第35回『ダジャレ・その1』(全3回)
ダジャレは、必ずダブルミーニングになるので、ショートショートでは大活躍です。
その一方で、いわゆる弱い落ちのため、そのまま使うことはためらわれます。
ひと工夫が必要です。
まず、大本となる言葉選びにちょっとしたコツがあります。
多少、エキセントリックだったり、物騒だったり、インパクトのある言葉を選びます。すると自然にギャップが大きくなりますからね。
『戦車』
春の陽気に誘われた戦車が、直後に爆撃を受けて見るも無残に・・・
って、なんのこと!
それが、ふと小耳にはさんだ両親の会話だということに、さらにびっくり。
「えらく物騒な話をしてるね。」
「物騒?」
父が首をかしげる。
「戦車とか爆撃とか聞こえたけど?」
「うぅ、綺麗に洗ったばかりの車に鳥が・・・」
傍らで、母が、めっちゃ笑ってた。
戦車と洗車ですね。
『根菜』
妻を怒らせてしまった。
食卓から、ある種、色どりが消えた。
大根、ゴボウ、サトイモ、人参・・・
「根菜ばかりだね、これってもしかして、まだ根に持ってるからねってことだったりする?」
「フンだ、葉物は、勘弁してあげてるの」
こちらは、刃物と葉物です。
2篇とも至極単純なダジャレですが、そこまで弱い落ちという感じではない(といいな)と思います。
ダジャレの落ちをちょっとよく見せる工夫が施してあります。
①一つの話の中に複数のネタを投入する。
戦車と洗車の他に、爆撃という言い回しを添えていたり、根菜と根に持っているとをかけたみたいなことを書いたり、いわば多段式というわけです。
②片方しか書かない。
ショートショートは、書かなくてもわかるよね?、っていうのが大事になるのですが、ダジャレは欠けているところに同じ音の言葉が入るというヒントになるので、あえて書かないようにします。
洗車とはあえて書かないように避けてるんですね。
『お月見』
「わぁ、このお団子、お月様にそなえているの?」
「いや、君の襲来に。」
上記の『お月見』は、供えると備えるのダジャレですが、備えるの方を書かないで済ませています。また、備えるという言葉自体のインパクトは弱くても、襲来という言葉には強いインパクトがあります。ダジャレに使う言葉そのものではなくても一緒に使う言葉にインパクトがあれば、そちらでも構いません。
③意味の片方をミスリードとして使う。
ミスリードというほどではないですが、2篇とも話の流れを落ちとは別方向に持っていっており、それを行うために落ちになっていない方の意味を利用しています。
『戦車』は、聞き間違えたというシチュエーションをギミックとして用いています。
『根菜』は、葉物とは反対方向の言葉(根菜)を利用しています。
二つとも本来の話の筋からはそらしつつ、かつ、落ちのための伏線にもなっているというテクニックですね。
特に、元の言葉の反対語や対義語など、反対方向に連想を働かせるというのはショートショートでは色々と有用なことなので意識しておくと良いと思います。
④あらかじめ伏線による準備をしておく。
ダジャレをミスリードに利用することは書きましたが、要するに伏線を張ってあらかじめ落ちのための準備をしておくことが大事です。例えば、そうと気づかれないように状況を説明しておいて、落ちでそういうことだったのか、となるように伏線を張っておきます。
喧嘩 + 根菜 の伏線からの → 葉物(刃物)
まあ、ダジャレだけではなく、全ての落ちに共通することですけれどね。
⑤複数のネタを投入する際に別々に使うのではなく一文に詰め込む。
ネタを多段式にすると良いと話をしましたが、さらに付け加えますと、二つのダジャレをなるべく同時に一文のなかで使うようにしたほうが、二箇所にわけて使うより読者の評価は上がります。
『かき氷』
「金融会社がかき氷屋を始めたんだけれど」
「どうなったの?」
「こおりがしなのに、こげついたってさ」
こんな感じです。一文に詰め込むとちょっと難易度が高いことをしているように見えます。
⑥登場人物が、他の登場人物に向かって言っている。
小説の落ちは読者のために用意するものですが、読者に向けて書くのではなく、登場人物が他の登場人物に向けて冗談を言っている、特に、楽しませようとしていたり、嫌味だったり、何らかの目的があって含みのある言葉を投げかけているという演出にすると、人間関係や情緒をプラスすることができるため、ダジャレを強化することができます。




