第21話 騎士団長レオン
「久しぶりだな、ブレット」
「ああ。レオンも元気そうでなによりだ」
騎士団の詰所で団長のレオンと再会の挨拶を交わす。
レオンは50間近で見た目はブレットよりも老けてはいるが、鍛えられた身体と頬に残る傷が強者の風格を漂わせている。
「団長! ご報告があります!」
「おお、ケインか。お前も久しぶり……久しぶり?」
二年もの間国境守備に就いていたケインを見て、レオンが首を傾げる。
「やっぱり元気なのは見た目だけか。レオン、お前今の南の国境の人員ちゃんと把握してるか?」
ちなみにレオンもブレットが『英雄』であることを知る一人で、ブレットも遠慮なく話している。
また、始めはブレットを年下だと思って話していた為、レオンの方も特に敬語に直したりはしていない。直そうとしてブレットが気持ち悪がったというのもある。
その結果、友人のような関係に落ち着いた。
仕事の都合上、ほとんど会うことはなくなってしまったが、それでも気安い間柄であることは変わらなかった。
魔族が関わっていたりレオンがこの状態であるとわかるまでは学院の内部調査もレオンのいる騎士団に投げるつもりだったくらいだ。
「もちろんだ。報告も受けて……いた……よな? いや、最後に受けたのはいつだ……? 思い出せん……」
当然だと答えるつもりがだんだんと記憶がないことに気付いて、口に手を当て考え込んでしまった。
「ケインの報告はその件だ。お前も魔法を掛けられてる。今解除してやる」
『シェン。頼むぞ』
『はいはーい』
「なんだと!? それはどういう……」
レオンが問い詰めようとしている間にシェンによる解除と加護が完了する。
「おーわりっ!」
そう言ってシェンはブレットの肩に戻る。もちろん声はブレットにしか聞こえていない。
「目が覚めただろ?」
「ああ。こんなことが……あり得るのか?」
「あり得んだよ、それが。おかげで大変なことになりかけてたぞ」
ブレットはワイバーンのこと、魔族のことを順を追って説明する。
「ブレット、すまなかった!」
肩を震わせ話を聞いていたレオンはまず頭を下げた。
「気にすんな。状況が状況だ。こればっかりは避けられねぇ」
「いや、これはウチの不始末だ。討伐に関する謝礼をギルドに入れさせてもらう」
「んーまぁ、ウチも被害は出てるし、お前も納得できねぇだろうからありがたく受け取らせてもらおう。それと……」
団員たちの【催眠】解除と加護について説明し、提案する。
「それはありがたいんだが……そんな人数可能なのか?」
「なに、負担はない。人数を集めてくれる方が時間もかからずに済んで助かる」
『ってことでいいんだよな?』
『うん。平気だよー』
『本当に頼りになるなシェンは』
『えへへ』
シェンは遠慮なく頼る方が喜んでくれる。だからブレットもほとんど遠慮はしたことがない。自力でなんとかなるところは自分でやってしまうが、シェンもそれに関しては特に文句は言わない。
「わかった。配備もあるし休みの者もいる。明日から三日に分けてもいいか?」
「おいおい、これから集めるのに明日からって……それに三日でいいのか?」
ブレットも出発は急ぎたかったが、それでも十日は待つつもりだった。それだけ騎士団には人数もいる。
「十分さ。よろしく頼む」
「ああ」
レオンならその全員に集合指示を出して集めることも可能かと思い直して受け入れた。
「ケインたちもすまなかったな。すぐに代わりの者達を手配して準備に入らせる。明日ブレットから【催眠】を解除してもらったら向かえるようにな」
「は、はい! あ、いや、いえ。自分も掛けられていましたので……」
急に団長に頭を下げられてケインたちも焦る。
「そうだったか。まずはお前たちも休め。今後の業務は追って連絡させる。それまでゆっくりと過ごしてくれ」
「わかりました。では、これが隊長から預かってきた書類です」
ケインが二年分の溜まりに溜まった報告書をレオンに手渡すと、レオンは眉間を摘んで苦い顔になるが、すぐに立ち直り覚悟を決める。
ボソッと呟いた「今日は帰れないな」という声は誰にも聞こえなかった。
「それでは、失礼します」
そう言ってケインたちは退室した。
「レオン、謁見の許可を取っておいてくれないか?」
ペレを含めた三人だけになった部屋でブレットはレオンに頼み事をする。今からなら騎士団長という立場を頼るのが一番早く謁見が可能になる。
さすがに国王と繋がりがあることまでケインたちの前で話さなくてもいいかとこのタイミングを待っていた。
「構わないが……ブレットが報告するのか?」
「それもあるが、俺はしばらくこの国を離れる。その挨拶だ」
「なるほど……ブレットがいなくなるのなら我々は今一度気を引き締めないとな」
レオンは真剣な表情でそう言った。
「とりあえずこの国の主要人物には加護まで掛けておく。ああ、それと、南以外の国境の現状も異常がないか調べておいてくれ」
「わかった。団員を集めるのと並行して聞き取りもやっておく」
「じゃあ、また明日来る。昼からでいいか?」
「ああ、それで頼む。また明日な」
最後は友人として別れる二人だった。
「さて、ペレ。次はギルドだ。疲れてないか?」
「はい、大丈夫です!」
町に戻ってすぐに魔導学院、騎士団詰所と休みなく移動しているが、ペレは平然としている。
そして、ブレットには不調を隠したりしないこともわかっているのでその言葉を受けてそのままギルドへ向かった。
お読みいただきありがとうございます。
次回ギルドに戻って第一章終了となります。
二章は頭の中でだいたい考えてありますがここまで長くならない、と思いたい。
読んで面白いと思えたら、ブックマークや下の★で評価していただけると嬉しいです。




