第34回『小一時間ほど説教したいところ』
誰が最初に考えたのかは知りませんが、こんな言い回しを聞いたことがありませんか?
”小一時間ほど説教したいところ”
これが、今回のテーマです。
この一文を、唐突な話題転換をスムーズに行うためのものへと魔改造したいと思います。
唐突な話題転換をスムーズに行える術があると、執筆が詰まってしまうという場面を減らすことが出来るので重宝します。また、ショートショートでは、飛躍や回帰などを行う際に、唐突な話題転換が必要になるので、こうした小技の開発に勤しむわけですね。
それでは・・・と、その前に(あ、急な話題転換)。
”ぎなた読み”をご存知でしょうか。
同じ文章なのに区切るところを変えて読むと意味が変わる、というものです。
いずれ、はしっただろう → いずれは、しっただろう
みたいなのですね。
文章に含みを持たせて二通りの意味にするのではなく、単語そのものを切ったりくっつけたりして別の言葉に作り変えてしまいます。
ぎなた読みの場合は、両方のパターンでともに、全ての文字を余さず使っていて、さらに、文章全体で意味が通っていますけれど、これから紹介する文章は、おかしなことになっているのに、なぜか違和感なく読めてしまう、というものです。
それが
”○○を小一時間ほど△△したい、ところ・・・で、”
です。
上記は、『ところ』に、『で』をプラスして、『ところで』という言葉に作り変えているのですが、ちょうどシナジーのある言葉が集まっているのです。
”ところ” → そのとき(タイミングを表す言葉)
”・・・” → わずかな時間経過
”で、” → それで、もしくは、そこで、の略
つなげると、”そのとき、わずかな間をおいて、それで”みたいなニュアンスに受け取れます。
そして、くっつけて作った言葉である”ところで”は、それより前の話題をご破算にして、違う話題に切り替える言葉です。その恩恵で、言葉のつながりが多少変でも読者は許容してくれます。
この後、”ところ・・・で、”に繋げて、”何か話題転換のきっかけになる出来事”を書き → ”次の話題”と続けます。
具体的に例文にしてみますと
”言葉の意味を小一時間ほど考えたい、ところ・・・で、携帯にかかってきた電話だった”
みたいな感じです。
唐突な話題変換が行われた感じが若干、緩和されて、流れがスムーズになります。
『ところ』は、タイミングを示す言葉なので、『きっかけ』を後ろにつなげると、そのタイミングで起きたきっかけとなって、意味につながりが出来ます。
また、この”したいところ”というフレーズは、あるエピソードの結論を感想として表すときに使われるもののため、話の区切りに使うにはちょうど良く、しかも、実際に行動を起こしているわけではなくて、ただ思っているだけなので、突然中断されたとしても、外部には何の影響も与えないというのも重要ですね。
まあ要するに、”ところで”という言葉を、上手いこと紛れ込ませて使いたい、という工夫なのです。
話題転換のための”ところで”を時系列の出来事とのダブルミーニングにすることで、唐突さを緩和しています。不格好なダブルミーニングですが、落ちに使うわけではないので、目的である橋渡しの役目さえ果たしてくれたら十分ですからね。
下記は実際の使用例です。
テーマ『花火師の憂鬱』
https://ncode.syosetu.com/n4278gf/53/
話題の転換につかえる接続詞は、”それにしても”、”そういえば”、”そうそう”などいくつかありますが、いずれも、それ以前の事を多少なりとも踏まえた上でないと使えない言葉です。
”ところで”は、前の話題をバッサリ切り捨ててしまえるところが一線を画しています。それゆえに、上手く使える方法を模索しているのですね。
よく見かけるのは笑い声につづけて使う方法です。
「はっはっは、ところで」
まず、笑い声自体が、話題転換に使えます。
おかしい時、自嘲、ごまかす時など、違う意味なのに笑うのは共通なので、前後の文章次第で意味を書き換えることができ、笑い声の前と後で話題転換させられます。それまでの話の流れから笑い声の意味は、こうだろうなと思わせたら、その直後のセリフで別のニュアンスに上書きしてしまいます。
どうだ、ついにやり遂げたぞ!
フッフッフ。
もう、おうちに帰りたい。
みたいな。
ちなみに、擬音はいわば関数で、意味を付与する伏線とセットで使われる、という説明を下記でしているので参考までに。
第9回『擬音祭・その1』
https://ncode.syosetu.com/n4184gg/11/
第10回『擬音祭・その2』
https://ncode.syosetu.com/n4184gg/12/
それと、高笑いというのは、笑う前の行為をやめて、笑っている間は他の行動をとらず、笑い終わってから次の行動に移る、という特徴があるため、自然に場面転換みたいなことがおきます。
そこに、”ところで”を組み合わせているのですね。
あ、”そうそう”、それ以前の出来事を踏まえる必要がある接続詞ですが、”それでは・・・と、その前に”のような前置きを伏線として張って、それとセットにしておくと、ちょっと強調されて、”それにしても”とか”そういえば”という、話題転換のための接続詞の後に続く文章が、落ちとして活かせる場面が作れたりします。
最後におまけです。
”ところ・・・で”の他にも似たバリエーションがあります。
・ちょっとまって、それ・・・でも!
汎用性は、”ところ・・・で”よりも下がりますけれど、一瞬の躊躇の後の決意みたいなものを表せます。
・それは・・・、それとして
これは、まあまあ本来の使いかたのままですけれど、少し肩透かし風な感じになります。




