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第16話 魔族 前編

 ペレたちが遺体の調査へ向かっている頃、ブレットは執務室でグランツと会っていた。


「じゃあ二年前の時点で怪しいと思うやつはいないんだな?」


 二人はこうなった原因について意見を交わしている。


「ああ、特に現状を団長が知らないはずはないし、許すはずもない。団長が交代とかしていない限り……いや、それはないか」


 グランツも唯一頭に浮かんだ可能性をすぐに否定する。


「そうだな。騎士団で大きな人事は起こっていない。今もお前さんの知る団長だ。まぁ、アイツがそう簡単に変わるはずはねぇ」


 ブレットも団長を知っている。

 というか、ブレットが過去に(おこな)った貴族の粛清には騎士団の力は不可欠だった。

 団長とはそれ以来の付き合いなのだが、ブレットの知る団長もクソが付くほどの真面目な男であり、現状を無視してブレットにも連絡を寄越さないとは思えなかった。


 だからこそ、一つだけ心当たりがある。あまりにも突飛な心当たりだが。

 ブレットはそれを伝えるべきか迷っていた。可能性があまりにも低すぎるからだ。

 違っていた場合のことを考えると無駄に混乱させる必要はないとも思える。せめて何かしら証拠を得てからと、結局それはこの場では言わずに終わった。




「とはいえそれしか思いつかねぇんだよな」


 宿に戻り、ベッドに横になって独り言ちる。昼間の心当たりのことだ。

 団長に話が行ってないということは考えにくいし、団長の性格が急に変わるなんてことはもっとあり得ない。

 しかし、学院の件でも似たような状況だった。突然信用している者があり得ない行動をしていた。

 そう考えたときに思い当たったのは【催眠(ヒプノシス)】の魔法だ。

 だが、それは通常の方法では習得できない特殊な魔法で使える者が限られている。そしてそんな者がいる可能性は限りなく低かった。


 なかなか頭から消えてくれない悪い予感を振り払うようにブレットは眠りに就いた。




 翌日、再びグランツの元を訪れたブレットは珍しくソワソワしていた。予定通りならば昼過ぎにはペレたちが戻るはずだからだ。

 無事戻って欲しいのはもちろん、できれば自分の予想を覆すなにかを持ち帰って欲しい、そう考えていた。


 しかし、戻った二人が齎したのはブレットの悪い予感を的中させるものだった。




「ブレットさま、戻りました!」


「よかった。怪我はないか?」


 心配しすぎて明らかに普段とは違う言葉が口をつく。


「はい、なんともありません」


「ペレってば愛されてるねぇ」


 珍しいブレットの態度にココットが茶々を入れる。


「ココットも無事でなによりだ。それにしても二人は仲良くなったな」


 その言葉にココットはえへへと後頭部を掻く。

 そしてブレットもペレもココットの茶々には全く動じない。


「それではご報告ですが、どこか遺体を()()()()()場所はありますか?」


 ココットは帰還の挨拶が終わると、表情を引き締めてグランツに問いかけた。


「そうだな、埋葬前の安置室がある。そこへ行こう」


 グランツの案内で窓のない部屋に入り、ココットは「ちょっと雑ですみません」と断って収納袋を一括解放した。


 出てきた残骸を見て、グランツもブレットもそうした理由を理解した。

 胴体部分はほとんど原形が残っておらず、関節以外であちこち折れ曲がった腕や足が更に別々に散らばり、頭部も顎から上しかない。


「すまなかったな。ここまでとは」


 それを収納してきた二人を労う。


「いえ、自分で言い出したことですので」


 収集していた時のように平然と答えるペレ。


「私も大丈夫です。それより──」


 ココットはやや強がりも混じってしたが、優先すべきことは忘れていない。

 出した遺体の頭部の顔をブレットに向けて見せる。


「この頭部の角……もしかしたら魔族じゃないかと思いまして」


 その額の中央には角というより大きなコブ程度ではあるが突起があった。


 それを見たブレットは「チッ」と舌打ちをする。


「もしかしなくても五人ともだな?」


「はい。場所はまちまちでしたが、同じくらいの角がありました」


 ブレットの問いかけにペレが答える。

 たまたま一人いたというわけではないことが確定し、ブレットが頭を抱えた。


「魔族……? ブレットさんはこいつが何者か知っているのか?」


 グランツは知らないようでブレットに問いかける。


「こうなってほしくないって願望はなんで叶わねぇんだろうな」


 そう呟いて、ブレットは全員を促して執務室に戻った。




「さて、まずは魔族についてから話した方がよさそうだな。ココットはよく知ってたな?」


 そもそも魔族というのは一般的ではない。その存在を知る者自体が少ないのだ。


「私も本でしか見たことはないんですけど……それも御伽噺でしたし」


 ココットも実際にその知識があるわけではないらしい。


「なるほど。まぁ、そんなものだろうな。だがお手柄だ。おかげで今回の件の謎は解けた。解決するのは骨が折れるが」


「そうなのか!?」


 グランツが立ち上がる。


「落ち着け。魔族ってのは亜人の一種だ。しかも亜人の中でも一番数が多い」


「それがなぜ知られていないのですか?」


 グランツが座り直し、代わりにペレが疑問を投げる。


「住んでる場所が問題でな。サンドリアの北……サナトス山脈を超えた更に北の山に囲まれた盆地で魔族は暮らしている」


「誰も超えたことがないというあの……」


 そこはブレットがシェンと戦った場所を更に北に行った場所だ。

 サナトス山脈を超えられないというのは古龍がいたからだけではない。その周辺に棲息する魔物が非常に厄介なものばかりなのだ。

 当時もブレットの仲間たちはブレットを無傷で古龍に到達させる為に奮闘してくれた。あらゆる魔物に対応できるメンバーが揃っていたからこそ古龍討伐を成し得たのだ。


 そんな場所を超えた先に住む魔族たちは基本的にそこから出ることはできず、また外部から人が来ることもなかった。


「魔法に長けた種族だから魔族と呼ばれる。だが、その周りの魔物は魔法が効かねぇやつが多いんだ。だから魔族は出てこれねぇし、外で魔族を知ってるやつも少ねぇ」


「あの、ブレットさんはなんでそんなに詳しいんですか?」


 ブレットの説明にココットが手を挙げて質問する。


「まぁ、行ったことあるからな」


「は?」


 あっさりとブレットが答えると、グランツが固まった。

お読みいただきありがとうございます。


説明回はどうしても長くなってしまいます。

今作では敢えてそうしているのでご了承ください。



読んで面白いと思えたら、ブックマークや下の★で評価していただけると嬉しいです。

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