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第40話 戦争に向けて

 ブレットとペレにダンの三人がドラギーユに到着したときには既に国内は戦争と活性化に向けて動き出していた。

 騎士団長のレオンと討伐ギルドのミーナはブレットと同じ判断を下した。

 活性化に対する守りを討伐ギルドが受け持ち、騎士団を中心に結成された王国軍は国境へ。ただし、南は人の行き来が減っていた為、念を入れて討伐ギルドから数名王国軍の護衛に付いていた。

 そして、そのまま国境でジギンと合流し、砦のドラギーユ側で活性化に備える予定だ。



 ブレットとペレは王城とギルドで状況を確認すると、出発していたドラギーユの王国軍に合流すべく、南の国境へと向かっている。


 魔族の里を出てからここまで僅か一週間しか経っていない。

 その間、起きている時間のほとんどで走っていた。



「──ット、 ブレット!」


「ん? ああ、ペレどうした?」


「いえ、思い詰めた顔をしていましたので……それにいくら呼んでも反応がありませんでしたし」


「すまねぇな。ちょっと考え事をしてたんだ」


「考え事……狙いがブレットと仰られていたことですか?」


 ブレットにしがみついたままペレが問いかける。


「いや……まぁ、それもあるが……『俺』を中心に考えると、全てはシェン──古龍討伐の依頼が始まりだったような気がしてな」


 仲間達とただ魔物を討伐していた若き時代から、古龍を討伐したことによって周囲の環境も自分も大きく変わった。


 活性化にしてもそうだ。古龍が死に、シェンとなってから起こるようになったが、それはダークエルフが起こしていたことのようだ。


 つまり、古龍という存在が枷となっていたのを解いてしまったのではないか。それすらもダークエルフの狙いだったのではないか。


 そう考えると、そもそも古龍討伐の依頼は【催眠(ヒプノシス)】によるものだったのかもしれない。


 そういう思考がブレットの頭の中を駆け巡っていた。


「それならば、本人に直接聞きに行けば良いのです」


 ブレットの考えを聞いたペレは真剣な眼を向けてそう言った。


「ぷっ……あっはっはっはっ!」


 ペレの突拍子もない提案にブレットは思わず立ち止まって吹き出し大笑いする。


「最前線どころか帝国に乗り込めってか。ペレもなかなかぶっ飛んだことを言うな」


「帝国軍はおそらく【催眠】されているのでしょうから、それを解除してしまえば戦わずして帝国に向かえるのでは?」


 ペレはブレットが悩んでいる間、心配しつつもしっかりと自分なりに状況を分析していた。

 そのことにブレットも嬉しくなり、ペレを抱える腕に力が入る。


「どうやら俺よりペレの方が冷静みてぇだな。そのことをすっかり失念していた」


 過去のことへの思考に入り込みすぎて目の前の事を把握する、ということが抜け落ちてしまっていた。

 ペレの考えが腑に落ちたことでブレットにも本来の冷静さが戻ってくる。


「ふふっ。もっと頼られる妻になってみせます」


「そうだな。それにシェン達にも頑張ってもらわねぇとな」


 恐らく帝国軍は数万規模だろう。それら全ての【催眠】を解除するとなるとペレの言う全く戦わず、というのは難しいだろう。

 どの程度人同士がぶつかり合うことになるかはシェン達【催眠】を解除できる精霊達にかかっていた。


『まっかせてー! 僕たちも頼っていいからね!』


『ああ。頼んだぞ、シェン』


 シェンは相変わらずブレットに頼られると嬉しそうだ。

 それに今は見えていないが、ペレの肩の上でウンディーネも嬉しそうにしていた。



「それで……ブレットにお願いがあるのですが」


 普段あまり願望などを言わないペレは照れくさそうに口を開く。


「ん? なんだ? 言ってみろ」


 滅多に見せないその姿を可愛らしいと思いながら、ペレが何を願うのかと期待する。


「色々終わって落ち着いたら……挙式というのをやってみたいです」


 モジモジしながらそう言うペレは、先程の「妻になる」発言の続きが言いたかったらしい。


「ペレ……それは構わないが、そういうことは今みたいな状況で言うもんじゃない。ロクなことにならないからな」


 所謂死亡フラグを口にするペレを宥めようとするが──


「わかってて言ってるんですよ? ブレットとならそういう悪い因果を超えられるんだって示したいんです」


 それはペレのシャーロットへのささやかな挑戦だった。

 ブレットもペレがわざわざそういう言い回しをしたことでそれに気付いた。


「ふっ。なら、サンドリアの大聖堂で大々的にやろうじゃねぇか。それまでは何があっても俺がお前を守る!」


「私だってあなたを守りますから!」


 二人は決意を新たに南の国境を目指した。


お読みいただきありがとうございます。


第三章です。よろしくお願いします。

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