112話・昇格試験 4
こうして、僕抜きの模擬戦が始まった。
…かと、思ったら、
「ちょっと、待った!!」
先ほどまで聞いていた声が聞こえ、訓練場の入り口を見てみると、あいつが立っていた。
「誰だ、お前?」
カールさんが、ムエルトにそう尋ねる。
「試験生のムエルトだ!!」
「試験生?」
カールさんは、手元に持っていた羊皮紙を確認する。
「ムエルト… ムエルト… ねぇな。お前、筆記試験通過してないだろ?」
「うっ!!」
「今から、模擬戦を始めるから、不合格者は、悪りぃが、ここから出ていってくれるか?」
「ぐふぅ!!」
いや、そうなるだろ普通…
僕は、先程みたいに訓練場から出ていくのかと思いきや、
「わ… 悪いがそれは出来ない!!」
「ほう。そりゃ何でだ?」
ムエルトは、また僕を指差し、
「あいつに不正疑惑がある!!」
「何?」
カールさんは、振り返り、僕を見てくる。
僕は、全力で首を横に振る。
カールさんは、むき直り、
「そりゃあ、根拠があって言ってんのか?」
「ふふふ… ちゃんと、あるぞ!!」
「…一応、聞こうか?」
あ、僕も、それは気になるかも。
「まず、あの筆記で満点をとるのがおかしい!!」
ん?
「そして、模擬戦免除も怪しい!!」
あ、聞いてたのね。
「最後に、あいつが、昇格試験を受けれるのが、そもそもおかしい!!」
…出鱈目すぎるだろ、ムエルト。
「…それで、結局お前はどうしたいんだ?」
「あいつと、模擬戦をやらせろ!! そして、俺が勝ったら、そいつの代わりに俺を次の試験に勧めさせろ!!」
カールさんは、もう一度振り返り、僕を見てくる。
カールさんは、ニヤリと笑った後、むき直り、
「不合格者に再度試験を受けさせる事は出来ないが… 模擬戦は、認めよう。もし、良い結果を残せば、ギルドに掛け合ってみるのを考えてもいい。」
「本当か!!」
カールさんそれってもしかして、
「ノーリ。相手にしてやってくれ!!」
やっぱりか…
僕は、カールさんの元へ歩いて行こうとした時、
「ちょっと、待って下さい!!」
他の試験生から、待ったがかかる。
「誰だ、お前?」
「試験生のテットです。」
カールさんは、手元の羊皮紙を確認する。
「お前は、ちゃんと、通過してるみたいだな。それで、何だ?」
「何だではありません。俺たちは、試験を受けに来ているのであって、そこの人たちの模擬戦を観に来た訳ではありません。ですから、早急に、試験を始めて下さい!!」
僕も、確かにそうだと納得してしまう。
ムエルトと違って、彼の言い分は、正当性があるし、僕も模擬戦をしなくてすんで助かる。
だけど、カールさんは、
「成る程な… お前の言い分は分かった。だが、ダメだ。」
普通に拒否した。
「どうしてですか!!」
「どうしてもこうしても、俺が試験官だからだ!!」
とんだ暴君が現れたよ…
僕は、彼を見てみると、目が飛び出し、口が開いたまま、動きを止めていた。
そりゃあ、そうなるよ。他の試験生たちも、似たり寄ったりだ。
「と、言いたい所だが、良く考えてみろ?」
「な… 何をですか!!」
僕も、カールさんの言っている意味が分からない。
「そこにいるノーリは、模擬戦を免除されている。」
「それは、先程聞きましたが、それとこれと何の関係があるんですか?」
「て事は、ノーリは既に次の試験… 護衛依頼をする事は確定している。」
「だから、それが何の関係…「まぁ、黙って聞け!!」」
「それで、もし俺との模擬戦を、通過すれば、残った奴らとノーリで、護衛依頼をしないといけねぇ。でも、ノーリは模擬戦をしないから、その実力も分からねぇ。お前は、実力が分からない奴に背中を預けられるか?」
「…出来ません。」
「だろ? でも、今からあいつとノーリが模擬戦すれば、その実力が分かる事になる。だから模擬戦をさせて、ノーリの実力を見といた方が、後々お前らの役に立つかも知れねぇだろ?」
「・・・・」
彼だけでなく、他の試験生も何も言えなくなっていた。
「更に、特別サービスで、あいつらの模擬戦をさせてくれたら、俺との模擬戦で1発でも俺に当てれたら通過させてやる。」
「…分かりました。」
しぶしぶと言ったような感じで、彼だけでなく他の試験生も納得する。
カールさんは、ニヤリと笑い、
「よし、決まりだ。おい、お前木剣を持って、そこで待ってろ!!」
「わ… 分かった!!」
ムエルトは、木剣を手に取り僕の横を通りすぎていく。
僕は、カールさんの隣につくと、小声で話しかける。
「カールさん、どういう事ですか?」
「ん、いや、面白そうじゃないか。それに、お前かなり強くなってんだろ?」
「まぁ、それなりにですけど…」
「だろ? な、やってみろって!!」
「因みに、僕に拒否権は… 「ねぇよ。試験官命令だ!!」」
はい、またしても暴君降臨しました…
「分かりました…」
「そうこなくっちゃな!!」
はぁ… 僕は、諦めて木剣を持って、ムエルトの元へむかう。
「悪いが、俺の為に、消えてくれ、空箱!!」
ムエルトは、そう言って木剣を構える。
僕も、木剣を構える。
「それじゃあ、始め!!」
審判役のカールさんの掛け声と共に始まる。




