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第7話 同行者選び

「ココットも初同伴だったよな。お前はどうだ? いけるか?」


 本来は安全なルートということもあって、新人の同伴に新米職員のココットが出る予定だった。


「は、はい! 私は行けます!」


「わかった。お前の鼻も頼りにさせてもらう」


 犬獣人であるココットの嗅覚は探知能力としては討伐ギルドでも上位に入る。


『シェンはなにがいるかわからないんだな?』


『ごめんね。前の体があるときはだいたいわかったんだけど』


『いや、気にするな。わからないのが普通だからな』


 古龍であったころは周辺で起こっていることは把握できていたらしい。

 ブレットが対峙したときも何か待ち構えていた感じを受けた。


「わかりました!」


 ココットは両手を胸元で拳を握って答え、ブレットが頷き返す。


「ブ、ブレットさん! なら俺も!」


 そこに割って入ったのはジギン。やはり目を掛けていたココットが心配なようだ。


「落ち着け。まずは明日【疾風】の帰りを待ってからだ。確かに危険はあるが、相手にもよる。万が一戻らない場合はお前も連れて行く。だから一応そのつもりで準備をしておけ」


 【疾風】は移動速度は速いが、その分危険域まで突っ込んでしまう可能性も高い。そうなった場合は足止めに動くだろう。ワイバーンの群れにやられるほど弱くはないが一掃できるほど強くもない。それにそこまでの準備はしていないはずだ。


「わかりました」


 そう答えるジギンは真剣そのもので、いつもの軽さはない。


「あとは……新人は置いていくしかないだろう。誰になるか決まってたか?」


 新人の方は新しく来たりするので直前に決定するということになっていた。


「それなんですけど、なんとか連れて行けませんか? ほら、今日来てたビキニアーマーの子なんですけど、結局今日は間に合わなかったんですよ。明日はこれといった依頼もないですし……さすがに三日放置は……」


 黒猫獣人のミーナが申し訳なさそうに提言する。


「あいつか…………仕方ないな。ココットとペレと一緒に貴族の坊ちゃん達の護衛に回ってもらうか」


 ペレは実力を知っているからまだ動きを想定することもできるが、その新人は未知数だ。今日会った印象だけならブレットの評価は「向いていない」だった。

 しかし、間に合わなかった事情もわかっているだけに、ブレットも無下にはできなかった。

 少し迷ったが、最悪自分とジギンが動ければなんとかなる、という予測もあって、ブレットは認めることにする。


 問題があるとすれば学院側の金払いだ。当然ながら、緊急時の増員での報酬の上乗せも細かく決まっている。

 今回それで追加分を置いていっているわけだが、【疾風】の調査費用にしかならない。

 ブレットやジギンが動くとなればその倍は要求することになるし、万全を期すならもう一人か二人は連れて行きたいのが本音だ。


 ブレットが使いを出して呼び出すのはそういう話し合いをする為だ。

 今回の増員は全て予想からなのだ。根拠は知識と経験という学院を説得するにはやや弱いもので、急な変更を盾にブレットとジギンの分を出させれば御の字といったところだった。

 なのでできれば【疾風】には戻ってきてほしい、と薄い期待を込めてその日は解散した。



「ブレットさま、そんなにドラゴンって危ないんですか?」


 家の庭で剣の素振りで指導を受けながら質問するペレ。

 魔法以外に身体能力も割と高く、剣の筋も良いので、ブレットはペレを魔法剣士として育てていた。

 ほとんどいないタイプで普段からブレットに鍛えられているので、対人戦なら中級ランカーとも渡り合える。実際、中級の上位者であるジギンとも上手く立ち回れたときは互角に手合わせできるほどだ。


 ただ、対魔物はまだまだ経験不足であり、そこがブレットの不安材料でもあった。

 

「ああ。ドラゴンはいろんな種類がいる。それに基本的に外皮が硬いから、お前の剣じゃまだ傷を負わせるのは難しいだろうな」


「なんとかワイバーンくらいは仕留めたいんですけど」


 今日のペレはいつもより張り切っている。ブレットと仕事に出るのは初めての日以来だからだろう。


「なるべくお前に回さないつもりだが……そうだな……」


 素振りの手を止めペレと向き合う。


「万が一討ち漏らしが来たら、剣を向けろ。ワイバーンは臆病だ。逃げる者には喜んで襲いかかるが、向かってくる者には警戒して動きが止まる。その隙さえ作れればココットが仕留める。お前の仕事はまずそれだ」


「わかりました」


 ペレの素直な返事に表情を緩めて頷くと、今度は殺気を込めて剣を向けて構える。


「やってみろ」


「はい!」


 手本を見せて、それを実践させる。ペレとはそれを繰り返してきた。



「ブレットさま」


「なんだ?」


「その……殺気を抑えていただけませんか?」


「なんだ? この程度でビビってると魔物の本能に晒されたとき大変だぞ?」


「いえ……あの……ブレットさまの殺気は興奮してしまうというか……」


 足をくねらせてモジモジし出したペレの言葉に思わず力が抜ける。


「お前なぁ……」


「こ、これはブレットさまだけですので! 本番はちゃんとやりますから!」


 呆れつつも、そのまま剣だけ向けて立つと、ペレは真剣にブレットを真似る。


「なかなかいい殺気だ。まだ甘いけどな。だが、お前はそれでいい。本当はギルドにも入ってほしくなかったんだが」


「いえ、ブレットさまの隣に立つのが目標です。少しでもお役に立てるようになってみせます!」


 張り切るペレを見て「家の掃除とかで十分だったんだが……」と呟くが、ペレには聞こえなかったようだ。家事もやった上でランカーとしてまで働くようになってしまったのは完全に想定外だった。


 ただ、教えれば教えるだけ吸収していくペレを見ているのは正直なところ楽しいと思えた。

 かつての仲間達と共に戦っていた頃を思い出させてくれる。

 そんなペレに言葉にしたことはないが感謝という気持ちが湧いていた。


お読みいただきありがとうございます。


長くなった話を切って切って、そんな状態が続いてます。


次回は話し合いです。

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