245話・あの子
本当は、隣の部屋に戻るだけだし、明日にでも会えると思うけど、僕の正体がばれる訳にはいかない為に、そう答えておいた。
「そうなんですね…」
何か、少し残念そうな顔をしていたので、
「すみま… あ、いやすまない。」
咄嗟に謝ってしまう。
「ふふ、貴方様が悪い訳ではないので謝らないで下さい。」
「そうか、ありがとう… それじゃあ、悪いけど失礼させて貰うよ。」
僕は、話している最中に見つけておいた転移結晶をさっと拾い、そのまま隣の部屋へと転移し、そのままベッドに倒れこんだ。
「ふぅ… 緊張した。」
エルマーナ様がいつ誰かを呼ぶのではないかや正体がばれてしまうのではと話している最中緊張しっぱなしだった。
やっとその緊張から解放された僕は、そのまま目を閉じ眠りについた。
◆
私は、暗く何もない空間で一人ぼっちだった。
どのくらいここにいるのか分からないが、何か… たぶん私にかけられている呪詛が少しずつ私の体を蝕んでいくのだけは分かる。
その呪詛は、抵抗を続けているとはいえ、既に8割近くまで私の体を蝕んできていた。
後どれくらい抵抗できるのか分からないが、たぶんもうあまりもたないと思う。
だけど突然、その暗く何もない空間に一筋の光が差し込んできたかと思ったら、その光は徐々に強くなっていき目を開けていられないほど強くなった。
次に目を開けた時には薄暗くはあったけど、あの暗く何もない空間ではなかった。
「んん… ここは…」
一瞬ここがどこなのか分からなく咄嗟に口に出ていたけど、すぐに見覚えのある天井だと気づいた。
私は腕に力をいれ、体を起こそうとした所で、真横から何かが落ちる音が響いた。
私は、体を起こし、恐る恐る音のした方を見てみると、フードを被った誰かがそこに立っていた。
つい私は誰なのか尋ねると、その誰かはゆっくりと振り返るだけで、私の質問には答えなかった。
私はその人を警戒しながら、もしかしたらと、いつもそばにいてくれたあの子がいないか探しながら再び尋ねる。
『落ち着きなさい、エル。その子は悪い子じゃないと思うわよ』
頭の中に直接響く声と共に、私は彼女の姿を見つける。
『やはりいてくださったんですね、ラウム。でも、どういう事ですか?』
『まぁね。だって、その子が貴方の呪詛を治してくれたのよ』
『え…』
ラウムからの話を聞き、私は、それが本当なのかどうか聞いてみるとラウムの言う通り事実だった。
何故私を治してくれたのか理由をお聞きし、この人がとてもいい人である事だけ分かった。
もう少し話をしたい所ではあったけど、お時間がないようで、止める暇もなく、その人は、私の前から消えてしまった。