサに睨まれた石像のように、身動き一つせず固まったナニーさんとアリーさんがいて、その奥では、グラディウスさんに抱き締められているエルマーナ様がいた。
内心、ちゃんと呪詛が解呪されたようで安心した。
グラディウスさんと目が合い、僕が入ってきた事に気づいたようで、口を開こうとしようとした所で、
「ぐ… ぐーちゃん!! いったいどうなってるの!!」
固まっていたナニーさんが復活し、慌てた様子で、グラディウスさんに詰め寄った。
ナニーさんの後ろでは、アリーさんがとれるじゃないかと心配させるほど物凄い勢いで、首を縦に振っていた。
僕はいうと、エルマーナ様が解呪された事を知らないふりをしないといけないので、とりあえず目を見開き驚いたふりをしておく。
「落ち着いて下さい、ナニーさん。アリーも、そんなに首を振ると痛めるよ。それと、私も今さっきここに来て気づいたばかりですから、今からエルマーナから話を聞こうと思った所です。」
「そ… そう。なら、私も話を一緒に聞かせて貰うわね。でも、その前に…」
ナニーさんが、グラディウスさんごとエルマーナ様を抱き締めた。
「良かった… 本当に、良かった…」
こちらからは見えないが、ナニーさんの声は震えており、泣いているのが分かる。
それは、グラディウスさんやエルマーナ様も同様で、少しの間、部屋の中はすすり泣く声のみとなった。
「ずずぅ… じゃあ、えっちゃん、今から話を聞かせ… 「ぐ~~」」
ナニーさんが鼻をすすり、そう話し出した所で、誰かのお腹の音が鳴った。
鳴ったであろう方を見てみると、グラディウスさんの胸に顔を埋め、耳まで赤くなっているエルマーナ様がいたので、誰だったのかを悟った。
「そ… その前に、朝食の用意も出来てるし、先に腹ごしらえをしましょうか?」
ナニーさんも誰のお腹が鳴ったのかを悟ったのか、そう提案し、
「そうですね。私も、お腹ペコペコですし、話しは、食べながら出来ますしね。」
グラディウスさんも、すぐにその案に賛成する。
「す… すみません、お願いします…」
埋めた顔をあげ、真っ赤な顔のまま、エルマーナ様も賛成した。




