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第25話 シャーロット 前編

 翌朝、ブレット達はサンドリア城へ向かって歩いていた。


「悪いな、ベッドのことまで考えてなかった」


 サンドリアの家にはずっと一人で住んでいたので、ブレットが寝る為だけのシングルベッドしかなかった。


「いえ、いつもより密着できたのでむしろご褒美です」


 特に嫁発言のあとだったのもありブレットの体温を感じながら眠れたのが嬉しかったようだ。


「ふっ、そうか」



 そんなことを話していると城門前に着いた。


「止まれ!」


 若い門衛が二人を遮る。


「討伐ギルドのマスター、ブレットだ。シャーロットと国王への謁見に来た。取り次いで貰えるか?」


 いつものように名乗るブレット。だが、サンドリアに慣れすぎて"ドラギーユの"と付け忘れる。


「ギルドマスターはパンセのはずだ。適当なことを言うな! それにシャーロット様を呼び捨てにするとは!」


 その門衛はブレットのことを知らないようだ。


「ああ悪い、今はドラギーユ王国のギルドマスターだ」


「今は? また適当なことを言ってるんじゃないだろうな? 何か紹介状なり招待状はないのか?」


 ああ言えばこう言うやつだと思われたらしい。

 特にそういったものを用意していなかったブレットはどうしたものかと考え込む。

 以前いた時はほぼ顔パスで通っていたのでまさか城門で止められるとは思っていなかったのだ。


「たしかに俺は今国外の住民だしな……向こうの国王に用意させるんだったな」


 頭を掻きながらそう言うブレットの呟きを聞いて、門衛は自分の目の前の人物は大物なんじゃないかと気付き焦り始める。


「おい、どうした!」


 そのとき、なにやら揉めていると思った別の男が内側から出てくる。


「あっ、ゾーン指導官!」


「って、ブレットさんじゃないか。戻ってきてたのか」


「えっ、ゾーン指導官のお知り合いですか?」


「あーお前は他所(ヨソ)からの研修だから知らんだろうが、この国でブレットさんを知らないやつはいないぞ」


 ゾーンと呼ばれた男が説明する。彼は最初の若い門衛の担当指導官らしい。

 討伐ギルドが広まったのがそうだったように、こうやって他国の者がサンドリアで研修を受けるというのはよくある光景である。


「そ、そうなんですか……失礼しました!」


「いや、準備不足だったこっちの落度だ。お前さんは正しい対応をしてたよ」


「悪いなブレットさん。そう言ってもらえるならよかった」


「そ、そんなすごい人なんですか?」


 謙るゾーンがよほど意外だったのだろう。


「ただのギルドマスターだ。それで、入ってもいいか?」


 あまり褒め称えられたくはないのでそう言って入城の確認をする。


「あ、ああ。もちろん。ところで用件は?」


 頭の中にブレットの功績を集め始めていたゾーンは慌てて対応に戻る。


「謁見とその取り次ぎの間にシャーロットに会っておこうと思ってな」


「なるほど、なら謁見の方はやっておこう。だが……」


 ゾーンもパンセ同様表情が暗い。


「よくないのか?」


「ああ……最近は寝たきりだと聞いている」


 ブレットは不安を感じ、その答えを聞くと駆け出した。


「ブレットさん、シャーロット様は寝室だ! 私室にはいないぞ!」


 遠ざかるブレットにゾーンが叫ぶと、ブレットは首だけ振り返って頷いた。


「ありがとうございます。私も行きますね」


 残されたペレは丁寧に頭を下げてブレットを追いかけていった。


「どういう関係なんですかね?」

「さぁな。ただ、ブレットさんはあの『英雄ブレット』なんじゃないかと言われている」

「ええっ!? 千年以上前の人ですよね?」

「だからそういう噂だって話だ。ほら、仕事に戻れ」


 ゾーンが促して、二人は持ち場に戻った。




 コンコン、と寝室のドアがノックされ、か細い返事の声の後、そのドアが開いた。


「シャーロット、入るぞ」

「失礼します」


 ブレットとペレがその部屋に入ってくる。


「ほら、やっぱり来てくれた。サラちゃんの予想が当たったわね」


 返事の時とは打って変わって元気そうな声だ。

 エルフ特有の長い耳を持ち、白髪に皺々の顔の老婆は横になったまま、左手を空中を撫でるように動かす。


「可愛い……」


 その様子を見たペレがポツリと呟いた。


 それに驚いたのはブレットとその老婆、シャーロット。


「お前、見えるのか!?」

「あなた、サラちゃんが見えるの!?」


 それもそのはず、そこにいるのは火の精霊サラマンダー。パートナーであるシャーロット以外には見えないはずだった。

 ()()()()()()()()()()


「はい、背中から尻尾の先まで火を噴いているトカゲのような可愛らしい子が見えます」


 その答えにブレットとシャーロットが顔を見合わせる。


「へぇ。それで、ブレット。この子は? 貴方の恋人かしら?」


 シャーロットは驚きつつも、まだ名前も知らないことを思い出してブレットに問いかける。


「そんなところだ。名前はペレ、彼女がシャーロットだ」


 恋人という言葉には相変わらず動じない。


「ペレです。よろしくお願いします」


 ペレも同じだ。その様子にシャーロットは二人の信頼関係の深さを悟る。


「シャーロットよ。ペレ……素敵な名前ね。確か火山の女神の名前だったかしら。サラちゃんと相性がいいのも納得ね」


「ブレットさまに付けて頂きました」


「ちょっとブレット。どういうこと?」


 名付け親がブレットと聞いてシャーロットが問い詰める。


「ペレは娼館のオーナーから買い取った亜人奴隷なんだ」


「そういうことね。ペレ、こっちにいらっしゃい」


 シャーロットはブレットの説明を聞くと、ペレを手招きし、それに従ってペレはシャーロットの横に立つ。


「後ろを向いて上を脱いで」


「お、おいシャーロット」


 いきなり説明もなく指示をするシャーロットと、それに従うペレに焦るブレット。


「解放したくて来たんでしょう? なら黙って見てて」


 シャーロットはそう言って、上半身裸になったペレの右肩にある隷属紋に皺々の手を乗せる。


「サラちゃん、ディーネちゃんお願い」


 【解放(リリース)

 本来【無詠唱】で済む魔法を二人を安心させる為に敢えて唱えると、その背中の黒い紋様が剥がれるように消えていった。


「すまない。方法を聞くだけのつもりだったんだが」


 ブレットもまさか精霊二体の力を借りてようやくできる魔法だとは思わなかった。


「いいのよ。ただ、これは元々呪いを解く魔法なの。覚えたはいいけど私だけじゃ使えなくてね……ゴホッ」


 精霊の力を借りてなお負担を強いる魔法らしい。シャーロットの体力が衰えているというのもあるが。


「無茶しやがって……他の使い手を探せばよかったんだ」


「それは無理よ。私が考えた魔法だもの。他なんていないの。だから……こういう私がいた証が消えるのは寂しいわね……」


「大丈夫です」


「ペレ?」


「今……私が覚えましたから」


 服を着直したペレは振り向き、シャーロットの手を取る。


「ありがとうございました。この魔法は私が生きている限りなくなりません」


「ペレ……あなた……」


「私はそう簡単には死にません。なんたってブレットさまの妻になる女ですから!」


 隷属から解放されてなおそう言い切るペレ。


「あっはははははは」


 突然笑い出したシャーロットにペレも目を丸くする。


「皮肉なものね。ねぇ、ブレット」


 その言葉には答えられないブレットだった。

お読みいただきありがとうございます。


またしても分割です。

前後編で収まるか怪しめです。

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