第37話 もう一人の不死者
「こいつがここの魔族じゃねぇってんなら聞きたいことは大体聞いたんじゃねぇか? ペレはどうだ?」
目の前に広げたダークエルフの遺体を一瞥し、ペレに問いかける。
「そうですね……これ以上は……はい」
知りたいことというより今回聞いたこと全てが普通では知りえないばかりで認識と整理が落ち着かない様子だ。
「シェンたちはどうだ?」
精霊達にも振る。
「むしろあたしも知らないことばかりよ。耳長族だなんての初めて聞いたわ」
ウンディーネもペレと同様なようだ。
「オレも、なイ」
サラマンダーはちゃんと理解できたのか少し怪しい。
「ねーねー。そのエルフが僕のこと知ってたのは魔族が知ってたからなの?」
「そういやそんなこと言ってたな。古龍の血に特殊な力があるってのは魔族は知ってたのか?」
シェンの疑問にブレットも重ねて問う。
「そうだな。お前のドラゴンとしての肉体は特別だった。その血の効果はブレットがよくわかっているだろう? そして、確かに魔族は皆それを知っている」
やはり当時普通の耳長族だった始祖ハイエルフへ古龍の血のことを教えたのは魔族のようだ。
「いや、当時と俺のときとでは効果が違うんじゃなかったか?」
「うん。そのエルフは四千年くらいで死んじゃったみたいだよー」
シェンが改めてそのことを告げると、ウィスプの方が慌てる。
「バカな! 長く生きれば精霊化するほど魂は昇華するかもしれぬが、肉体は変化などしないはずだ! 言われてみればあの耳長族が死んだというのがそもそもおかしいではないか」
ウィスプ曰く、始祖ハイエルフも不死となっていなければおかしいらしい。
「あの……もしかして……お腹の子供に受け継がれた、ということはありませんか?」
「!?」
ペレの意見にブレットやウィスプも驚く。
「あり得……るのか?」
「その血の力の大半をその子が……なくはない……か?」
ウィスプもその可能性を否定できないようだ。
「つまり、どういうことなの?」
「始祖ハイエルフの子のダークエルフが不死か限りなくそれに近いものになってまだ生きてるかもしれねぇってことだ」
理解の追いつかないウンディーネの疑問にブレットが答える。
「ブレット、この件……任せてもいいか? 生きていたとして、何をしようとしているのか。その目的もわからぬ」
「ったく、しゃあねぇ。と言いてぇとこだが、せめて本当に帝国にそいつがいるかどうかくらいは調べてくれ。いくらなんでもアテがなさすぎる」
調査を依頼してくるウィスプに先程丸投げされたことを協力させる。
「それもそうだな。一日くれ。その間に帝国を【視て】みよう」
「わかった。どの程度視れるんだ?」
「姿を偽装しているならそれを見破るくらいはできる。さすがに魔族が暴走しないよう抑えている今はそれが限界だ。会話は聞けないからそれは容赦してくれ」
ウィスプは今は常に活性化に対する警戒をしている状態らしく、完全に世界を把握することはできないそうだ。
【視る】だけでも今回のように帝国という範囲に絞って行うのが精一杯らしい。
「ま、ここの魔族に暴走されちゃたまらんからな。それに周りの魔物もな」
「そうですね。今この状況でそれは勘弁願いたいです」
ブレットにペレも同意する。
「では、戻ったら王をここに呼んでくれ。泊まらせろと言わないとあいつは泊めてくれぬからな」
「面倒なやつらだ。だが、家に入れたりするくらいだ。意思も少しはあるんじゃないか?」
ここへ入った流れを思い出す。王はブレットの意見を聞いてウィスプの指示を仰ぎに行ったりもしていた。
「そうだといいんだが。まぁ、顔見知りというのもあったのだろう」
「仲良くなれたってことか?」
ブレットが皮肉混じりに返す。
「さぁ、どうだろうな。時間はある。また王と話でもしてやってくれ」
そう言われて、全く噛み合わなかった会話を思い出して頭を抱えるブレットであった。
お読みいただきありがとうございます。
やはり短いです。
二話でまとめるとはなんだったのか・・・




