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第46話 平原を抜けて

「もう行くのか?」


「ああ、俺達は平原を抜けるからな。二十万も人が通った後だ、街道周辺の魔素(マナ)は薄いはずだ。明るいうちに街道まで抜けて野営に入りてぇ」


 皇帝が停戦に応じ、戻ってきたレオンに出発を告げた。


「そうか。皇帝は協力を約束してくれた。ジュノを包囲している市民達のことはこっちに任せてくれ」


「頼んだぜ、レオン」


「それと、これをここの隊長から」


 そう言ってレオンは書状を取り出し、ブレットに渡す。


「これは?」


「おそらく帝国との国境も【催眠(ヒプノシス)】が掛けられているだろうから解除したらこれを見せれば通してくれると言っていた。現状をまとめてくれたんだろう」


「助かるな。レオンから礼を言っておいてくれ」


「それはブレットから後で言ってやってくれ。グランツにもな。あいつが提案したんだ」


「わかった。それじゃ、行ってくる」


「行ってまいります」


「二人とも、気を付けてな」


 ブレットとペレはレオンに頷き返して走り出した。



「正面と追ってくるやつ以外は無視して進むぞ。複数いる場合は俺が左。ペレは右だ」


「わかりました!」


 ブレットが指示を飛ばすと、早速正面に鼻が角のように肥大化した猪の魔物が二体姿を見せる。


「あいつはノーズホーンボア、正面は硬い。まぁ、今のペレには関係ないな」


 ブレットが古龍の槍を構えながら説明する。


「そうですか? では、【火槍(ファイアランス)】!」


 ペレの炎の槍があっさりと硬いはずの鼻からノーズホーンボアを貫いた。


「ほっ、と。いい感じだな。これなら【火矢(ファイアアロー)】でもいけたんじゃないか?」


 自分も苦もなく正面から槍を突きながら褒める。


「今のはサラちゃんの力は借りてないんですが……私もちゃんと強くなれているんですね」


「シャーロットが言うには精霊の力を借りて魔法を撃つことでその威力を体が覚えていくらしい。消耗も大きくなるから加減をしっかりできるようになれ」


「はいっ!」


「シャーロットはその加減まで完璧にできていた。まぁ、高威力を出す時はサラちゃんやディーネちゃんの力を借りてたみたいだけどな。ペレも上手く使い分けるといい。さっきみたいにな」


「そうですね。サラちゃん、よろしくお願いします」


『任せロ』


 走りながらも教えられることは教えていく。特に精霊の力に関しては、つい最近得たばかりだ。さすがにブレットもペレが精霊持ちになるとは思っておらず、過去の訓練では教えていなかった。


 だが、ここからはペレの力も頼るつもりだ。上げられる戦力は可能な限り上げておく。


魔素(マナ)切れになる前に必ず言えよ? 補給はいつでもしていいからな」


 なんならペレを抱えて走りながらでも可能だ。


「わかりました」


「ああそうだ、これを持っとけ」


 ブレットは収納袋を一つペレに投げて渡す。


「これは……何が入っているんですか?」


「シェン特製の回復薬(ポーション)だ。万が一俺から離れて怪我をしたときはすぐに飲め。量は十分にあるから小さい怪我だからとか考えるな。解毒作用もあるしそこから悪化することも防げる」


「なるべく離れないようにします」


「それが一番だな。俺がいるときはシェンの力で癒してやれるからな」


「はい。シェンもよろしくお願いしますね」


『まっかせてー』


 最近はペレに頼られたときもブレットのときと同じように嬉しそうにしている。


「任せろ、ってさ」


 ペレにはシェンの声は聞こえないので伝えてやると、ペレはブレットの右肩のシェンのいる辺りを見つめてふふっと笑う。

 なんとなくそこがシェンの定位置だと気付いたらしい。



「あれは……ホーンラビットですね」


 今度は前方に角の生えた兎の魔物が現れる。


「アレは最初の突進を躱したらスルーでいい。角を向けた突進の後の着地が隙だらけだから普段ならそこを狙えばいいが、今は躱せばもう追いつけねぇからな」


 移動ではなく攻撃のときは姿勢が悪く、すぐに反転できないのが弱点だ。だが、今はわざわざそれを仕留める必要もない。


 五匹ほどのグループだったが、全員が角を向けて突進し、二人はそれを躱して駆け抜けた。



「あまり強い魔物はいませんね」


「平原は普段からそこそこ魔物が生まれてるからな。それにジュノの討伐ギルドもちゃんと働いてるみてぇだ」


 唯一不安だったのはジュノの討伐ギルドが【催眠】によって機能していないことだったが、帝国の討伐ギルドと同様に本分は忘れていないらしい。


 というのも、討伐ギルドの仕事はこういった国内の魔物の発生地での狩りがメインだ。目撃証言などを元に依頼を受けていないランカーを割り振っている。

 特に上級ランカーともなると、山などの強力な魔物の発生地へ予定を組んで定期的に向かう。なので、上級ランカーはほとんどギルドにいることがない。

 そして狩った魔物を需要のある各ギルドに卸して市場を回すのだ。


 話を戻すと、このように魔物が少なく、そこまで強くないというのは、討伐ギルドがちゃんと定期的な狩りを行っている証拠でもある。


 不安が減ったことで、二人はペースを上げた。

 そして、なんとか日が暮れる前にジュノ・帝国間の街道へと辿り着いた。


「よし、なんとか着いたな。思った通り、街道周辺は魔物もいなかったし、予定通り野営にしよう」


「はいっ。交代はどうしますか?」


「この感じなら大丈夫そうだから二人とも寝てしまおう。何かあったらシェンたちが教えてくれる」


『実はあの山でも見張ってたしねー』


 また頼られることに嬉しそうに以前のサナトス山脈での登山のときのことを話すシェン。


「そうだったんだな。ありがとうシェン」


「サラちゃんとディーネちゃんもありがとうございます」


 ペレもシェンたちがやってくれていたことをサラマンダーから聞いたらしい。


『まっかせなさーい』


『危なくなったラ、すぐに起こス』


 ウンディーネとサラマンダーの二人もやる気まんまんだ。


「お言葉に甘えて休みましょう。その前に食事を用意しますね」


「頼む」


 その日は二人とも周囲の警戒を精霊たちに任せて眠りに就いた。

 ──おそらく次にゆっくり眠れるのはしばらく先の話になりそうだということを予感しながら。

お読みいただきありがとうございます。


次回は帝国到着、もしくはジュリィやジギンの防衛戦の予定です。

後者は最後まで書かない可能性もありますが。

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