第6回『言い間違い』
「聞き間違い」があるのなら、当然、「言い間違い」もあるわけです。
基本的には、どちらも似たことが出来るのですけれど、「言い間違い」の特徴として、「落ち」と「物語のラスト」を兼ねるのがしやすい、という点があげられます。
ショートショートの落ちは、必ずしも「物語のラスト」とは、同一ではありません。
それは、推理小説を思い浮かべていただけるとわかりやすいかもしれません。
推理の落ちである「謎解き」のあとで、「物語としてのラスト」が別に用意されているのを思い浮かべることができませんか?
ショートショートにも同じ事がいえます。
小説にはカッコイイ終わらせ方のパターンがいくつかあります。
例えば、ラストの一文が疑問形で終わっていると、読者への余韻を与えやすくできる、みたいなことです。
そのカッコイイ終わらせ方のひとつとして、「台詞で終わる」というのは、ポピュラーな方法です。
作中で返事のない台詞は、読者への語りかけになって、印象に残しやすいです。
つまり、「言い間違い」の場合、この「台詞で終わる」のが、やりやすいというわけですね。
「聞き間違い」と違い、台詞を聞く → どんな風に間違えたかを読者に伝える、という段階を踏まずとも、言い間違えた瞬間に、間違えたことが伝わるので、タイミングを自由にしやすく、セリフをラストに持って行くことが比較的容易です。
何より、ラストの一行まで変わったことが起きないのですから、唐突に落ちに持って行くことができるので、印象に残る台詞で終わらせることができます。
「落ち」と「物語のラスト」とで、二つアイディアを用意しなくてすむので、書き手としては、とても助かります。
ただ・・・
この方法には、一つ欠点があるのです。
例えば、こんなショートショートです。
『ホワイトデー』
「いいか、まずチョコのお礼に、一緒に昼メシでもどうですか、と彼女を誘え。」
「お、おう。」
「そして、帰りに、腹ごなしに、散歩でもしましょうと、公園の桜の様子を見につれていくんだ。」
「まだ蕾じゃないかな?」
「だからこそ意味がある、これは、次のお誘いにつなげるための布石だ。」
「そうか、わかった、い、いい、行ってくる。」
「健闘を祈る。」
緊張の面持ちで深呼吸、意を決して彼女のもとへと向かう。
「あ、あの、もし良かったら。」
「はい。」
「腹ごなしに、昼メシでもどうですか?」
ちょっぴり落語ちっくになってしまいます。
普段は、ショートショートでほのぼのコメディ集を連載しています。
ショートショートの実例がいっぱいありますので、良かったら見てください。
『月の音色』、『ほんのり、ほのぼのしてもらえたら嬉しいです』、『みどりの竜』です。




