第5回『聞き間違い』
ショートショートのテクニックのひとつ、「聞き間違い」を説明しつつ、ショートショートの構造についても説明したいと思います。
ショートショートの落ちには、いくつか基本形があります。
例えば、「ギャップ」、あるいは、「発想の飛躍」などです。
それらには、ひとつの共通点があります。
ギャップや飛躍が生まれるためには、「持ち上げて落とす」、「シリアスとコミカル」、「事件の前と後」など、「A」と「B」を比較しなければならず、最低でも構成要素が2つ必要だという事です。
つまり、ショートショートは、ひとつの話の中に、ふたつの要素を放り込んでくっつけたもの、と考えることが出来ます。
もちろん、それは基本形のひとつで、他のパターンも存在しますけれど、この二つくっつけるという考え方は、ショートショートの最もポピュラーな手法です。
第3回で紹介した手法も、二つの要素をくっつけて作るタイプのショートショートですね。
ここでのポイントは、全く別の二つのものをひとつに組み合わせるよりも、元々はひとつだったものを、二つに分割したものの方が、ひとつに組み合わせるのが、楽になる、という事です。
それで、その、ひとつのものを、二つに分割するためのテクニックとして使われるのが「聞き間違い」です。
「元の言葉」と「聞き間違えた言葉」に分割するパターンと、「聞こえている人」と「全く聞こえていない人」を登場させるパターンがあります。
さらに。
・「元の言葉を正しく聞き取った人(もしくは最初の発言者)」と「聞き間違えた人」
・全員間違えている
・「聞き間違えていることに気がついていない時」と「気がついた後」
なども利用して、ギャップや飛躍を生み出すべく、お話を組み立てます。
これに、もう一つ要素が加わります。
読者を騙すか、騙さないか、です。
つまり、登場人物が聞き間違えていることを、読者に、いつ知らせるか、ですね。
勘違いで起こるチグハグなやり取りを見てもらうことも、聞き間違えいることを隠したまま、悪さをすることも出来るわけです。
色々なパターンがありますが、聞き間違えて壊れた言葉から、元の言葉に復元する、というのが基本です。
例えば、こんなショートショートです。
『戦車』
春の陽気に誘われた戦車が、直後に爆撃を受けて見るも無残に・・・
って、なんのこと!
それが、ふと小耳にはさんだ両親の会話だということに、さらにびっくり。
「えらく物騒な話をしてるね。」
「物騒?」
父が首をかしげる。
「戦車とか爆撃とか聞こえたけど?」
「うぅ、綺麗に洗ったばかりの車に鳥が・・・」
傍らで、母が、めっちゃ笑ってた。
普段は、ショートショートでほのぼのコメディ集を連載しています。
ショートショートの実例がいっぱいありますので、良かったら見てください。
『月の音色』、『ほんのり、ほのぼのしてもらえたら嬉しいです』、『みどりの竜』です。




