閑話・ラウム 4
空間の揺らぎへと意識を集中させ、すぐにその先をとらえる。
そして、揺らぎの先をとらえると同時に、転移先が、ここから離れていない事に気づく。
一瞬、ナニーたちにも声をかけてから一緒に行こうかとも思ったが、むこうの状況もよく分からないので、姿を消せる事の出来る私1人だけで行く事にした。
「ふぅ… じゃあ、エル。行ってくるわね。」
転移する前に、1度寝ているエルの方へ顔をむけ、声をかけてから、空間の揺らぎの先へと転移する。
◆
転移してすぐ目の前に、誰かの顔があり、それに驚きながらも、声を出さないように口を押さえながら飛び退いた。
「ん? 風かな?」
目の前にいた人物は、私が飛び退いたのを感じとったのか、そんな事を言いながら窓の方へと振り返っていた。
私は、そっと口から手を離し、その人がどんな奴なのかを確認する為、私の姿は相手から見えていない筈なのに、息を殺しながら、その人をジッと見つめる。
窓の方へとむけていた顔を私がいる正面に戻した所で、その人の顔を見た所で、
『!?』
私は目を見開き、再び驚いて声を出さないように手で口を塞ぐ。
目の前にいた人物が、グラディウスが期待していると言っていたノーリとやらだったからだ。
改めて周りを見渡してみると、見知った部屋… つまり、今日ノーリが泊まる筈のグラディウスの部屋で、エルの隣の部屋だ。
隣の部屋なら、空間の揺らぎの先をとらえるのも早い訳だと納得してしまう。
『いやいやいや、納得している場合じゃないでしょ、私!! いったいどういう事なの?』
危険の芽を早めに摘む為に乗り込んではきたが、それ以外にもエルの部屋へとやって来た理由が少しくらい分かるかもと思ったが、よりいっそう分からなくなった。
『もしかして、エルをこんな風にした者の手先?』
一瞬そう考えもしたが、それだと人族の子供をここに送ってくる理由も分からないし、そもそもグラディウスが連れてきた子が運悪く手先だったなどとは思えなかった。
それに、もしエルに危害を加えるつもりがあるのなら、さっき部屋に来た瞬間に行動に移し、転移系のアイテムで逃げればいいだけの話だ。
『やっぱり、考えても分からないわね…』
とりあえず、何の目的でエルの部屋にやって来たのかを探る為に、このまま息を潜めたまま、ノーリを観察してみる事にした。
そして、ないとは思うが、観察してみて、少しでもエルに危害を加えるというのなら、グラディウスには悪いが、私は躊躇わずにノーリに攻撃を仕掛けようと思う。