第41話 上級ランカー
南の国境まで半分を切ったところでブレット達は行軍中の王国軍に追いついた。
どうやらワイバーン二体と交戦しているようだ。
元々この辺りでは鳥などの飛行系の魔物が生まれやすいのだが、まだ周囲に溜まった魔素は濃いようで、またワイバーンが生まれたらしい。
王国軍は守りを固め、ランカー三人が一人と二人に分かれてワイバーンをそれぞれ相手している。
「ペレは二人の方に。俺はもう片方をやる」
「はい!」
ブレットはペレを降ろし、指示を出す。
ペレが返事をすると、二人も散開し、それぞれの標的に向かう。
ブレットが向かった先にいたのは猿獣人の女性だった。
彼女の名はジュリィ。ブレットがドラギーユに来て唯一自分で認定した上級ランカーである。
「なんだ、こっちはジュリィだったか。なら助太刀はいらなかったな」
彼女の実力も知っているブレットは緊張を解く。
「ブレットさん! 遅かったですね」
「いいから早く倒せ。話はそれからだ」
「もうっ! わかりました……【跳躍】っ!」
【跳躍】はジギンの【瞬身】とは違い、踏切りの一瞬だけ発動するスキルだが、脚への負荷が少なく、反動もない。
彼女は手足が器用な種族であり、ブレットから着地の衝撃を上手く流す技術と、このスキルを活かした戦い方を教わってから一気に伸びた。全く同じ動きをブレットにスキルなしでされたときは唖然としていたが。
ジュリィは槍を構えて上空のワイバーンに向けて跳び上がると、そのまま顎の下の逆鱗を貫いた。
「見事だな」
「おかげさまで」
ブレットの賞賛を嬉しそうに受け取る。
「あっちも終わったみたいだな」
もう一体を見上げると、ちょうどペレの【火槍】がワイバーンを貫くところだった。
あっという間に二体のワイバーンが仕留められ、近くで見ていた王国軍から「おおっ」と歓声が上がる。
「アレ……ペレちゃん?」
「ああ。うかうかしてると抜かれるぞ?」
「そうは言っても上級に上がるには三年以上職員を務めないとダメでしょう?」
上級ランカーにはただ仕事をこなすだけでは上がれない。中級で一度職員になって指示・指導する立場を学んだ上でその実績と実力両方が認められてようやく昇格することができる。
ただし、性格や態度に難がある者は職員になることすらできない。
上級に上がるにはあらゆる面で手本となれなければならないということだ。
「なに、ペレなら最短で上がっていくと思うぞ。それにしてもジュリィが来てるとはな」
危険度的に上級ランカーが来ているとは思っていた。
「可愛い弟が頑張ってる姿をこの目で見ようと思いまして」
「なるほどな」
ジュリィはジギンの姉であり師匠だ。ジギンがいることを知って志願したらしい。
「この間は一人でこのワイバーンを六体も仕留めたんでしょう?」
「ああ。あいつが教えてるココットも新米にしてはよくやってる。コレが済んだらあいつも上級に上げてもいいかもな」
ブレットは率直にジギンを評価する。
「ふふ、家族が褒められるのは嬉しいものですね」
それをジュリィも素直に喜ぶ。
「ブレット、終わりました」
そこにペレが戻ってくる。
「見てたぞ。やっぱり普通の魔物には通用しただろ?」
「はい! サラちゃんのおかげですね」
サナトス山脈の魔物には魔法が効かず、消沈しかけていたペレの自信が戻っている。
「え? ブレット……って……ええっ?」
ジュリィはペレがブレットを呼び捨てにするのを初めて聞いて驚いている。
「奴隷からも解放できたし、全部終わったらサンドリアで挙式する。お前もジギンと来てくれよ?」
「ええええ!? ──って、驚いてばかりですみません。ブレットさん、ペレちゃん、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ジュリィは二人を祝福する。
「でも、まさかブレットさんが結婚するなんて……」
「ま、なるようになったってことだな。お前はどうなんだ?」
「上級に上がってからヘンな男しか寄って来ませんよ」
有名になった弊害のようだ。
「ふっ、ならジギンに先を越されるかもな」
「気にしてるんですから言わないでくださいよぉ」
ジギンに師事しているココットは偶に弟の顔を見にくるジュリィとも仲が良く、二人の進展も伝えてあるらしい。
痛いところを突かれたジュリィが情けない声を出す。
「あっ、ブレットさんも来てたんですね!」
ペレが仕留めたワイバーンを処理していた二人のランカーもやってきた。
「そりゃ、ペレさん一人じゃ来ないだろ」
虎獣人のガイナと獅子獣人のクロウ。どちらも中級ランカーでしょっちゅう言い争いをしているが、なんだかんだでほとんど行動を共にする名コンビだ。
ギルドでは「さっさと結婚しろ」といつもイジられている。
「なんだ、お前ら二人がワイバーンを任されてたのか?」
「ええ、どうやって仕留めようかと思ってたんですけど」
「ジュリィさんみたいに跳べないしな」
「「そこにちょうどペレさんが」」
「おう、お前ら早く結婚しろ」
あまりにも息の合いすぎる二人にブレットも呆れた。
一応話を聞いてやると、何もしないのは悪いと思い、処理を引き受けたらしい。
しっかりとジュリィが落としたワイバーンも収納袋に回収してきていた。
「よし、話の続きは進みながらにしよう。明日中には国境に着きたいしな」
おそらく帝国軍もジュノに迫っている。なるべく先んじて国境に着き、情報収集と整理をしておきたかった。
ブレットが促すと、ジュリィが王国軍に行軍再開を告げ、国境へ向けて進み始めた。
お読みいただきありがとうございます。
騎士団長のレオンもいるのですが、ブレットが何もしなかったのと、ペレの魔法が目立っていてまだ気付いていません。
レオンとの絡みは次回。




