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第36話 ダークエルフ

「まさか、そこまでとんでもない存在だとはな」


 一通り黙ってウィスプの語る世界の創生を聞いていたブレットが口を開いた。


「話したのが初めてだからな。知っているはずがない」


「そうか……。なら、活性化もお前が起こしていることなのか?」


 魔物を生み出せるのなら操る事も可能だろうと思ったのだが──


「活性化とは魔物が暴走する現象のことだな? 確かに私や私の生み出した魔族には可能なことだが、私ではない。かといってここにいる魔族でもない。そもそもそうする必要がない」


「そうだよな。ここを見る限りそんな感じだ」


「実際、魔族達や周囲の魔物を抑えるので手一杯になったくらいだ。原因がわかるなら私も知りたい」


 精霊は本音を隠すことはあっても嘘は言わない。

 それを知っているブレットはウィスプの言葉に腕を組んで考える。


「なんか心当たりはねぇのか? 外で魔族を見たってのは王から聞いてるか? そいつらが何かしてるんじゃねぇかとここに聞きにきたんだが」


 本来の目的とも関わりがありそうだと、そちらのことも言っておく。


「そんなはずはない。私が生み出した魔族は全てここにいるからな」


 ウィスプは王のときのような間はなく、淀みなくそう言った。


「ん? 王にいなくなったやつがいないか聞いたときは妙な反応をしたんだけどな」


 ブレットもその反応に違和感を持った。


「それは……初めて暴走したときに死んでしまった者達のことだろう。暴走のことも忘れさせているからそれももう話さないでやってほしい」


 忘れた記憶を揺さぶられると万が一思い出した場合にどうなるかわからないから、とウィスプは続けた。


「わかった。じゃあ、外にいたやつを見てくれ。先に言っておくが、やったのは俺たちじゃねぇ。ワイバーンに襲われたんだ」


 そう言って回収していた魔族の一体を収納袋を解放して見せる。


「これは……」


「どうだ? 魔族だよな?」


「わからないのも無理はないが……こいつは魔族ではない」


「なに!?」


「よく見てみろ。こいつが耳長族の血を引いているのがわかるはずだ」


 ウィスプに言われ、その頭部を改めて確認するブレット。

 確かにここに住む魔族の耳とは異なる。見覚えのある形の耳だ。


「耳長族ってのはエルフのことか?」


 その頭部のそれはエルフの半分もないサイズだが、形状はエルフのものとそっくりだった。


「そうだな。お前が以前にここへ来たときよりも遥かに昔、耳長族──そのエルフはやってきた」


「始祖の話か。やはりここに来たんだな。何をしに来たか聞いてもいいか?」


「私は会わなかったが王が聞いた話だと、自分たちだけで生きる力を得る為に旅をしていたらしい。当時のエルフはまだ耳長族と呼ばれていて、個人主義の強い亜人だった」


「確か始祖ハイエルフが一族をまとめ上げた……って話を聞いたことがあるな」


 それはシャーロットから聞いた話だ。ただそれ以前がどうだったのか、という話は残っていない。


「うむ。人間から離れた耳長族はその性質からすぐに色々な問題に悩まされた。我が強く、協力して何かをする、ということができない。彼らも他のいなくなった亜人と同じ道を辿るはずだった」


「シェン……いや、古龍か」


「そうだ、私が魔族達を生み出すより遥かに以前にここに生み出した初期の魔物だ。まさかこんな姿で戻ってくるとは思わなかったがな」


 ウィスプはシェンを見ながらしみじみとそう言った。

 シェンも珍しくずっと静かに話を聞いている。


「それにしても……こいつがエルフの血を引いているにしても、魔族の血も引いてるってことだよな?」


「それは私も驚いている。確かに雌雄はあるし生殖も可能なのだが……」


 魔族はイーリスの生み出した生命を真似て生み出されているので、身体的には人間に近い。


「そういう欲求がない、か」


「そう。生殖とは種の存続の為の行為だ。その機能があろうと必要がなければすることもない」


 だから長寿種族ほどその頻度は減り、妊娠もし難い。


「そのエルフはどれくらい滞在したんだ?」


「三日ほどだったな」


「そうか……」


 当時まだエルフは長寿ではない。始祖も普通の耳長族だ。

 だから種の存続の危機に直面していた彼女が妊娠できたとしても不思議ではないのだが、後のエルフであるシャーロットとの二年を思い出してしまったブレットだった。



「それで、仮にこいつらがその子孫だったとして、ウィスプが授けている魔法を受け継いでいるってことはあり得るか?」


「試したことがないからなんとも言えないが……人間を見る限りあり得るだろうな」


「それは……スキルの話か?」


 親と子で同じスキルを持つ、というのは割とよく聞く話だ。


「そうだ」


「ん? いや、ちょっと待て。スキルって洗礼で与えられるもんじゃねぇのか?」


 ブレット知る限り、洗礼の儀式を受けることで、スキルとその用途が頭に浮かんでくる。

 ブレット自身がそれを経験しているからこその疑問だった。


「正確には違う。洗礼によってその素養を開花させるのだ。だからそれ自体は生まれたときから決まっている」


「そういうことか。それもイーリスって精霊がやってるのか?」


「いや、私の魔物が生まれるシステムのようにイーリスが残したシステムだ。イーリスがいなくなっても続いているだろう?」


 神からの洗礼として儀式を行っているのにその神は既にいない、という皮肉にブレットも苦笑いしかできない。


「そういやそうだな。んじゃ、別の質問だ。なんで外のことを知ってたり知らなかったりするんだ?」


 全て知っていてくれれば、と思ったがそうでもないようだ。


「言ったはずだ。ここで魔族達を見ていられればいい、とな。だから外のことは昔ほど頻繁には見なくなった。それだけだ」


 ウィスプは始祖のその後の行方はエルフの里からしか知らなかったし、シェンのことも死んだことすら前回ブレットと一緒に精霊となって来るまで知らなかったらしい。


「そうか。今から見る、ってできねぇのか?」


「お前の話だと姿を隠しているのだろう? ならば見る、ではなく探す、になってしまう。それは手間だ」


 できないわけではなさそうだが、そこまでする義理はない、とでも言いたげだ。


「そうかい。まぁ、元より探し回るつもりだしな」


「なら、南の方へ行くと良いだろう。今は帝国だったか。あそこが隠れるには一番だろう」


「なるほど。エルフと魔族の混ざった亜人なんてそうそう住めるもんじゃないからな。なんでもありなあそこなら可能性はありそうだ」


 帝国とはジュノよりさらに南西にある国で、大陸で唯一世襲制を採用していない国でもある。

 そんな国だからこそいろんな種族が集まっており、人口もサンドリアに引けをとらない。

 少数で隠れるならここほど隠れやすい国はない。


「そういうことだ。この見た目……ダークエルフとでも呼ぼうか。ダークエルフは他人の認識も変えているかもしれない。それにもしかしたら……」


 ウィスプは魔族とエルフのハーフにダークエルフと名付け、その能力の予想をする。


「もしかしたら?」


「もし親が王なら統率する魔法も使えるかもしれない」


 始祖を泊めていたのは王だったらしい。


「おいおい、そいつは厄介だな」


 向かうにしても準備が必要になりそうだと頭を掻くブレットだった。




「他に聞いておきたいことはないか?」

お読みいただきありがとうございます。


昨日更新できなくてすいません!

二日かけてやっとこの量です・・・

まだしばらく短い話が続くかもしれません。

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