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第33話 魔族の王

「気味(わり)ぃな……」


 魔族の里に着いて、ブレットが呟く。


「どういうことですか?」


「そのままなんだ」


「そのまま?」


 ブレットの言葉の意味が分からず、オウム返しで問うペレ。


「千年前と何一つ変わってねぇ。前に来たのがつい最近だったかと思っちまったくらいだ」


 魔族達がブレット達の気配を察して家の中に隠れてしまっているのも含めて、だ。


「そんなこと……あり得るんですか?」


「魔族は魔法が得意だ……。それで維持できるのかもしれねぇが、それでも千年もあれば増えたり減ったり、それこそデカくなったりするもんだ」


「そうですね。いくら閉鎖的でも少しくらいは発展しますよね」


「ああ。来てすぐに変わってねぇのがわかるって相当だろ? たしか王の家があっちにあったはずだ。行ってみるぞ」


 魔族の王といっても、人間で言う村長のようなものだ。

 だが、それでも周囲は王として崇めていた。


 その王の家は切り立った岩山の壁面から飛び出すような形に作られていて、その奥に短い洞窟があり、そこに精霊がいるらしい。

 ブレットが前回やってきたときにはそこまでは聞くことができたが、中には入らせてもらえなかった。


 そして、その王の家の前に来ると、ブレットはその戸を叩く。


「お前は……ブレットか」


 出てきたのは暗く青白い肌にユニコーンのような長いツノの生えた男。髪もやや色素が薄く、全体的に負の雰囲気を纏っている。

 その男は一目でブレットと気付く。


「俺を知ってるのか?」


「何を言っている? 前に会ったであろう?」


 ブレットは魔族も既に代替わりしていると思っていた。

 だが、目の前の男は千年前に会った魔族の王だと言う。


「あの時の王か、確かに同じ顔だな。お前たちも寿命が長いんだな」


「寿命とはなんだ?」


「む? 寿命を知らねぇのか? 魔族だって歳をとったら死ぬだろう?」


「歳をとる? お前は何を言っているのだ?」


 全く話の噛み合わない二人。

 前回も似たようなものではあった。魔族は常識というものを知らない。

 それは閉鎖的な種族だから仕方ないと当時は思ったブレットだったが、さすがに今回はその異常さに疑問を持った。


「なぁ、そろそろ入ってもいいか? 玄関先で話し込むのもだりぃだろ?」


「だりぃというのもよくわからないが、そうだな。中に入ることを許そう」


 疑問をぶつけていくとこのままずっと立ちっ放しになりそうな空気だったのを嫌ったブレットが切り出し、室内に入る。


 家自体もそうだが、家具や窓までも全て木製だ。

 前に作り方や誰が作ったのかを聞いたのだが、なぜかはぐらかされた。

 それに関しても当時のブレットは秘密の魔法なのだろうと深く突っ込んで聞くことはしなかった。


 王の家とは思えない普通のテーブルとその周りに用意されたイスに三人で腰掛け、話に戻る。



「んで、お前たちに変化って言葉はねぇのか?」


 そのテーブルとイスも前に使った記憶のあるものだった。


「? 変化とはどういう言葉なのだ?」


 王のその言葉にブレットはまた頭を抱えた。


「流石にこれは……驚きというか……なんでしょう、言葉が見つかりません」


 あまりの会話の成り立たなさに、ペレも困惑する。


「だろ? 前も聞き出すのが大変だったんだ。【催眠(ヒプノシス)】って魔法名もシェンが付けたんだ」


 そう、彼らが使う精霊から授かる魔法には名前がない。その効果を聞いたシェンがそれらしい名前を付けて、そう呼ぶようにしたのだ。



「それで、ブレットは何用で来たのだ?」


 王はブレットとペレのやり取りにも全く表情を崩さずに来訪の目的を問う。


「ここの精霊に会わせてもらう。これは許可を取りに来たわけじゃねぇ。必要なことだ」


「なぜだ?」


「ここ最近、いなくなったやつがいねぇか? 外に魔族がいたんだが」


 ブレットの目的に疑問を持つ王に逆に問いかける。


「そんなはずはない。────誰もいなくなってなどいない」


 否定する王だが、その答えの前に不自然な間があった。


「なら、精霊様に聞いてくるといい。俺たちはここで待っている」


 強行突破は最終手段だ。面倒だと思いつつも王を精霊の元へ行かせる。


「そうだな。少し待て」


 そう言って王は奥へ消えていった。



「変な間がありましたね」


 ペレも王の不自然さに気付いたようだ。


「ああ。【催眠(ヒプノシス)】に掛かったような反応だったな」


「えっ。身内に掛けてるってことですか?」


「わからねぇ。掛けられた、のかもしれねぇしな」


 王主導ではない可能性について言及する。



「魔族って……誰の言うことを聞くんでしょう?」


「まずは王、そしてその上に精霊がいる感じだな。王は精霊が見えるらしいから、精霊の話を他の奴らに伝える役目みたいなものだ」


「なんだか、王様って感じじゃないですね」


「そうだな。俺もそう言ったんだが、あいつが王って決まってると言っていた」


 魔族は不思議な種族だ。精霊に言われたことは絶対らしく、逆らうことなく受け入れる。

 今も精霊がブレットと会うと言えばすんなり会わせてくれるだろう。


 事実、戻って来た王は「精霊様が会うそうだ」とブレットたちを精霊の元へと案内してくれた。


「この奥に精霊様はいる。私は出ていろと言われたので家に戻る。終わったならまた声を掛けるが良い」


 王はそう言って離れていった。


「いくか、ペレ」


「はい」


 二人は声を掛け合って精霊の待つ奥へと進んだ。

お読みいただきありがとうございます。


本業の方に影響が出始めてしまったので少し短めです。

厳しそうであればちょっと今章で間を開けるかもしれません。

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