第12話 リオの才能
空ドラゴンはランク7だ。
ただし、それはただの討伐難易度から付けられたもので、それそのものの強さというわけではない。
といっても、下手に手を出そうとすると高空からブレスを撃ってくるので人里近くだとそれだけで被害が出てしまう。
なので討伐する人員を厳選する意味でランク7がつけられていた。
今回は上空から群れのワイバーンの統率を行なっていたのだろう。その付近以外にハグレのワイバーンはいない。
そして、ブレスを一度でも撃っていれば間違いなく報告が上がっていたはずだし、現時点ではこのスカイドラゴンの被害は出ていないとブレットは見る。
魔物は基本的には食事もしなければ繁殖もしない。ごく一部の人型の魔物に確認されているだけだ。
ちなみにそれが亜人の地位を落としている原因である。人型といっても亜人とは明らかに違う、人と異なる姿をしているのだが。
とにかく、このスカイドラゴンは放っておいたらいつまでも降りてこない。動物とは違い、エサを求めるということがないからだ。
魔物にあるのは単純な生存本能と言われている。
襲ってくるのもその一種の防衛本能だ。
長く生きた古龍のように意思を持つ魔物もいるようだが、それはあくまでも例外だ。
安全な空を高く飛べるからそこにいて、それでも襲われるようなら反撃する。それがスカイドラゴンという種。
普通の人間には厄介な存在だった。
そう、普通の人間には。
「うう……っ」
「おい、ジギン。生きてるか?」
ようやく目を覚ましたジギンの顔をぺしぺしと叩く。
「ん……あれ……ブレットさんじゃないっスか」
ゆっくりとジギンが目を開ける。
「無茶したな」
「そうっスね。できれば最期は可愛いココットに抱かれていたかったっス」
「だ、そうだ。代わるか?」
不満を漏らすジギンに不機嫌そうに後ろに立つココットへ振る。
「ふえっ!?」
「もう【回復】は掛けてある。残りはスキルの反動だろう」
「えっ? ぐあ!! いってぇーっス!」
その言葉に思いっきり目を見開いて起き上がるが、ブレットの言う通り、【瞬身】の反動はまだ収まっておらず、激痛にまた倒れ込む。
「ジギンさん……無茶ですよぉ」
「なんで生きてるっスか……?」
ジギンは地面に落ちた衝撃と反動の痛みがごっちゃになって自分は死んだと思っていたらしい。
「私もブレットさまが巨大なドラゴンを落としたときにジギンさんは巻き込まれたのかと思いましたよ」
「すっごい音でした」
ペレとリオがその時のことを思い出す。
ペレはココットがワイバーンを仕留めた直後、リオはそこから更に離れた馬車を護衛していたときにだんだんと大きくなる影が落ちていく様を、そしてそれが落ちたときの轟音を聞いた。
ココットはその時一瞬戸惑ったが、ペレはブレットが敵を倒したのだと確信していた。
そしてそのまま二人は馬車まで戻ってブレットたちの帰りを待ったのだが、ブレットがジギンを背中に担いで戻ってきたときにはそれはもうわかりやすくココットは動揺していた。
【疾風】の三人から状況を聞いて、ブレットが回復させていることを知って落ち着いたのだが、それでもなかなかジギンから離れようとしなかった。
「そっか、終わったんスね」
「護衛任務はまだこれからなんだがな」
本来の目的を忘れているようなので釘を刺す。
「ジギンさんはもう無理なんじゃ……」
ココットが心配そうにジギンを見つめる。
「といっても馬は逃げちまったし、荷台でおとなしくしてるのが一番だと思うぞ。【疾風】もな。今から歩いて帰らせるわけにもいかんだろ」
「そうですね……国境の方が近いですもんね」
ブレットの判断にココットも同意した。
「とりあえず国境で回復を待ってジギンと【疾風】には報告に戻ってもらう。【疾風】の言っていた五人組のこともな」
おそらくその五人が院長の言っていた本命だろうと断定し、可能なら騎士団に動いてもらおうとブレットは考えていた。
討伐ギルドが対魔物の組織なら騎士団は対人を想定した組織だ。
とはいえ動かすのは自分ではないのでやるのは院長への報告と助言だけだ。
そして、リオ。
ココット達が戻ってきたとき、何故か生徒たちが大人しくなっていた。
生徒たちに事情を聞いてみると、スカイドラゴン落下の轟音を聞いた彼らはパニックを起こしかけていたのだが、リオがそれを冷静にまとめ上げていたらしい。
そのときにわかったのだが、彼女には意外な才能と知識があった。
ブレットからボスがスカイドラゴンだったことを聞いたリオが目を輝かせてそれを見たいと言い出し、その圧に負けたブレットが収納袋から取り出すと、ブレットの許可を得て解体を始めた。
ブレットも始めはその硬い外皮をどうするのかと思って見ていたが、その手段にまず驚いた。
それは【武器強化】。魔法だ。
人に掛ける魔法と違い、無機物への魔法は習得も使用も難しい。リオもその集中で手一杯になり、動く相手にはまだ使えないと言っていた。
それでも、リオはスカイドラゴンの外皮も簡単に捌いていた。
そしてもう一つ。
「ここ! ここが美味しいらしいんです!」
と、嬉々として解体を進めていくリオのその知識にまた驚かされた。
その食べる部位だけでなく、そこを取り出す為に切り分けた部位もしっかりと素材として使える適切な大きさに切っていたのだ。
しかも聞けばそこが何に有用なのかも答えられた。
「リオ。お前はウチより素材ギルドの方が向いている。その気があるなら口を利いてやるぞ」
その巨体の解体をジギンが目覚める前までに終わらせた手腕と知識を見て、翌日朝の出発前にブレットは提案した。
素材ギルドとは、討伐ギルドが倒してきた魔物を買い取り、解体・加工して商人ギルドや鍛治ギルドに卸すギルドだ。
「えっ? そ、そうなんですか? 学院ではここを勧められたんですけど……」
そう、リオは魔導学院の今年の卒業生だった。一般クラスのリオを知らなかったとはいえ、貴族の子たちが言うことを聞くようになったのはリオが自分たちの落ちた卒業試験を突破した優秀な先輩だとわかったからでもあった。
そして、優秀である故に学院も討伐ギルドを勧めたのだろう。
「ああ。向こうなら即戦力だな。どうする?」
「そ、そうですね。確かに解体してる方が楽しかったですし……お願いしてもいいですか?」
あの様子を見てそれがわからない者はいない。
「わかった。この先は……まぁ、お前も夏季休暇だと思って楽しめ」
合否は関係なくなったが、仕事として来ている以上は最後までやってもらう。
これは最後までやり遂げたということが今後活きるからだ。また、周りの評価にも繋がる。
「は、はい!」
まさか楽しめと言われるとは思っておらず、少しだけ嬉しそうに返事をした。
そして翌日、一行は国境へと辿り着いた。
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リオ「ブレットさん? もう戻って来ましたが」
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