248話・話さない理由
ラウムさんは、深々と頭を下げながら、お礼を言ってきた。
「頭を上げて下さい、ラウムさん。」
言い訳も思いつかず、全てばれているみたいなので、もう諦めた僕は、とりあえずラウムさんに頭を上げて貰うよう頼む。
「分かったわ。」
ラウムさんは、僕の言った通り頭を上げてくれる。
そして、頭を上げて早々に、
「それで、ノーリ。今回起こった事の説明は、当然聞かせてくれるわよね?」
と、有無を言わせぬ勢いで聞いてくる。
もしかして、お礼を言ってきたら帰ってくれるかなという淡い希望は失くなってしまった。
「はぁ… 分かりました。ただその前に1つ聞いてもいいですか?」
その事について答える前に、ある事を確認する為にそう聞いてみる。
「なに?」
「今現在で、僕が、エルマーナ様を助けた事は、誰が知ってますか?」
グラディウスさんたちが今この場におらず、1人で来た事を考慮して、もしかしたらという思いで尋ねてみる。
「グラディウスや、ましてやエルにすらこの事を伝えていないから、今は私1人だけね。」
ラウムさんの言葉を聞き、やっぱりと思いながらも、聞き返してしまう。
「ほ… 本当ですか?」
「えぇ、本当よ。」
内心良かったと思いつつ、そうなると、ある疑問が湧いて来たので尋ねる。
「でも、どうして僕の事を話さなかったんですか?」
「ノーリの一連の行動を見て、もしかして、グラディウスたちには、知られたくないのではと思ったからだけど、違った?」
「いえ、その通りです。でも、ラウムさんは、エルマーナ様と契約されていると言っていたし、もしエルマーナ様に、この事を聞かれたら、普通は答えるんじゃないんですか?」
「確かに、答えてもいいのだけど、契約しているからと言って全部が全部答えないといけないって事はないわね。」
「そうなんですね… でも、それだとラウムさんが答えるのを黙る理由が分からないんですか?」
「そんなの簡単な事よ。さっきも言ったけど、ノーリが、エルにしてくれた事を、他の誰かに知られないように隠しているから、私もそうしているだけよ。これでも、ノーリには本当に感謝しているから、そんな貴方に対して、恩を仇で返すような真似は絶対しないわ。だから、ノーリがそれを望む間は、私が、今回の件を他の誰かに口にするつもりは一切ないから安心して頂戴。」
「そうなんですね… ありが…」
ラウムさんの優しさを垣間見たような気がしてきて、感謝の言葉を口にしようとした所で、ふと気になる事が出来た。




