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第32話 古龍と始祖ハイエルフ

 二人はそれからまた次の洞穴まで進んで休み、その次の日、ブレットがシェンと戦った辺りまでやってきた。

 その進むペースはブレットが過去に二度登った時よりも遥かに早い。

 それは古龍の槍の威力のおかげでもあった。

 途中何度か魔物との遭遇もあったが、ほとんど苦戦することなく蹴散らしていた。


「シェンと戦ったのはこの辺だったよな」


「えっ?」


 ペレはブレットとシェンが戦ったというのは初耳だった。


「そーだねー。あれは楽しかったなぁ」


「シェンはその姿からドラゴンだとはわかりますが……」


「ん? そういや言ってなかったか。というか、シェンもできるようになったのか?」


「うん、二人に教えてもらったんだー」


 ペレの反応でシェンが見えていることに気付いたブレット。どうやらシェンも繋がる秘術を覚えたらしい。


「シェンすごイ。すぐ覚えタ」

「さすが伝説の古龍(エンシェントドラゴン)よね」


 サラマンダーとウンディーネはブレットがシェンと戦った時にも当然シャーロットに同行していて精霊化してすぐに会っている。


「え? 伝説の古龍?」


 詳しくは知らなかったペレはポカンと口を開く。


「千年前、二度ここへ来たんだ。一度目が古龍の討伐だった。そしてシェンはその時精霊になって、俺は古龍の血を飲んで今の死なない体になった」


「そうだったんですね……。ドラゴンが死んで精霊になるなんてことが……」


「シェンは千年前の時点で伝説って言われていたからな。何千年も生きた龍だったんだ」


「何千っていうか一万年は生きてたんじゃない?」


「他人事みたいに言うわね……精霊としてはあたしが先なんだけどさ、ずっとエルフの里にいたあたしが知ってるくらいだったわよ」


 ウンディーネもあまりに軽いシェンに呆れたように言う。

 彼女はエルフの里に生まれてからシャーロットに連れ出されるまでずっとそこにいた。

 あまり外に出ないエルフの里にすら古龍の知識があるくらいだったらしい。


「そ、そんなに……よっぽどお仲間が強かったのですね?」


 ペレはようやく知ることができた真実のスケールの大きさに驚き焦り出す。


「ブレットは僕のところに来たときは一人だったよー?」


「ふぇっ!?」


 シェンのトドメを刺すような話の展開にペレもいつもの冷静さがない。遂には変な声が漏れてしまう。


「まぁ、仲間に恵まれていたのは確かだ。ただ、俺の戦い方は一人の方がやりやすくてな。俺は消耗しないように戦闘に参加せずにここまで来たんだ」


「わ、私はブレットに半分任されるくらいになってみせますから!」


 なんとか気持ちを立て直し、宣言する。


「ふっ、今はそれを期待してる。始めは家事だけ頼むつもりだったんだがな」


 ブレットがそう言うと、ペレはエヘヘと頬を掻く。


「それにしても、シェンは良かったわね。いい名前を付けてもらえて。あ、ペレもブレットが付けたんだっけ? ペレもいい名前よね」


「えへへーいいでしょー」


「ありがとう。でも、どうして?」


 唐突に名前のことを持ち出したウンディーネは昔のことを思い出したらしい。


「昔は酷かったのよ! 狼にモフモフって付けたり、巨大鳥にパタパタって付けたりね!」


「おい……それはもう忘れてくれ」


 ウンディーネの暴露に頭を抱えるブレット。


「それは……なんていうか独特ですね……」


「ペレ、無理しないでダメなものはダメって言っていいのよ」


「まぁ、遠慮はするな」


「は、はい」


 ペレも勢いに押されて思わず返事をしてしまった。




「そういや、俺以外には誰もここへは来てないのか? あ、始祖ハイエルフが来たんだっけか」


 ブレットは昔の話でふと思い出してシェンに問う。


「そうだねー。龍のときに会った人は二人だけだね」


 シェンは既に結構な時間サラマンダー・ウンディーネと繋がっているが、全然平気そうだ。

 やはりこれも精霊としての力の差が出るらしい。


「始祖ハイエルフも一人でここへ来れるほど強かったんですか?」


 道中を思い返しながらペレが問いかける。

 普通に考えて今のブレット並みの力がなければここまで辿り着けない。


「んーん。彼女はねー気配を隠すのが上手かったんだ。僕も一度目は気付かなかったんだー」


「何? 彼女ってことは女か。そいつは何度か来たってことか?」


 今まで聞こうとしていなかったことだが、聞いてみると気になって確認を入れるブレット。


「僕もね、彼女にそう言われただけなんだけど、向こうに行って戻ってきたみたい」


 シェンは短い手でブレット達の進行方向を指差してそう答えた。


「ってことは、随分と昔に始祖は魔族の里に行っていた……? そんな前から魔族はいたのか?」


「あの時も言ったけど、あそこのことは僕も知らなかったんだよね」


 あの時、とはブレットと魔族の里に行ったときのことだ。

 シェンは古龍であったときには魔族の里を認識できていなかったらしい。


「それで、なんで戻ってきた始祖に血を与えたんだ?」


「向こうは僕のこと知ってたみたいでさ。頼まれたんだよね。特別な力があるからって。なんか面白そうだからあげたんだ。それで僕も初めてわかったんだけどさ」


 ブレット達が伝説として知っていたように、始祖ハイエルフも古龍のことを知っていたらしい。

 そして、シェンが血を与えたのは興味本位だったようだ。


「なんにせよ、魔族の里にいる精霊に聞いてみるしかないな。その時からいるかどうかはわからんが」


「何か関係あるんでしょうか……?」


 ペレはブレットがただの興味でそう言っているわけではないと気付くが、意図はわからない。


「意外とあるかもしれねぇぞ?」


「ブレットのこういう勘は当たるのよね」


「ディーネちゃん……ちょっと悔しいです」


 ウンディーネがブレットを理解していることに嫉妬するペレ。


「なに言ってるの。アンタは昨夜もその前もあんな仲良く寝てるし……そっちの方が羨まし……じゃなくて、ペレはこれから知っていけばいいのよ」


 思わず本音が出かかるウンディーネはそれを押さえ込んでペレを叱咤する。


「ありがとう、ディーネちゃん」


 ペレの素直な感情を向けられ、ウンディーネはモジモジと照れる。



「それじゃ、ここからはほとんど下りだ。登りよりも足元に気を付けろよ?」


「わかりました!」


 それから三日かけてブレット達は魔族の里に辿り着いた。

お読みいただきありがとうございます。


ようやく本命の里に着きます。

二話程でまとめたいとは思っています。

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