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第15話 女の子二人旅

 ◇◇◇


 ペレとココットは国境の砦から来た道を逆に辿っていた。

 出る前には【疾風】の三人から大まかな場所と全員が黒い外套で姿を隠していたことを聞いた。

 そもそも三人がその五人組と遭遇したのが夜だった上、対面する間もなく襲われた為に五人ということ以外は詳しい情報は得られていなかった。

 結局はココットの嗅覚頼りということで、早朝に国境を発った。


 疲れて休んでいるところを朝早くから起こされた【疾風】も文句一つ言わずに状況を話してくれたおかけでスムーズに出発することができた。

 できれば日が暮れるまでに情報を集め、その場を離れてから野営をする予定だ。




「ありがとうございます。ココットさん」


 歩き始めてから、自分の提案に乗ってもらったことへの感謝を告げるペレ。


「あはは、気にしないで。私もそうしたいと思っただけだから。それに、ココットでいいよ。私もペレって呼ぶから。職員になる前からの付き合いだしいいよね?」


 一緒に仕事に出るのは初めての二人だったが、ずっと同じギルドに所属している為何度か会話したこともあった。ジギンとペレが手合わせするのを見ていたこともある。

 というか、会うときは大抵お互いの主人と師であるブレットとジギンがセットで絡んでいた。


「はい。改めてよろしくお願いします」


「んー……話し方も普通でいいんだけど」


 硬い話し方の変わらないペレに鼻をコリコリと摩りながらそう言う。


「いえ、私はこれが普通なのでお気になさらず。それにココットの方が年上ですし」


 ココットに対してというより誰に対しても以前からずっとこうだ。ココットもそれを思い出し、そういえばそうかと納得する。が、ふと気付く。


「ん? 呼び捨てはあっさりするんだ!? ま、まぁ、嬉しいからいいけど!」


 満更でもないらしい。というか、ココットもペレが誰かを呼び捨てにするのを初めて聞いた。


「ふふっ、私も嬉しいんですよ?」


「そ、そう?」


 笑うペレに思わず釣られてニヤけてしまうココット。

 何度も言うようだが、ペレはとんでもなく美人なのだ。

 長かった髪はギルドに所属する際に首が後ろから見えるくらいまで切ってしまったが、むしろそれでカッコ良さまで得てしまった。

 そんな彼女に笑いかけられたら大抵の男は落ちるだろう。というか同性のココットですらドキドキしてしまっている。

 ただしそれを見れた人間は少ない。ペレは基本的に表情を崩さないのだ。


「ココットが私の初めての友人、ということになるんでしょうか」


「は、初めて!? ちょっとそれは聞き捨てならないわ! これが終わったらリオちゃん誘って女子会よ! 決定!」


 ペレの言葉に触発されたココットは強引に決めた。

 その勢いに目を丸くするペレだったが、迷惑というわけではなく、むしろ嬉しく、自然と笑みが溢れた。


「ありがとう、ココット」


 その言葉も自然と出てきた。

 まだ本人は自覚していないが、それがブレットとの主従とはまた違う、初めての他人と打ち解けるという感覚だった。


「お、おおお……」


 ペレの不意打ちにココットは言葉を失った。


「どうしました?」


「ううん、なんでも。いや、いいもの見せてもらったわ。ブレットさんにはいつも?」


「え? よくわかりませんが、違うんじゃないですか?」


 本人もまだよくわかっていない。ずっと奴隷として生きてきた故の弊害だった。

 ちなみにブレットによく見せるのはもっと妖艶な笑みだ。


「そういえば、ペレは自分からブレットさんに買われたんだっけ? なんで……って聞いていいことかな?」


 思わずそのまま続けて聞いてしまい慌てて確認を入れる。


「構わないですよ。血を飲ませてやるって初めて言われたから、ですかね」


「はっ?」


 ココットが理解できないのも無理もない。

 ペレはヴァンパイア族にしかわからない感覚なのだろうと思い、説明することにした。


「私はヴァンパイア族だから……やっぱり飲みたいと思ってしまうんですよ。でも……ヴァンパイア族と一緒になることを選んだ母にすらそう言われたことはありませんでした」


「そうなんだ……」


 ちょっと踏み込みすぎたと反省するココット。


「父には飲ませても私には結局一度も飲ませてくれたことはなかったんです。それが、いくら回復できるからって自分の血を飲ませようなんて……世界広しといえどもブレットさまくらいですよ」


 そう言ってペレはまた笑う。


「だから、ブレットさんなんだね」


「はいっ!」


 血が飲めるからではない。自らそう言ってくれるブレットだからついて行きたいと思ったのだ。

 笑顔で答えるペレを見て、ココットも二人の関係が羨ましく思えた。




 途中昼食で休憩を取ったあと、少し進んだところでココットが止まる。


「それらしい匂いがする。昨日通ったときに感じた匂い」


 その言葉にペレも緊張する。


「大丈夫。周りには誰もいないから。それより、あっちだよ」


 優しくそう言った後、匂いのした方向を指差して向かいだす。

 ペレもココットの言葉で安心してついていく。



「うわ……これはキッツイかも……」


 それはもはや残骸としか言いようのないものだった。


「何言ってるんですか。収納袋に詰めますよ」


「平気なんだ……うん、そうだね。袋、ブレットさんに言われた通りに五つ持ってきて正解だったよ」


 まとめて入れたら間違いなくその残骸は元の一人の体で揃えることはできなくなっていただろう。

 一袋に()()()を入れていく。

 そのとき、ココットが拾おうとした頭部を見て何かに気付いた。


「これは……」


 別の残骸を集めていてその呟きを聞いたペレも寄ってくる。


「その頭で何かわかるんですか?」


「ううん、本で見ただけだから合ってるかは……」


「では、早く持ち帰ってブレットさまに見てもらいましょう」


「だね。急ごう。もし合ってるならこれは下っ端。ここは早めに離れた方がいいわ」


 ココットに道中の気楽さはもうどこにもなく、真剣な表情で指示する。

 ペレもそれを感じ取り、袋に詰める作業に集中した。




 袋詰めが終わり、急ぎ足でその場を離れて、丁度よく残骸のあった場所から死角になる大岩の近くで野営をすることにした。


「ココット、アレは一体なんだったんですか?」


 焚き火をする準備をしながらペレが問いかける。

 ココットは顎に手を当て、少しだけ話していいものか考えた後に告げた。


「アレは……おそらく魔族よ」

お読みいただきありがとうございます。


実は初期設定ではペレはただ従者として付いていく予定でした。

リオを成長させるパターンだったのですが、ヴァンパイアに決めたことでこうなりました。

その結果リオが巨乳化しました(ぇ



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