第48話 帝都突入
「今度はドラゴンですか……すごく……大きいです」
「双頭のドラゴン、ヒュドラだな。どうやら帝都周辺の魔素は全部あいつになったみてぇだな」
帝都を目前にして二人の行手にヒュドラが降り立つ。
その大きさは以前に見た空ドラゴン並みで、さらに首が二つあり、その片方は今まさにブレスを吐こうと溜めに入っている。
「これが帝都入りへの最後の砦ですか」
「あいつは首を両方潰さねぇと止まらないからな。ペレは翼を頼む。飛ばれると厄介だ」
せっかく降りてきてくれているのを逃がさないようにペレに指示を飛ばして散開する。
ヒュドラの放ったブレスは二人のいた後方で炸裂した。
「硬そうですね。【火槍】で行きます……!」
ペレが作り出した炎の槍にヒュドラの頭の片割れが反応する。
「おっと、お前らはこっちを向いてろ」
その隙を逃さずその頭部を貫く。
「さぁ、飛んで逃げねぇともう一つも潰しちまうぞ?」
ブレットの挑発に乗るようにヒュドラが翼を広げると、ペレの【火槍】が貫く。
「ブレット、あとはお願いします!」
「任せろ!」
二つの頭は認識を共有できていないようで、潰された頭が何を見て反応したのか、自分の翼が何に貫かれたのか分からずパニックになった残りの頭をブレットが冷静に古龍の槍で貫いた。
「いいタイミングだったぞ。ペレ」
その気になればいきなり放つこともできた【火槍】をわざと止めて見せることでうまく牽制したペレを褒め、拳を突き出す。
「ありがとうございます」
ブレットの拳に自分の拳をちょこんと合わせて、ヒュドラ討伐を喜ぶ。
「よし、行くか」
「はい」
ペレがブレットの血を飲み、万全になったところで二人は帝都に入っていった。
「あのでけぇ城にいるはずだ。急ごう」
「ブレット、待って下さい」
帝都の雰囲気に何かを感じたペレが走り出そうとするブレットを呼び止めた。
「ん、どうした?」
「私は万全になりましたけど、ブレットは私に血を飲ませてばかりで万全ではないのでは?」
「まぁ、そうかもしれねぇが、俺は大した魔法は使えねぇからな。気にするな」
ペレの指摘通り、膨大だったはずのブレットの魔素はかなり消耗していた。
ブレットはほとんど消費しないから保有量が多いだけで、吸収して回復するスピード自体はペレと変わらない。
それにペレの魔法一発一発で消耗する魔素量はかなりのものだった。
「いえ……何か嫌な予感がします。せめて一晩、休んでいきませんか? ここの魔素は濃くなりやすいんでしょう?」
「そうか。なら休もう。そういう直感は大事だ」
「信じて……くれるんですか?」
「当たり前だ。なにより不安があるまま行くのはよくねぇ」
「ありがとう」
「──っ! そ、その辺の宿の部屋を使おう。適当に代金置いておけばいいだろ」
以前にも見たペレの態度に照れるのを誤魔化しながら、ブレットは歩き出した。
「ふふっ、そうですね」
そんなブレットを見てペレの緊張も和らぎ、後を追いかけた。
「シェンは俺に魔素を集めたりとかできねぇか? なんかシェンなら何できても驚かねぇが」
『うーん、どうだろ。やってみるよ』
それができれば回復が早まるし、周囲に魔物も生まれなくなる。
そう思って提案してみたのだが──
『あ、できた』
シェンはあっさり実行してみせた。
『でも、さっきのアレが生まれたばっかりみたいだからあんまり多くないね』
それでも普段のただ待つだけより取り込める量は増していた。
「よし、これなら明日は本当に万全で挑めるな。さすがシェンだ」
『えへへー』
「とりあえず寝るか。明日起きたら城に向かおう」
「はい。おやすみなさい」
ブレットは魔素の回復をシェンに任せて横になると、そこにペレもぴったりとくっついて帝国に入って初めて二人で眠った。
「ようやく着いたな。さすがに罠はねぇよな?」
「あるとしたら配下のダークエルフがどこかで待ち構えているとかですかね」
正門から堂々と城に侵入し、周囲を警戒しながら進む二人。
「いませんよ。奥へどうぞ」
そこへ一人の男が声を掛けてきた。
ダークエルフだ。
フード付きのマントを被り、既に背を向けてしまっていて顔はまだ見えていないが、ブレットはそうだと確信していた。
その男の先導でその城で一番広い大広間へと辿り着いた。
「さて、初めまして、と言っておきましょうか。ブレット。私はイリガル。実はあなた方の姿を見るのは初めてではありません」
大広間の中央で振り返ると、フードを取り丁寧に挨拶をするイリガル。
やや暗い銀髪に白髪が混じっていて、魔族のような暗い肌にも皺が見え、ブレットは内心首を傾げていた。
「下準備で見てたってことか?」
「そういうことです。ジュノ、ドラギーユを通ってサンドリアへと何度も足を運びましたから」
「何が目的なんだ? 最悪ここに生まれたヒュドラに殺されていたんじゃないのか?」
「ふふ、私が誰の血を引いているのかご存知なのでしょう? ほとんど魔物は魔族を襲わないんですよ。それに……目的ですか。それは今回のことを?」
以前のダークエルフが襲われたのは逃げるというワイバーンの本能を刺激する行動をとってしまったからだったようだ。
そしてほとんどというのはサナトス山脈の魔物のような例外がいるということだろう。
「話してくれるってんなら最初っから全部話してくれていいんだぜ」
むしろ話すために呼ばれたという感覚があった。
「そうですね。最期に話しておいて損はないでしょう」
ブレットはまた気になる単語にピクリと眉を顰めつつもイリガルの話に耳を傾けるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回はウィスプの時のような語りにしようかどうしようかというところです。




