第38回『〜していると』
叙述トリックにはいくつかの方法がありますが、一文全てではなくその一部だけしか後の文章にはかかっておらず、残りの部分は引き継がないことにより意味が変わるという書き方があります。
複数の意味を持つ言葉は文脈によって意味を特定しますが、その判断に使われた文脈が後の文章に引き継がれずに失われて、新たに追加された文とあらためて照らし合わせると別の意味に変わるというものです。
このトリックに使いやすい言葉に、”~の時に”あるいは”~していると”があります。
”~の時に”や”~していると”の意味は
①理由とタイミングの両方を説明している
②タイミングだけを説明している
の2パターンがあります。
全く別の二つの意味を持つのではなく、共通部分に+αがあるか無いか、という違いのため、途中で意味が変わるのに文章としては自然という書き方がしやすく、また、文脈を引き継がないことで+αの部分をそぎ落として、意味を変えるというのがやりやすいのです。
例えば
お昼を食べてお腹もくちた午後一の授業を受けていると、猛烈な眠気に襲われる。
腕時計型麻酔銃の針を首筋に撃ち込まれたのだ。
割と脈絡無くつなげられます。
通常ダブルミーニングだと全てとおしで、二通りの意味を持つように書く必要がありますが、この場合は、無理にダブルミーニングにする必要はなく、ただの修飾に変わりはしますが、内容そのものは変わらずにそのまま残せるのがポイントですね。
意味の変更は直後でなくとも良く、間に文章を挟む事もできますし、使い方は工夫次第です。
また、ただの修飾に変わった方の文章に伏線を紛れ込ませておくと、読者の警戒から外れるので気づかれにくくなるという使い方もできます。
テーマ『映画館でのとあるできごと』
https://ncode.syosetu.com/n4278gf/65/
注)上記では、"思っていたら"になってますが、要領は同じです。
もちろん、他の言葉でもできます。"〜していると"ほどのお手軽さはありませんけれど。
テーマ『映画館でのとあるできごと』
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での"移動時の交通機関から"の部分は、移動開始時を起点としてそれ以降も含めた範囲を表していますが、交通機関という記述により乗り物に乗っている間のことようにも見えます。これは、"移動時"という言葉が"交通機関"にかかっているか、"から"にかかっているか、その違いによって生じているものです。
指し示す範囲の広い言葉や、複数の意味を持った言葉、かかる言葉がズレると意味が変わったり、助詞が省略されていて入る助詞によって意味が変わったり、さらに、説明が足りないとあいまいになる言葉、別の意味に誤解させるような書き方などを駆使して、前後の文と組み合わせることで、このトリックを成立させます。
『憧れのシチュエーション』
「我ながら手間をいとわぬ大作、ドヤぁ」
預けた上着をかかげて見せつけて来る。
「ボタンを縫って大作って、お前なあ、手間をいとわないにしたって、どんだけかかってんだよ」
制服を受け取りながら。
「まさかの刺繍とはなあ」
赤い糸で描かれた大輪の花が咲き誇っていた。
三行目(”ボタンを縫って~”の行)の”かかって”の部分は、全体で見ると時間がかかっているように見えますが、実際には、全体ではなく"手間"にかかっていて、後に『刺繍』と明かされてそれがわかる(といいな)という仕組みですね。
時間とは書かずに時間のことのように見せかけてるんです。気づきにくいと思いますけれど、シクシク。




