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第43話 伝えられたこと

 戻ってきた密偵の報告を受けて最初に冷静さを取り戻したのはペレだった。


「ブレット、まずは詳しい話を聞きましょう」


 そう言われてブレットも我に返る。


「だな。取り乱してすまない、聞かせてくれるか?」


「あ、貴方は……もしかして討伐ギルドのブレットさんですか!?」


「ああ。よろしく頼む。今回はわからねぇことばかりだ。些細なことでもいい。見て来たことを教えてくれ」


 その密偵はブレットとは初対面だが、顔は知っていたようだ。そして、ジュリィにも気付き、また驚いていた。


 ブレット達は改めて座り直し、密偵の話に集中する。


「では、私、ソルが報告します。まず、軍として武装しているのは最前を行く大隊と最後尾の小隊で、大隊の中央に皇帝の姿を確認しました」


「やはり皇帝がいるのは間違いじゃなかったか」


 ウィスプから聞いていた話と一致することをブレットも伝える。


「はい。そしてその大隊と小隊の間にいるのが先程の一般市民達でした。その中には老人や子供を抱えた女性もいます。その数約二十万」


「なるほど。確かにその人数は聞いている帝国の人口と一致するな」


「隊列から数えたのでほぼ間違いないかと」


 レオンがジュリィやグランツにソルの話に補足すると、ソルが報告の精度を説明する。


「それで、魔物対策はどうしてた?」


 今は活性化も始まりつつある。そんな大行列ならば特に市民の守りが手薄になりそうだ。


「それに関しては隊列の両側に帝国の討伐ギルドのランカーと思われる者が一定の間隔で配置されていました」


 当然ながら帝国にも討伐ギルドはある。そして、そのランカーも総動員で市民を守っているらしい。


「つまり二十万もの市民がジュノに入る、ということか」


 レオンが危惧するのももっともだ。そんな人数が寝泊まりできるような場所はないし、食料もない。


「そいつらの様子はわかるか?」


「それが……なんていうか、普通なんです。ちょっと買い物に行く、そんな雰囲気でした」


 普通の人がまずやらない野営でも、何気ない家族の団欒の延長のような空気だったというのだ。


「これはもう間違いないな。だが……」


「ええ……解除するとパニックが起こるでしょうね」


 ブレットとレオンはその時点では市民への対応を決めかねていた。



「ひとまず、ペレとジュリィは休め。これ以上は話に加わっても仕方がないだろう。特にジュリィはここからジギン達の指揮も任せるからな」


「はい、わかりました。それでは、失礼します」


 ジュリィはそう言って退室する。


「ブレットも……休んでくださいね」


「ああ。前の宿に行っててくれ。後で俺も行く」


「はい。私も失礼します」


 ペレもレオン達に一礼して退室し宿へ向かった。




「さて、実際どうするよ。そいつらはどうせ片道分の食料しか持ってきてねぇだろ?」


 なんとなくブレットには予想していることがあった。


「はい。明らかに帰りは考えていないと思います」


「なら、誰か王都に向かわせるべきだ。サンドリアからの援軍に食料を運んできてもらうように。ただし、単独行動は危険だ」


 ダークエルフには【催眠(ヒプノシス)】を解除できることはバレているということだ。その上でジュノに向かっている市民はいわば人質だ。

 【催眠(ヒプノシス)】を解除しなければ、大人しく固まって行動するだろうが、もし、解除してしまえば、パニックを起こしてバラバラになるだろう。

 そうなればいくら討伐ギルドが付いているといっても、その全てを守り切ることは難しくなる。


 そもそも二十万人という数を解除していくのも手間だが、それすらやらせてくれないらしい。


 そして、最終的に帝国に送り帰すにしても食料という難題が発生する。

 平時のジュノでも二十万人を一月と養えるだけの蓄えはない。

 市民は人質であり、死者を出したくないブレットにとって時間制限でもある。その時間を少しでも伸ばすべく、食料の補充を提案したのだった。


「わかった。二個小隊を送らせよう。市民に犠牲者を出したくないのは私も同じだ」


 レオンも同意し、連絡役を送ることを約束する。



「あとは【催眠(ヒプノシス)】がかかったままでどう動いてくるかだな。俺の予想じゃ、軍の方は仕掛けてくるとみている。だから、帝国軍と皇帝だけは解除すべきだと思う」


 そうでなければわざわざ武装した軍がいる意味がない。魔物への対応は討伐ギルドが請け負っているところを見るとそれは間違いないだろう。


「そうだな。私も同意見だ。ランカーの方はブレットの判断に任せる。そちらも解除しておいた方がいいとは思うがな」


 レオンが自分の意見も付け加えると、ブレットは頷く。


「それで、その後はどうしましょう?」


 グランツが不安そうに問いかける。


「まぁ、呼ばれてるなら行かなきゃな」


「ブレット?」


「ずっと考えてたんだが……市民のことを聞いて確信を持った。ヤツは……ダークエルフは俺を呼んでいるようだ。そして考えてる時間はくれねぇらしい」


 先程の時間制限と同じだ。「なんとかしたいなら自分に会いに来い」ブレットはそう言われている気がした。


 サンドリア国王の言っていた「狙いはブレット」というのは本当だったんだろうと感じていた。

お読みいただきありがとうございます。


戦争開始……するでしょうか

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