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第27話 シャーロット 後編

「えっ? シャーロット?」


 シャーロットの突然の提案に不安そうな声を出すウンディーネ。


「あなたもわかっているでしょう? あなたはエルフの里に戻って次のエルフを待たなければならないの。だから、ブレットにこの子をエルフの里に連れて行って欲しい……ダメかしら?」


 ウンディーネはエルフの里の中で聖域と呼ばれる、エルフが毎日祈りと共に魔素(マナ)を注ぎ続けた湖から生まれた精霊で、常にエルフの側で自分とエルフの魔素(マナ)を循環させて取り込むことで本来の力が発揮できる。

 なのでパートナーはエルフから相性の良い者が現れるまで待つのがしきたりとなっていた。


「シャーロット……いやだよ……一緒にいたいよ……」


 ウンディーネはシャーロットの死期が近いことを知ってなお、他のエルフではなくシャーロットの側にいたいと願う。


「わがままを言ってはいけないわ。本当なら私が里に戻らないといけなかったんだけど……急に身体がこうなってしまって……ね? お願い。私は里を出たけど、里のことも大事なの」


「あたしが外を見てみたいって言ったから……?」


 シャーロットはウンディーネの望みを聞き、里長にもそれを伝え、シャーロットが生きている間のみと特例を与えられ、里を出た。

 必ず戻ると約束して。


 しかし。


「いいえ、それは私の意思よ」


 連れ出してやりたい。それはシャーロットの望みでもあった。


「……わかった」


 そこでようやくウンディーネは折れた。シャーロットを困らせるのは本意ではないからだ。


「ありがとう。ディーネちゃん。それとペレ?」


 自分の願いを尊重してくれたウンディーネに礼を言い、次にペレに話を振る。


「は、はい!」


 真剣な二人のやりとりを見てペレは少し緊張していた。そこに急に自分が呼ばれ、思わず姿勢も正す。


「ペレにはサラちゃんを託すわ。これは皮肉じゃなく運命だったのかもね」


「えっ? 私に!?」


 その姿を見ることができて期待をしなかったと言えば嘘になる。

 ただ、自分が連れて行くなどと言い出すわけにはいかないことは重々承知していた。

 だからそう言われて驚いたのと同時に申し訳なさが半々だった。


「サラちゃんも新しいパートナーが見つかるまでブレットに預かってもらうつもりだったのだけど、まさか見える子を連れて来るなんて思いもしなかったわ」


 その為に精霊──シェンを通じて見えるようにする術を編み出したはずだったのだ。

 預けるにしても姿も見えない、声も聞こえないでは不便だろう──と。


「おまえモ、オレが見えタ。シャーロットの願イ、一緒に叶えル」


 サラマンダーの言葉は少し聞き取り難いが、それで十分想いは伝わってくる。


「わかりました。よろしくお願いします」


 だからもうペレに迷いはなかった。


「ふふっ、頼んだわよ、ペレ」


「はい!」


 今度はしっかりとシャーロットの願いに応える。



「それと……シェン?」


「はーい」


 相変わらずシェンには緊張感というものは皆無だ。

 状況を理解できないわけではなく、ただ死に対する感情を持たない。そうなるものだという感覚だけがある。


「一度ちゃんとお礼を言いたかったの」


「お礼? なんで?」


 シェンと同時にブレットもその意図が分からず首を傾げる。


「あなたが始祖ハイエルフに血を飲ませてくれて、ブレットにもそうしてくれたおかげで私はブレットと千年も同じ時を生きることができたの。本当に感謝しているわ。ありがとう」


 始祖が長寿となったことでシャーロット達エルフもその血を受け継ぎ長い年月を生きることができた。

 また、ブレットが不死となったおかげで自分の生涯の殆どの時をブレットも同じく生きることができた。


 ──一緒に過ごせなかったとしても。


 そのどちらもシェンのおかげだとシャーロットは感謝の気持ちを伝えた。


「へへっ、どーいたしまして! 僕にはずっと見えてたけど、こうして話せて嬉しいよ」


 シェンはシャーロットの言葉を素直に受け取り、シャーロットのおかげで自分の声が伝わることを喜んだ。


「私もですよ」


 シャーロットも嬉しそうに微笑む。


「つかれタ」


 サラマンダーがそう言うと、ブレットの視界からサラマンダーとウンディーネの姿が消える。


「あらあら、ごめんねサラちゃん。お疲れ様。ありがとうね」


 そう言って労い、ペレの方へと促すと、ウンディーネもサラマンダーに続いてペレの肩に乗る。


「う……サラちゃん、ディーネちゃん。今までありがとう。元気でね」


「シャーロット!」


 急に顔色が悪くなったシャーロットに慌てて駆け寄るブレット。


「ブレットがいる間は痩せ我慢するつもりだったんだけど……」


「もしかして精霊の力を借りてたのか?」


「そう……ね。支えてもらっていた……という感じかしら」


 その精霊の二人ともが離れたことで支えを失い一気に悪化したようだ。


 ブレットには見えてはいないが、ウンディーネが手を伸ばそうとするのをシャーロットが制する。


「ねぇ、ブレット。最期のお願い……聞いてくれる?」


「なんだ?」


「キスして……ほしいの。最期にもう一度だけ……」


「俺はもう……」


 ペレを横目に見てシャーロットの願いを断ろうとする。


「ブレットさま。してください。いえ、しないと怒ります」


 真剣な眼差しでブレットに()()するペレ。それはブレットが惚れた強い意志のこもった紅い眼だ。


「わかった」


「ありがとう。ペレもごめんね……こんなわがまま」



「いいから、もう……喋るな」


 そう言ってブレットは自らの唇でその口を塞いだ。



「相変わらず強引なのね……ブレット。私は確かにあなたを愛していた。でも……ここからは……ペレに任せるわ。ペレ……この人もサラちゃんのついでに……お願いするわね」


 それはシャーロットの精一杯の強がりだった。


「わかりました。ブレットさまもサラちゃんのついでに、シャーロット様に代わって愛していきます」


「ふふっ……それじゃあブレット……これを」


 苦しみながらも嬉しそうに頷くと、十字型で交点に宝石が埋まった木製のペンダントを取り出す。


「これは……?」


「エルフの里に入るのに……必要なものよ。場所はディーネちゃんが……知ってるから……」


「わかった」


 しっかりとそのペンダントを受け取り、頷く。



「さぁ、もう疲れちゃったから休むわ……寝顔を見られたくないから……外してくれるかしら?」


 シャーロットのその言葉に二人は立ち上がり、ベッドの両側でそれぞれシャーロットの手を掴んだ。


「おやすみ、シャーロット」

「お疲れ様でした、シャーロット様」


「ありがとう」


 二人が退室するのを見送って、シャーロットは満足そうに目を閉じた。

お読みいただきありがとうございます。


長々とお付き合いいただき感謝です。

ちゃんと書きたいことは書けました。

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