第35話 ウィスプは語る
今回全て闇の精霊ウィスプの語りです。
その昔、世界には大地と魔素だけがあった。
そこに二体の精霊が生まれた。
一体は私。そしてもう一体、名前をイーリス。光の精霊だ。
そして私達の誕生に呼応するように沢山の精霊が生まれ、何もなかった地を土の精霊達が変化させ、火の精霊達が火山を創り、風の精霊達が発生させた雲から水の精霊達が雨を降らせて川を造り、それがやがてこの大陸を囲う海となった。そして、この世界に全ての精霊の力で植物が生まれ始めた。
その緑豊かな地となったこの大陸に、私は魔素から魔物が生まれる仕組みを創り、イーリスは自ら生殖する動物を造った。
私はそのまま魔物と動物の楽園でいいと思っていたが、イーリスは違ったらしい。
私の生み出した魔物を排除しようと動き出した。
だが、動物では魔物には敵わず、しかも魔物は魔素のある限り生まれてくる。
それを知ったイーリスは動物と同じく生殖し、且つ自分たちで思考する、また、感情というものを持った人間を造り出した。
残念ながら、その人間は集落を作り、身を守るということは出来ていたが、魔物を倒すには至らなかった。
そこでイーリスは更にそれを発展させ、特殊な能力を持つ亜人と動物の身体能力を持つ獣人を誕生させたのだ。
そして、イーリスは自らを見ることのできる人間に神を自称し他の人間を統率させると、集団としての利を活かせる人間、各個の能力を活かす亜人・獣人という構図が出来上がった。
それらが協力し合って魔物を減らし、一部を除いて魔物がほとんど生まれない、というところまできた。
イーリスもそれに満足したらしく、それ以上種族を増やすということはしなくなった。
私も魔物を増やしたいと思っていたわけではないし、別にイーリスに対抗しようとも思わなかった。
だからそれからはしばらく平和な時期が続いていた。
だが、人間の数が増え、各地に住むようになると、人間は人間同士で争いを始めた。
その理由は様々だったが、それに愛想を尽かした亜人たちがそこから離れていくと、人間たちはあろうことか亜人を否定し始めたのだ。
だが、これは人間だけが悪いわけではない。攻められているのに協力しなかった亜人もいたしな。
それに人間としても、彼らがいる間はちゃんと亜人にも地位があったし、場合によっては亜人の方が立場が上にいることもあった。
だから裏切られたと感じた人間もいただろう。
そこから先は知っているだろう?
知らないであろうことを言うならば、亜人には人間の協力なしに生きてはいけない種族が多く、彼らはもう残っていない。
残っているのはペレ、君のような生きる為の能力を持った生命力の高い種と、エルフという例外だけだ。
話を戻そう。愛想を尽かしたのは亜人だけではない。
イーリスだ。
彼女は人間が争いを始めた頃にはその存在を感じなくなっていた。
私でももはやイーリスがどこにいるのか、今もまだいるのかどうかわからない。
彼女を感じなくなって、私は寂しいと感じたのだろうな。魔族を生み出したのはその頃だ。
イーリスの造り出した亜人は人間のように生殖する生命だが、私は魔物と同じ方法で魔素から生み出した。
だからペレ、君と魔族は全く異なる存在なのだ。
そして、先程言ったように、魔族は人間のような姿をして言葉を発していても意思や感情はなく、魔物のように本能で行動した。
襲われれば牙を剥くし、それでなくとも人間を襲ってしまう。
だから私はそれを忘れさせ、自分たちが亜人であると錯覚させる魔法を授け、お互いに掛け合うようにした。
そして、更に人間を参考に創った他者を統率する魔法を与えたのがあの王だ。
それともう一つ、人間は向上心があり、自分たちより強い魔物にも立ち向かったが、魔族は本能で敵わないと悟ると抗おうともしなかった。
私が周囲に得意な魔法の効かない魔物を配置すると、彼らはここから動くことをあっさりと諦めてしまった。
だが、私はこれでいいと思っている。
彼らに強くなってほしいと思っていたこともあったが、今は彼らが醜い争いをせずここで生きてくれれば、それを感じていられればそれでいい。
これもイーリスがいなくなってしまったから、なのだろうな。
できればお前達もここのことはそっとしていてくれると私も嬉しい。
その代わり、他に聞きたいことがあるならば知っている限り話してやろう。
お読みいただきありがとうございます。
今回世界の始まり的なことを今までやったことない形式で書いてみたのですがいかがでしょうか?
まだちょっと安定して時間が取れません。
落ち着いたら前の文字数に戻ると思います。




