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第45話 たった一日の戦争

 シェンがジュノ側の砦の人間の【催眠(ヒプノシス)】を解除して回ると、執務室に通された。

 そこで、これからの対応についての話し合いが持たれている。


「じゃあ、まずは帝国軍も市民もジュノの王都に入って動かない場合、どうする?」


「おそらくそれは食料よりそれを配る人間が必要になる。サンドリアの増援を待つ間にジュノの国王の【催眠(ヒプノシス)】を解除し、こちらの人員の入国を正式に申請しよう」


 ブレットが予想される帝国側の動きを挙げ、レオンがその対応を話していく。


「次はそこから帝国軍だけがこちらに向かってきた場合は?」


「その時は申請はせずに入国してしまう。平原で帝国軍の【催眠】を解いたらそこから先程と同じくジュノの国王の【催眠】を解きに動く」


「もし、万が一これが皇帝の意思で【催眠】されてなかったとしたら?」


「あまり考えたくはないが……ここでの籠城も視野に入れつつサンドリアの増援を待とう。どちらにせよ向こうもそこまで食料は保たない。それで凌げるはずだ」


 ブレットもほぼあり得ないと思うことでも念には念を入れて確認しておく。

 そして、元々行動予想は話し合っていたので、それにもレオンは対策を考えていたようだ。


 それからしばらく元々あった予想の対策をレオンが話して、補足があれば入れる形で話し合いが続けられた。



「──と、俺たちが出した予想はこんなもんだな。ペレ、お前はこれ以外に何か思い付いたか? あったら遠慮なく言ってくれ」


 ここまで聞きに徹していたペレにも確認する。


「はい。ジュノって王都に入れるのは北と西だけですよね? だから、二十万人もいたら外側を囲むこともできるんじゃないかと思うんです」


 ジュノは東と南は海に面している。南が()()夏季休暇(バカンス)の予定地だった。そして、東は港になっている。

 なので、陸路ではペレの言う通り北と西からしか入れない。


「王都の封鎖か!」


「それは考えてなかったな」


 ペレの予想にブレットもレオンも焦る。咄嗟に対応が思いつかなかったからだ。


「野営も気にせずしてたと聞いて思ったんです。それなら街に入らなくてもいいんじゃないかって。普通なら野営が続くのは苦痛ですけど、【催眠】があるならそれも問題ないですし」


「確かに。市民を盾にされたら我々も王都に入るのは難しくなる。かといって【催眠】を解けばパニック、か……」


「そうなるとジュノの国王の【催眠】解除は……シェンに行ってもらうしか……いや、それだと状況を説明できねぇから協力してくれるかわからねぇな」


 実際にそう動くかはともかく、そうなった場合の厄介さにブレット達は意見を出し合い、悩み出す。


「そのときは帝国軍だけ解除して、王都は無視するというのはどうでしょう?」


「うーむ。もしそうなら守りにランカーも付いてるだろうし……下手に手を出すよりいいか……?」


「だな……帝国軍から情報を聞き出して……食料が必要ならそいつらに提供させればいいか……?」


「はい。その間に私とブレットは帝国に向かってしまっていいと思います」


 その話し合いで、ジュノの国王の【催眠】解除はこちら側の人間が入ることが可能ならば行い、無理なら王都の状況の解決自体を後回しにすることになった。

 術者を倒して【催眠】が解除されるかはわからないが、本命のダークエルフを倒したあとに市民達の【催眠】が一斉解除された場合に備えてレオン達も動いておく。


 そして、その状況確認にはジュノの守備隊から脚の速い馬を数頭出してもらえることになり、シェンが向かう者に加護を授ける。

 レオンはドラギーユ側に戻り、王国軍との打ち合わせに入った。その偵察部隊が戻り次第行動に移る予定だ。



 それから三日後、偵察から戻った部隊の報告を聞き、その翌日、ドラギーユ王国軍は帝国軍の到着予想に合わせてジュノ国内へと入り防衛に備えて展開した。


「ペレ、お手柄だな」


「ありがとうございます」


 偵察部隊によると、ペレの予想通り、市民はジュノの王都を包囲していて、ちょうど帝国軍がこちらへ向かい始めるところだったらしい。


 ブレット達にも思いつかなかった予想をし、見事的中させたペレを称賛する。


「まぁ、軍同士がぶつかるところには俺たちは関与できねぇ。シェンたちが【催眠】を解除していくところを見守るだけだ」


 さすがにブレット達の参戦はレオンに止められた。

 戦に作法など特に決まってはいないが、相手は討伐ギルドのランカーを軍に参加させていない。

 前回の百年以上前の戦争でも討伐ギルドは参戦しなかった為、ブレットも身を引いた。


「そうですね。【催眠】されてるだけだといいんですけど」


「それは間違いないだろ。王国軍は防衛しながら説得も併せてやるってんだからそっちが上手くいく方を祈っておこう」


 前線には出ない二人は砦から前方に展開する王国軍を見つめながら作戦の成功を祈った。



 その王国軍の先に帝国軍が姿を見せ始める。

 兵士らしき集団の中心に一台の豪華な馬車。おそらくはそこに皇帝が乗っているのだろう。

 そして、先頭の指揮官の合図で一斉にこちらへ向けて走り出した。



 対する王国軍は、レオンが最後尾に配置した鶴翼の陣。帝国軍を囲み込もうという作戦だ。

 そして、戦線を広げず、シェンたちが【催眠】を解除する端から説得していく構えだ。

 シェンたちには王国軍と帝国軍が接しているところから中央に向けて進んでいくよう頼んである。




 だんだんと帝国軍で戦闘をしている者が減っていく。

 特に最前線は完全に攻撃の手は止まっている。


「お、いい感じだな。やはり自分の意思で戦争しているわけじゃなさそうだな」


「そうみたいです。あっ、レオンさんも前に出ましたね。皇帝の説得でしょうか?」


「だろうな。さすがに皇帝の相手はレオンにしかできねぇ」


 戦局が思ったように進むことに安堵しつつ、ペレも僅かな変化も見逃さないようにしっかりと見つめている。


「皇帝が停戦に応じればここでの仕事は終わりだ。レオンが戻り次第、俺たちは帝国へ向かうぞ」


「わかりました!」


 ブレットは皇帝と会う必要はない。ドラギーユでの立場でいえばレオンの方が断然上だからだ。なので皇帝とのやりとりは全てレオンに任せている。


 この戦闘とも言えない戦いが終わればすぐにブレット達は帝国へ向かう予定だ。



 ──そして、帝国軍の動きが完全に停止した。

お読みいただきありがとうございます。


いろいろ考えていたのですが、この帝国編で一旦完結とさせて頂きます。

続きというか、元々書こうとしていた話はあるのでもしかしたら後々更新するかもしれません。


とはいえ帝国編終了まではまだあるのでよろしくお願いします。

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