第39話 舞台の中心へ
「帝国軍がジュノに向けて進軍を開始した」
サンドリア王の最初の情報は既にブレットがウィスプから得ていた情報よりも詳細だった。
ウィスプは声を聞くことができなかった為、帝国の目的まではわからなかった。
だからこそペレも魔物対策ではないかと僅かに希望を挙げていたのだが、その線はなくなった。
「なぜわかった?」
それにしても情報が早すぎる。【疾風】最速のダンが伝えたことから逆算しても、その情報を得たのは少なくとも三日前だ。
「ジュノに帝国のスパイがいたらしい。お前の言っていた【催眠】を掛けられていた者が国境の情報を流していたようでな。それが解けたことで発覚した」
【催眠】が解けた者が接触してきたスパイを守備隊に突き出してくれたらしい。そのスパイから話を聞きだした。
そして、ダンと共に残っていたジギンがジュノ側の守備隊への情報の共有に動き、ダンをドラギーユの王城まで走らせた。
「なるほど」
『シェンが飛び回ってくれたおかげだな』
『えへへー』
あのとき砦間の人間に手当たり次第にシェンの加護を与えていたのが功を奏した。
それがわかると、肩に乗るシェンに顔を向けて礼を言う。
「ブレットの話してくれた【催眠】の性質的にジュノは既に落ちているとみていいだろう。だからドラギーユの防衛にこの国の騎士と討伐ギルドのランカーを送りたいと思っているのだが、どうだ?」
「そいつは……無理だな」
サンドリア王の依頼を拒否すると、王の顔が歪む。
「何が起きている?」
ブレットが理由もなくそんなことを言わないと知っている王は怒ったわけではなく、迫り来る危機を察したようだ。
「活性化が始まろうとしている。討伐ギルドはその鎮圧に動くことになるだろう」
「えっ!?」
ブレットの言葉に反応したのはダンだ。活性化の規模によっては大陸中が危機に陥る。
ギルド職員としてその歴史を知っているが故にそれは聞き逃せないことだった。
そして、当然それは国王も同じだ。
「バカな……このタイミングでか」
「そうだ。こっからは俺からの報告だな。どうやら活性化は意図的に起こせるものらしい」
そう言ってブレットはウィスプのこと、ダークエルフのことを説明する。
「そのダークエルフは何の為に活性化を……?」
「わからねぇ。だが、ウィスプが言うには皇帝はそいつを残して自ら出ているらしい。残ったのはおそらく大陸中に活性化を起こすにはそれだけ集中が必要なんだろう」
「皇帝自らだと!?」
その情報はなかったらしく、国王も驚く。
「ああ。正直何が狙いなのかさっぱりだ。帝国が今戦争を起こすメリットはなんだ?」
ブレットに問われ、国王も落ち着きを取り戻し、顎に手を当て考える。
「うーむ…………前の戦争など私が生まれるより以前のことだからな……。戦争のメリットはわからないが、事の発端というか、狙いはブレットじゃないか?」
「俺か? なぜそう思う?」
国王の予想にブレットも首を捻る。
「なんとなくだが……お前がこの国を離れてから色々と動いていないか?」
そう言われてブレットも腕を組む。
「ドラギーユで南と連絡が途絶えたのが二年前。その前から動いていたんだろうから……まぁ、確かにそうとも言えるな」
「どうする? 活性化も起こるというのならドラギーユも魔物と帝国と同時に相手にするのは難しいのではないか?」
サンドリア王は友好国であるドラギーユを自国よりも心配する。
それは活性化に対しては討伐ギルドに信頼を置いているからであった。
「どうするったってなぁ。討伐ギルドの立場的には戦争は知らねぇって言いたいんだがな」
「そう言って最前線にいるのがブレットですよね」
「ペレ!」
「私もお供しますからね」
「はぁ。やれやれ。一先ずはドラギーユに戻らねぇとな。この国は守りを固めてくれ。帝国が何を狙ってるにせよ魔物の活性化の方がここは影響がありそうだ」
ペレに見透かされて頭を押さえつつも、冷静にサンドリア王に国の防衛を託す。
「そうだな。だが、救援が必要ならすぐに言ってくれとドラギーユ王にそう伝えてくれ」
「わかった。よし、ペレ、ダン、行くぞ」
「はいっ」
「休んでる場合じゃなさそうですねぇ」
ブレットがそう言って立ち上がると、ダンも立つ。恨めしそうな言葉とは裏腹に、表情は真剣そのものだ。
そして、ダンはここへやってきたときにはいなかった魔物に驚きながらドラギーユへ戻ることになった。
ただ、やはりサンドリア・ドラギーユ間は元々人通りが多いこともあり、そこまで集まっているわけではなかった。
なので、移動はブレットがペレを抱えてダンのスピードに合わせて進むことができた。
そのドラギーユへの道中、ブレットの頭にはサンドリア王の言った「狙いはブレット」と言う言葉がずっと残っていた。
お読みいただきありがとうございます。
これで第二章終了です。
次回から帝国編に入りますのでよろしくお願いします。




