第23話 サンドリアへ
サンドリアへ向けて出発して二日目の野営。明日中には国境に到着する予定だ。
ジュノの時と同様に国境まで馬車で三日で、国境で一日休み、また三日かけてサンドリアへ到着する。
中休みはブレットにとっては必要なくてもペレや御者には大事だ。
それ以外にもこの世界に住む人間にとっては7という数字を神聖化しているというのもある。
例えば一日は28時間で7時間ごとに区切って行動するし、7日で一週、それが7週49日で一月、7ヶ月343日でちょうど一年となり、人は7歳と14歳で二度洗礼を受ける。
ちなみにスキルはそのどちらかで得ることができるが、ペレはそのどちらも受けることができておらず、スキルを持っていない。その為ブレットは21歳となる来年なら洗礼を受けることを許されるのではないかと考えている。
そしてほとんどスキルは一人一つだが、実力者の中には二つ持つ者もいるし、稀に生まれつきスキルを持つ者もいるようだが、それを知る手段が少なく、自覚なく一生を終えることがほとんどだ。
そういった背景があり移動にも7日もしくはその倍数の日数をかけることが多く、そうなる位置に町が作られている。
「ブレットさま」
「ああ、お前も気付いたか」
「私が行ってもいいですか?」
「まぁ、こっち側はいても狼だ。中級になったお前なら余裕だろう」
狼の接近に気付きペレが志願すると、ブレットは中級を強調するように認め、ペレは少し照れながら離れた。
ブレットが暗闇に消えたペレの方を見つめていると、三つの火の玉が飛び、しばらくするとペレが戻ってきた。
「なんだ、三匹もいたのか」
「はい。まぁ、あまり変わりませんけど」
なんてことのないと平然としているペレ。
「【無詠唱】、使ったな?」
「はい……まわりに人はいませんし」
「それがわかってるならいい。人に見せたら騒ぎになる」
【無詠唱】とは本来魔法の発動に必要な魔法名の詠唱を省く技術で、ブレットのかつての仲間の一人が得意としていて、聞いていたコツを教えたらペレは習得してしまった。
ココットが見た威力の調節や連発もその仲間がやっていた技術だ。
ブレットにはできなかった又聞きの技術だったが、ペレはそれで習得できるだけのセンスがあった。
当然、超高等技術なのでそれが知られればあちこちから引っ張りだこならまだ良い方、最悪飼い殺しされる。
なのでブレットは人前での使用を禁止していた。
「はい。ところで、こんなところで狼が出るんですね」
「いや、ちょっとおかしいな。一匹ならいてもおかしくねぇが三匹はまず聞かねぇ」
東と南はドラギーユと国同士が近いが親交の深さから国交のほとんどが東のサンドリアと行われている。
ドラギーユ・サンドリア間はそれだけ人通りもあり平和なのだ。魔物が出ても通りかかった者が排除するので数が残っているというのはほとんどない。
街道から離れたところで生まれたとしてもそこから近付いてくることはあまりないのだ。
「これが活性化というものでしょうか?」
「いや、たしかにそれっぽいが、活性化はもっと多い。……が、今後も続くようなら警戒したほうがいいかもな」
活性化というのは人里離れた場所に生まれた魔物が一斉にそこを離れて人を襲う現象だ。
第一次、第二次と呼ばれる活性化はそれに加えて魔物が生まれる頻度が異常なまでに増えていた。
なのでこの場所でニ、三匹程度なら偶然という可能性の方が高いので、稀にはあるがそこまで警戒されない。
活性化というならあのワイバーンやスカイドラゴンが人里を襲っているはずなので、ブレットもその可能性を否定した。
「わかりました。では、ブレットさまは先に休んでください」
「そうだな。じゃあ交代の時間になったら起こしてくれ」
二人だけなので夜を半分ずつに分けて交代で見張ることにしている。
「はい。おやすみなさい」
それからは特に魔物も出ず、翌日も道中問題なく国境に辿り着いた。
「討伐ギルドのマスター、ブレットだ。隊長はいるか? 騎士団長レオンから言伝を預かっている」
レオンによると南以外の守備隊はちゃんと交代をしていたらしい。ただ、念のため今出ている者にもシェンの加護を与えてほしいと頼まれた。
北と西はどうにもならなかったので人員を把握しておいてもらうようにした。
「わ、わかった。こっちだ」
急にレオンの名前を出されて焦ったようだが、ちゃんと案内してくれた。彼には移動中にシェンの加護を与えてもらった。
それから隊長に話して南の国境の時のように順に加護を与えていったが、こちらには【催眠】を受けている者はいないようだった。
そして国境で翌日一日過ごして、出発から五日目の朝、ブレットは久しぶりにサンドリア王国に足を踏み入れた。
◇◇◇
サンドリア城のとある人物の寝室。
そこにはその部屋の主の年老いたエルフがベッドに寝かされている。
「あら、サラちゃんどうしたの? なんだか嬉しそう」
『よくわからなイ。なんだかいいことありそウ』
「あら、そう? ブレットが来てくれるのかしら」
『あたしあの人苦手ー』
「ディーネちゃんそんなこと言わないの。うふふ、手紙読んでくれたのかしらね」
側から見ると独り言にしか聞こえない。
だが、サンドリアでそれが独り言だと思う者はいない。
そのエルフの老婆が世界に二人といない、二体の精霊を持つ『英雄シャーロット』だと知っているからだ。
そして、その『英雄』の長い長い人生に終わりの時が訪れようとしていた。
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