116話・昇格試験 8
もともと、依頼者も試験官も怪しい人たちである事の認識がある為、僕は、依頼者に聞かれた内容に、本当の事ではなく、怪しまれない範囲で回答しておく。
特に、不審がられる事もなく依頼者との話を終えた。
僕が、依頼者の横から降りようとした際、依頼者がボソッと呟く。
「こいつは、ダメだな…」
僕は、依頼者の呟きが聞こえていない風を装い、御者席から降りて、馬車の後ろに戻る。
「さて、この後どうなるか…」
今、転移結晶で戻っても、証拠は何もない。試験官が、羊皮紙に書いていた僕たちの情報も持ち帰っても、何とでも言い訳がつき証拠にならない。
特別依頼は、続行だな…
そんな事を考えている間も、馬車は進む。
他の試験生との話し合いも終わったようだが、その後も何事もなく、日も暮れてきた。
「では、ここら辺で、夜営をしましょうか?」
依頼者のその一言で、夜営準備が始まる。
僕たち試験生は、一度集まり、夜営の番を決める。
初めは、テットさんパーティー、次に、フィルさんパーティー、最後に僕の順に決まった。
番も決まったので、各自持ってきている物で、夕食を済まそうかと思ったが、
「皆さん、護衛のお礼に良かったら、食事でもどうですか?」
依頼者から、そう提案があった。
僕的には、怪しくて辞退したい所だが、そう言う訳にはいかず、他の試験生たちと同様に、食事を頂く事になった。依頼者の用意してくれた物を僕たちが食べている際、依頼者・試験官たちは、他に用意した物を食べていた。
食べ終えた僕は、用を足すという理由で、1度その場を離れ、用意していた万能薬を飲んでおく。飲んだ後、すぐに戻る。
「それじゃあ、最初は私たちが、夜番をしますので、3人は、休んで下さい。時間がきたら、起こします。」
テットさんが、そう言い、トヴィさんと夜番をする。僕たちは、各自用意していたテントに入る。
因みに、依頼者は、馬車の中。試験官たちは、その近くに張ったテントで休んでいる。僕たちは、焚き火を挟んで逆側にテントを張ってある。
テントに入った僕は、横にはなるが寝ずにそのまま起きておくつもりだ。この後、何があるか分からないしね。
少しして、外で何か重い物が落ちたような音がしたので、そっと隙間から除いてみると、夜番をしていた2人が倒れていた。咄嗟に助けに行こうとする前に、気配察知に、倒れた2人に近寄る反応があったので、思い止まった。ただ、倒れた2人に危害を加えようとするなら、すぐにでも飛び出せるようにしておく。
作者より(捕捉)
試験生 試験官 馬車
□□ 火 □ □