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第5話 亜人の少女 後編

「ところで、俺の名前を聞いて男爵の息子が「あの……」とか言ってたのはなんなんだ?」


 キャリーに紹介された店【舞姫】に向かう道中にブレットはふと思い出してジギンに問い掛ける。


「あれ? 自覚ないんスか? ブレットさんってゆーめー人っスよ」


「俺がなにかしたか?」


「来て早々に王城に怒鳴り込んだ人が何言ってるっスか……」


「…………アレか」


 ブレットがこの国に来た理由が貴族の腐敗だった。

 当時のギルドマスターを抱え込んで利益を吸い上げていた。

 その是正の為にやってきて依頼主の国王と話し合いをしただけなのだが……周囲には怒鳴り込んだと思われていたらしい。ちなみに、ブレットを推薦したのはサンドリア国王だ。


 また、その結果かなりの貴族を粛清することになったので、あの男爵の息子もブレットの名に怯えていたのだ。

 ブレットが気付かなかったのは、依頼自体が内密なもので、残った無関係な貴族の子供にまで知られているとは思わなかったからだった。


 そしてギルドマスターが関与していたことから空席になり、そこにブレットが入ることにしたのだった。これは監視の意味もある。




「お待たせ。準備できたよ」


 【舞姫】に着いてジギンと酒を飲んでいると、しばらくしてキャリーがやってきた。


「ほら、ご挨拶」


「お、お待たせしました。ブレットさま」


 キャリーに促されて後ろから出てきた少女――いや、その綺麗なドレスに身を包んで化粧をした姿は美しい女性だった。

 頭を下げると髪がさらりと垂れる。先程までは香油で重そうに見えたが、落とすとサラサラなのがよくわかる。

 残念ながら胸はほとんどないが、それをドレスの色気が補っている。


「すごいな……」


 ブレットも目を奪われて、感嘆の息を漏らした。


「どうだい? まだ18の女の子には見えないだろう?」


「スゲェ! めちゃくちゃ美人じゃないですか!」


 キャリーが腕を組んで自慢するように言うと、ジギンが語尾の癖を忘れるほど興奮して立ち上がる。


 称賛慣れしていないらしく、少女は照れて顔を伏せてしまった。


「お前の眼は綺麗だ。だからちゃんと顔を上げて見せてくれ」


 ブレットがそう言うと、ジギンが「うっわ……」と声を飲み込む。キャリーも口に手を当てている。


 主人であるブレットの指示に従って、少女が顔を上げると、別人のように真っ赤になっていた。


「やはり良い。もっとよく見えるように前髪を切っておけ」


 その前髪を指で横に流しながら指示をする。


「か、かしこまりましたぁ」


 少女はプシューと顔中の穴から蒸気を出しそうなほど顔を火照らせる。


「それじゃ、好きなだけ飲んでいっていいからね。それとブレット、だったね。早く名前つけてやんなよ」


 そう言ってキャリーは席を離れていった。



「こりゃしばらくはブレットさんが美女を連れてたって言われるっスよ」


 そう言ってジギンが絡むが、


「ふっ、なら毎回自慢してやるよ」


 と、返して隣に座らせた少女の頭にポンと手を乗せる。

 不意を突かれた少女はプルプルと悶える。


「もーコレすらあっさり流すとかブレットさんに弱点はないんスか?」


 焦るブレットを期待していたジギンは面白くないらしい。


「あるさ。わざわざ言うことじゃねぇけどな」


 肉体的にはほぼ弱点はないブレットも、こうと決めると近視眼的になって周りが見えなくなるところが弱点といえば弱点だ。

 シェンの大元の古龍と一対一で戦ったのもそういう理由から仲間を巻き込まない為だし、その後一人で旅に出たのも自分が統治に向かないことを理解していたからである。

 討伐ギルドを立ち上げられたのも協力者がいてこそだった。




 ◇◇◇


「あの子……ああ、ペレか。元気だぞ。今は仕事に出ているが今日戻ってくる予定だ」


 ペレ──それが少女に付けた名前だ。とある地方神話の火山にまつわる女神の名前でもある。炎系の魔法の素養があることがわかってそう名付けた。

 そのおかげで彼女は戦闘にも才能があり、討伐ギルドに所属していてランクはこの二年で4まで上がった。

 本人が希望したのだが、ブレットが落とす為に同行したところ、そこでその才能を見せつけた。

 そうなってはブレットも認めざるを得ず、その後身内贔屓を否定する為に別の者に同行させ、無事ランカーとなった。


 ペレが奴隷だということは周知の事実ではあるが、主人がブレットである為、そのことで突っかかる者はいない。

 亜人であることも同様だ。



「それは良かった。けど、ちゃんと抱いてやってるのかい?」


「たまにな」


 余計なお世話だ、とは思ったが、否定しても愚痴られそうなのでそう返した。


 もちろん嘘だ。ブレットから抱いたのは最初の一度だけ。それも連れ帰った最初の夜だ。

 それからは朝目を覚ますとペレが勝手に跨っている。それも「()()になっていたので朝食頂きました」と平然と言い放つ。

 奴隷としての態度は必要ない、と『命令』したとはいえ、ブレットもこれは意外だった。

 見た目はほぼ人間、身体的特徴はヴァンパイア、中身はサキュバスであり、ブレットも「これは食事」と割り切ることにした。


 そして夜もペレから求められたときにしかしない。ブレットは底無しで消耗が激しいからだ。余裕があるときだけ、とこれも『命令』している。

 ちなみにペレは後に作った永久効果の避妊薬を迷わず選んだ。



「それならいいんだ。私もあの時着替えさせて驚いたからね。あれだけの女はそうそういないよ」


 それはブレットも同意せざるを得ない。あの姿を見て抱かないという選択肢が思い浮かばなかった。

 ブレットにとってもおそらく人生で初めての『タガの外れた』出会いだったと思うほどだ。


「そうだな」


 返したのは一言だけだったが、実感がこもっていた。


「おっと、引き止めて悪かったね。他も回ってくれるんだろ?」


「ああ。今日はあと2、3軒行こうと思ってる」


 薬はキャリーが配ってくれるので、他の店は【清掃クリーン】だけ掛けて回るのだが、全部を回ると時間が足りない。

 なので数軒ずつ日を分けて回るようにしている。

 キャリーのいる高級店だけ十日おきに必ず行くようにして、それ以外は時間があれば回る感じだ。それで十分病気は防げている。


「ありがとう。また十日後も頼むよ」


「また来る」


 そう言ってブレットは別の店へと向かっていった。

お読みいただきありがとうございます。


冒頭のやりとりからのブレットが国を移った理由もペレの名前も前編を書いている時からあったのに後編まで引っ張ってしまいました。

奴隷に勝手に魔法を使わせるわけにもいかず後編まで少女で通す羽目になるという……すみません。


※時系列が分かりづらかったので避妊薬を選んだタイミングを追加しました。


面白いと思って頂けたらブックマークや下の★で評価を付けて貰えると嬉しいです。

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