244話・警戒心
振り返ると、体を起こした状態で、僕の事をジーと見ているエルマーナ様と目があってしまう。
まぁ、目が合うといっても、僕はローブのフードを被っているから顔まではばれていないと思う。
何て言い訳しようかと頭を悩ませていると、
「貴方は、誰ですか?」
更に、僕の事を警戒しながらそう聞いてくる。
ここで誰かを呼ばれたら困ってしまうのだけど、いい言い訳が思い付かない僕は、言葉に詰まってしまう。
もう何も答えずに、早く転移結晶を拾ってここから逃げようかと思っていた所で、
「貴女様が、私を治して下さったんですか!?」
何故かエルマーナ様が、急に驚きながらそう聞いてくる。
「えっと、はい。」
急に聞かれたので、普通に返事をしてしまった。
「あっ!!」
「どうか致しましたか?」
「あ、いえ何でもないです…」
答えてすぐ、しまったと思ったけど、念には念をいれて顔を隠していたので、まぁいいかと思う事にする。
「そうですか。それで貴方様に、いくつかお尋ねしたい事があるのですが宜しいですか?」
僕が治したと答えた為か、先程まであった警戒心が少し薄れている様に感じる。
「僕… あ、いえ俺に尋ねたい事か? 答えられる範囲なら答えるよ?」
顔を隠しているとはいえ、更に念には念をいれて、少し話し方を変えてみる。
「なら貴方様のお名前を聞いても宜しいですか?」
「えっと、それは…」
「答えられませんか?」
「はい、すみま… あ、いやすまない。」
「いえ、最初に答えられる範囲だと言っていましたので、大丈夫です。でしたら、次は、どうして見ず知らずの貴女が私の事を治して下さったんですか?」
エルマーナ様は、次の質問をしてくる。
「それなら答えられる。それは、エルマーナ様を助けたかったからですよ。」
「私を助けたかったからですか…」
「あぁ、そうだよ。」
「どうしてですか? 何か理由があっての事ですか?」
薄まっていた警戒心が元に戻った様に感じる。
「理由? いや、特にないよ。ただ、本当に助けたかったからですよ。」
「そう… なんですね… その、ありがとうございます…」
「いえ、僕… じゃなかった俺が勝手にやった事だから気にしないでくれ。それで、悪いけど、俺もそろそろ帰らないといけないから失礼させて貰うよ。」
これ以上質問に答えていると、どこかでボロが出そうだからエルマーナ様からの質問を切り上げる事にした。
「そうですか。まだ、聞きたい事があったのですが、分かりました。それで、また貴方様にお会いする事はできますか?」
「難しいと思うな。」
本当は、隣の部屋に戻るだけだし、明日にでも会えると思うけどそう答えておいた。