第30回『ショートショートの四つの基本形』
以前、かっぽうに書いたものに若干の加筆をしたものです。
結構長いです。
以前にも、ちょこちょことショートショートの基本的な構造のひとつとして、”二つ以上の要素をくっつけている”というのには触れたことがあるのですけれど、ショートショートの基本形にはどんな種類があるのかということは、もっと最初の方で書いておくべきことだったかもしれません。
ショートショートの中でも”言葉遊び”をメインとするものには、大きく分けて4つの基本形があります。
(もちろん、それで全部ではなくて、当てはまらないのもあるんですけれどね)。
①二つ以上の要素をくっつけている
②文章のどこかが欠けている
③何かを繰り返している
④何かを言い換えている
この4つは、それぞれ個別に使われるのみならず、合わせ技的に使われたりもします。
①二つ以上の要素をくっつけている
上げてから落とす、発想が飛躍する、ギャップを生む、などは、AとBの二つを比較する必要があります。つまり、AとBの二つの要素が必要になるということですね。
一見、かけ離れている二つの要素の共通点を見つけ出して、結合させるというのがショートショートの基本形のひとつになります。
『レンジ』
あいつはすごい。
私がチン!と鳴らして呼んでも、かなりの確率で放置されてしまうというのに。
あいつは、ターンテーブルも、タイマーもついていないけれど、ひとたび、ピーッと笛を鳴らして呼び出せば、他の何をおいても、人間たちは飛んでくる。
私は、ヤカンにあこがれている。
また、ひとつの文章に、二つ以上の意味を持たせる、ダブルミーニングを作る時など、共通する部分が先にあって、そこに収束する、あるいは、そこで分岐する二つのエピソードを考えることもあります。
『根菜』
妻を怒らせてしまった。
食卓から、ある種、色どりが消えた。
大根、ゴボウ、サトイモ、人参・・・根菜ばかりだ。
「これってもしかして、まだ根に持ってるからねってことだったりするのでしょうか?」
「フンだ、葉物は、勘弁してあげてるの」
あと、日本語としてはおかしなくっつけ方をしてしまってもお話を作れます。
『ホワイトデー』
「いいか、まずチョコのお礼に、一緒に昼メシでもどうですか、と彼女を誘え」
「お、おう」
「そして、帰りに、腹ごなしに、散歩でもしましょうと、公園の桜の様子を見につれていくんだ」
「まだ蕾じゃないかな?」
「だからこそ意味がある、これは、次のお誘いにつなげるための布石だ」
「そうか、わかった、い、いい、行ってくる」
「健闘を祈る」
緊張の面持ちで深呼吸、意を決して彼女のもとへと向かう。
「あ、あの、もし良かったら」
「はい」
「腹ごなしに、昼メシでもどうですか?」
応用編として、繋げる時に、時系列の順番を入れ替えるという方法があります。
(以下の説明で、”A、B、C”の繋げ方は、ざっくりした説明にすぎないので、必ずしもその通りと言うわけではなく、イメージとしてはこんな感じ、くらいに受け取ってください)。
”A → B → C”の順に起きるはずのことを
”C → A → B”の順番で繋げると『予言をする話』に
”A → C → B”の順番で繋げると『話が一気に飛んでから、その飛んだ理由を説明する話』に
”C → A → B → C”の順番で繋げると、『回帰する話』に
なったりします。
『七夕』
「願い事は決まった?」
「君の願いがかないませんように」
「ひどい」
「この件では織姫や彦星とは利害が一致している」
「なんで!」
「なんなら試しに書いてみたらどう?」
「あなたが、私に優しくなりますように」
「ふっ、言っただろ、そんなことをして雨でも降ったら、困るのは奴らなのさ」
『赤いニシンがおぼれる』
「このケーキの空き箱に残るドライアイス、これこそが、消えた凶器の謎の答えだ!」
「ここはクルーザーの船室で、海のど真ん中だぞ、氷の凶器を使う意味がどこにある」
「なるほど、海に投げ込んでしまえば良いという・・・、待てよ、これはいわゆるクローズドサークルという奴じゃないか」
「ああ、疑いようもなくね」
「つまり、犯人はこの中にいる!」
「それがダイイングメッセージで良いんだな?」
「きゃー」
「さて、消えたケーキの箱の中身について、”もう一度”、答えてもらおうか?」
②文章のどこかが欠けている
実際には書かれていないけれど、言いたいことはわかる、というタイプの話ですね。
前後の文脈から推測できるように書いたり、一般的な常識として日本人なら誰でも知っていそうなことを省いて書きます。
最後まで書かなくても落ちはわかるよね?、っていうアメリカンジョークみたいな書き方の他にも、最初の説明が抜けていて、後から謎が解ける話にしたり、途中が抜けていて、話が飛躍するという書き方もあります。
ただ、この方法は答え合わせが出来ないので、伝わらなかった読者は置いてきぼりになってしまうという欠点があります。
『子犬の願い』
どうか、文字を読めるようにしてください。
門のところの張り紙を見るとね、ボクが挨拶をした人、みんなが笑顔になるから。
きっと素敵なことが書いてあるに違いないんだ。
『冷凍食品』
「お昼、冷凍のチャーハンでいい?」
「いいよー」
「レンジで6分だって、時計見てて」
「わかった・・・って、ん?」
③何かを繰り返す
あまり説明はいりませんね、そのままです。
次以降の伏線も兼ねていて、さらに追い打ちをかけて印象を強くしたり、読者が予見してくれることで説明を省いたり、期待してもらえるという効果があります。
途中でパターンを変えると、読者をミスリードさせてから意表を突く、なんてこともできます。
韻を踏んで言葉遊びのテクニックをみせるとか、ちょっとずつ変えていって最後は全然別の物になっているとか、間を開けて忘れたころに使うとか、繰り返している文章は同じなのに都度ニュアンスが変わっているとか、応用があります。
また、繰り返される定型文を用いることで、場面転換の際の合図の様な使い方が出来ます。
『対義語』
「こたつの対義語は、わかる?」
「え、なにかな?」
「一話完結の短編集」
「なんで?」
「みかんはのせないから」
「あー、少し苦しいかも」
「じゃあね、ストーブの対義語は?」
「んー、なに?」
「午後2時が最終便の遊覧船」
「どうして?」
「やかんはのせないから」
「ああ」
場面転換の合図の例です。
『井原さんは、今日も元気に、こじらせている』
https://ncode.syosetu.com/n6995ge/10/
④何かを言い換えている
これも、そのままなのですけれど、何かを別の言葉に置き換えて表します。
普通に、言い回しが面白い、というだけでなく、それによって、正体を隠したりとか、含みを持たせたりとか、工夫を凝らすこともできます。
『エマージェンシー』
「外部装甲を切除、被害状況確認、損傷の激しいブロックをパージします」
「さっきから、何してるの?」
「みかんの傷んだ房をよけてるの」
『魔法の財布』
「お前の財布、ボロボロじゃないか」
「こいつは、魔法の財布なんだ」
「あはは、まさか」
「本当さ、時折、ポケットに、お金が転がり込んでくるって代物だ」
以上、 『ショートショートの4つの基本形』 を紹介しました。
これらは、大きくまとめたら4つあるというものなので、さらに応用を重ねたり組み合わせたりして派生形が生み出されていきます。
おまけで、派生形の例を二つ紹介しますね。
ひとつは、使用頻度が非常に高いと思われる”話の流れが予想外の方向に進む”ものです。
もうひとつは、変わり種で、”現実には存在していない架空の設定を前提にして話が進む”ものです。
①話の流れが予想外の方向に進む
怒られると思わせて褒められる、からかわれていると思わせてマジ、のように予想とは違う流れになったり、そもそもの話の趣旨が変わってしまう、など、発想の飛躍と言うよりは、ミスリードによって騙すニュアンスが強い書き方です。
『競歩』
「コラッ、プールサイドを走るんじゃない!」
「先生、これは競歩です」
「少しは泳ぐ努力をしろと言っているんだ!」
②現実には存在していない架空の設定を前提にして話が進む
ごっこ遊び的な話ですね。
あたかも当たり前の事のように話が続いているけれど、そもそも前提がおかしいっていうね。
分かりやすく言うと、
「あなたは、生き別れのお父さん!」
「バレてしまっては仕方ない、そうだ、私がお前の父だ!」
「いや、お前ら、いつから親子になったんだよ」
みたいなノリですね。
話を逸らしたり、勝手に何かに仕立て上げたり、ノリノリで話に乗って最後は現実とシンクロしたり、普通はそうはならんだろうっていうつながり方を特殊な設定を利用して実現させたり、ですね。
『運の良い話』
妹がご機嫌で料理をしている。
包丁を振るいながら、それは、それは、楽しそうに。
「死ね、アニキ!」
「なんだ、その物騒な掛け声は!」
「料理がはかどるおまじないだよ」
ニコッ。
「お前、そうやって、ちょいちょい、俺をやりにくるよな」
「ちっ、運のいい奴め」
『大掃除』
「かつて天使と悪魔の争いがあった」
「ふむ」
「絶縁テープをめぐって」
「なんと」
「一体、絶縁するのか、くっつけるのか」
「なるほど、で、どうなったの?」
「くっつけたり、離れさせたりを繰り返して、結局、ベタベタになった」
「はいはい、掃除しようね」
最後に、紹介した基本形を全部一度に使っている話です。
『タクシー』
https://ncode.syosetu.com/n6995ge/141/




