第51話 呪い
つい先程まで主にイリガルの声が響き渡っていた大広間が静寂に包まれる。
イリガルが戦う意思を見せたことでブレットも少し距離を取った。
『あの黒龍が精霊になって付いてるってことはそういうことだよな』
『僕とやってるみたいな特殊な効果の魔法が使えるだろうね』
『【破壊の力】ってことはあのブレスみてぇな魔法だろ?』
『あの、って言われても僕知らないよー』
『そうか、シェンと戦う前だもんな』
『ブレットだけ知ってるなんてズルい!』
『ズルいって……まぁ、やべぇブレスだ。あのときは溜めてんのがわかったからなんとかなったんだが……』
当時初めてそのブレスを見たときは、パーティが全滅しかけた。
そのこともあって耐えられるブレットだけで古龍──シェンと戦うことにしたくらいだ。まぁ、シェンにはそのブレスは使えなかったのだが。
そのブレスを撃たれると仲間まで庇う余裕はない。ある意味ペレを離してくれたことに感謝していた。
『魔法だと溜めはないもんね』
それが厄介だと感じる一番の理由だ。おそらくまともに食らってしまえばいくら不死のブレットでも危うい。可能な限り避けたいと考えていた。
「相談事は終わりましたか? そろそろ行きますよ?」
「チッ、いきなり撃つ気か」
「フフフ……上にも気を付けてくださいね」
「どういうことだ……?」
「行きます! 【大滅壊炎弾】!」
──でけぇ!
ブレットは心でそう叫ぶと同時に横に跳んでいた。
大広間を埋め尽くす程の巨大な炎弾に見た瞬間、忘れていた死の恐怖を思い出した。【剛体】を発動する暇もない。
イリガルの放った炎弾が通過した後には丸い跡がただ残っていた。それは城の外にも続いている。
「痛ぇ! チクショウ、やっぱ痛ぇもんは痛ぇ!」
痛いどころの話ではない。ブレットの両脚が消滅しているのだ。
「『【再生】』」
ブレットとシェンの声が重なる。
既に体質により復元の始まっていた体に魔法でさらに上乗せしてスピードを上げる。
なぜなら、今のイリガルの魔法により上階の崩壊が始まっていたからだ。
そのままでも自分は助かるが、地下に落とされたペレがどうなるかわからない。
「クソッタレがぁ!!」
再生した両脚で立ち上がり、上に向けて全力で古龍の槍を振るった。
この槍を手に入れてすぐに試し、サナトス山脈の山頂の一部を吹き飛ばした一振り。手加減する余裕はなかった。
──空。
帝国の象徴たる城の二階より上はその一撃により全て吹き飛んだ。
そしてブレットはようやくイリガルが放った魔法の跡を見る。
「海の方だったか」
その先に人里はない。そう安堵した時だった。
「【超滅壊──」
上空から声が聞こえた。
「んなっ! 【剛体】!!」
咄嗟にスキルを発動し槍を握り締めて全力で真上に跳ぶ。
「炎弾】!」
その瞬間、帝国は地図上から姿を消した。
──ブレットがいた場所の下を除いて。
「はは……完敗です」
跳び上がったブレットはそのまま手に握った槍でイリガルを貫いていた。
ブレットの【剛体】は自分だけを守るスキルだが、古龍、いや白龍の槍はイリガルの切り札【超滅壊炎弾】にも耐えてくれた。
「こっちも負けたようなもんだ」
ブレットがそう呟くと二人とも地面に落ち、ブレットだけが受け身を取る。
「これでもう満足か?」
ブレットはイリガルが本気でブレットを殺すつもりではなかったのだと感じていた。
わざわざ撃つタイミングを知らせ、上へ警戒させる忠告までしていた。
「ふふ、ふふふふふ……」
「な、なんだ?」
イリガルから黒い炎のようなものが噴き出る。
「呪い……。よくわかりましたね……。次はあなたの……番です……よ……」
「なんだと!?」
『もう死んでるよー』
「ぐあっ!」
イリガルから出た呪いの炎がブレットを包む。
『あれ? ブレット? 僕じゃ解除できないよ! 聞こえてないのブレット?!』
呪いが発動し、ブレットにはシェンの声が届かなくなっていた。
「ああああッ!」
「ブレット!!!」
そこにペレが駆けつけてくる。ブレットが跳び上がって庇ったことで辛うじて残った部分にいて生き延びていた。
ようやく地下を脱出したところでブレットが呪いに侵されているところを見てしまった。
「だ、ダメだ。近寄るな。これは呪いだ。俺はお前に何をするかわからんぞ」
ブレットは残った理性でペレを遠ざけようとする。
「呪い……ハッ」
何かに気付いたペレはそのままブレットに駆け寄る。
「大丈夫。私が貴方を助けてみせます」
「やめろ! お前まで……」
「私とサラちゃんだけじゃ足りません。ブレットの血も使います」
突き放そうとするブレットを抱きしめ、首筋に歯を立てる。
「シャーロット様から受け継いだこの力。使うのは今しかありません!」
【解放】
シャーロットがペレを奴隷から解放するときに使い、それによってペレが習得していた魔法だ。
そのときシャーロットがこれを『呪いを解く魔法』だと言っていたのをペレは忘れていなかった。
そして、シャーロットですらサラマンダーとウンディーネの力を借りてようやく発動していたが、ペレにはサラマンダーの力しか借りることはできない。
それをブレットから血を飲むことで補った。
「ダメ……これでも足りない……」
「あたしだって繋がれば……うわっ!」
ウンディーネがサラマンダーに繋がり、力を供給しようとするが、元々相性の良いパートナーにしか出来ないことは効率が悪く、一気に消耗する。
「なら、僕も! ブレットと話せなくなるのは嫌だからね。いくよー!」
ブレットとの接続を試みて失敗したシェンがサラマンダーに繋がる。
「お願い、ブレット! 元に戻ってぇ!!」
ペレの悲痛な叫びが響くと、ブレットの身体から閃光が迸った──。
お読みいただきありがとうございます。
スキルを使ってブレスに飛び込むプロローグと同じ構図。これがやりたかっただけです。
最強不死なんてタイトルつけて苦戦させたくなかったというのもあります。
次回で一旦完結とさせて頂きます。




