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第20話 帰還報告

 三日後、生徒たち全員を魔導学院へと送り届けた。そこでココットとリオとは別れ、ギルドに戻らせた。

 リオは素材ギルドに紹介することになるだろうが、今回は引き返したとはいえ討伐ギルドが指定する任務をやり遂げたことには変わりはないので報酬が出る。その手続きをココットに任せた。

 さすがに報告内容が特殊だからというのもある。


 ペレはいつものように残ることを志願し、ブレットはペレにも聞かせておきたいこともあったので同行を許した。

 今回はそれに守備隊の二人も一緒だ。



「どういうことか、説明してもらえますか?」


 院長室で帰還を報告したブレットにそう問うたのは院長──ではなく、その秘書。タイトなスカートに半袖のブラウスを身に纏う、若くはないが院長ほど年老いてはいない、キリッとした目付きが特徴的な女性だ。

 院長の座る執務机を挟んで離れて立つブレット達に対して、彼女はその机の脇に立ち、メガネの縁を揃えた指の腹でクイっと持ち上げる。


「道中で魔物以外のモノが見つかってな。先に進むのは危険と判断して、生徒たちを説得の上で中止を決定した」


 ブレットもまずは概要から話す。


「あの子たちがそう簡単に説得に応じるとは思えませんが?」


 やや疑惑を込めた強めの言葉でその女が更に追及してくる。


「まぁまぁ、ミアさん落ち着きなさい。相手はギルドマスターですよ?」


 院長がそれを宥める。秘書は名をミアというらしい。


「はっ……すみません。つい……」


 どうやら彼女は院長の言葉を待たずに話してしまう癖があるようだ。

 コホンと咳払いで誤魔化して身を引く。


「とりあえず見てもらうのが早いんだが……お前さんたちは死体は平気か?」


「「!?」」


 秘書もいるのでまずは確認を入れると二人とも驚いたようだが、なんとか落ち着きそれぞれから同意を得てブレットは収納袋から魔族の頭部を取り出した。


「この頭……これでこいつが何かわかるか?」


「すみません、私はわかりません」


 やはり秘書のミアが先に答える。


「こいつは……魔族……? 実在したというのですか!?」


 院長の方はココットと同程度の知識はあったようだ。驚きつつもブレットがそれを見せた理由に気付く。そのおかげでそこからの説明はスムーズに進み、夏季休暇(バカンス)の中止は納得してもらえた。


「使いに出したやつは【催眠(ヒプノシス)】を受けていたんだろう。生徒たちも全員掛かっていたようだ。そして、お前さんが平気だったのは精霊のおかげだ」


「!? まさか、見えるのか?」


 どうやら院長が精霊持ちであることは公にしていないらしい。ミアですら驚いていた。

 院長自身も見抜かれたことに丁寧な言葉遣いが消える程驚いている。


「いや、俺も連れてるだけだ。お前さんの精霊は教えてくれねぇのか?」


 シェンも聞くまで教えてくれなかったのだが。


「!?」


「先日会ったときに異様に怯えていたのですが……そうですか。貴方にではなく貴方の精霊に怯えていたのですね」


 ミアはブレットが精霊持ちであることにかなり驚いたようだ。

 そして、院長の精霊はシェンよりもかなり格下らしい。院内の【催眠】解除はできてもシェンのような加護は期待できなそうだ。

 だが、院長が定期的に教員、生徒と接触を持っていればなんとかなりそうだと思い、それを提案した。


「わかりました。学院は私が守りましょう。貴方は……国を出るのですね?」


 ブレットの提案で院長は察した。

 そして、その言葉にブレットよりもペレが反応する。バッとブレットの方へ振り向き、見つめる。


「置いていったりしねぇから安心しろ。お前には一緒に来てもらう」


 そう言われてペレは胸を押さえて安堵の息を漏らす。


「それで、どちらに向かわれるのですか?」


「まずはサンドリアに寄ってから魔族の里だな」


「ブフッ」


 院長に問われたので正直に答えると、ミアが吹き出す。


「魔族の里って……サナトス山脈の北って言いましたよね!?」


 冷静さを失ったまま、がなり立てるように確認してくるミア。


「ああ。あ、行ったことあるって言うの忘れてたな」


「は、はああああああああ!!?」


 ミアはもはや人に見せてはいけない顔になってしまった。


「ま、まぁ、ミアさんは置いておいて、あの山脈を越えたと?」


 院長も辛うじて堪えた、という感じだ。


「そうだ。一人ならそのままいけるが、今回は守るべきやつがいるから故郷に預けてるモンを取りに行く」


 そう言ってペレの肩に手を乗せる。ペレもその手に自分の手を重ね、頭を乗せた。



「とりあえず話はわかりました。生徒を無事連れ帰ってくれたこと、感謝します」


 ペレとのやりとりが逆に院長を冷静にさせたようだ。


「今回はこれで護衛任務完了ってことにしてくれると助かる。夏季休暇(バカンス)遂行とは言ってないからな」


「そうですね。確かにそこまでは依頼に入ってません。通常なら遭遇しないような魔物からも守って頂いてますしね」


 一応の理由を付けてそう言うと、院長も同意する。


「ところで……後ろの方々は?」


 ブレットたちのやり取りで我に返ったミアが反応のない二人に気付く。


「ん? こいつら……立ったまま気を失ってやがる……」


 妙に静かだと思ってはいたが、言われて後ろを振り向くと、守備隊の二人は気絶してしまっていた。あまりにぶっ飛んだ話だったからだろう。


「悪いな。すぐに連れ出す。それじゃ、お前さんとはもう会わないで済むといいんだが」


「ええ、使いのやり取りで済むようになるといいですね」


 ブレットの言葉にニヤリと笑い返して院長がそう言うと、ブレットは気絶した二人を抱えて退室していった。

お読みいただきありがとうございます。


第一章はあと二話の予定です。

正直思ったより長くなっております。

ゆっくり進めるつもりではいるので展開が遅くてモヤモヤさせてしまっているかもしれません。


読んで面白いと思えたら、ブックマークや下の★で評価していただけると嬉しいです。

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