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第28回『伏線について』

 伏線については、いずれガッツリ語らねば、と思っていました。


 もちろん、語りつくすことは出来ないのですけれど、少々、長くなってしまうかもしれません。



 まず、前提として、ショートショートの面白さは、ほぼほぼ、落ちの面白さで決まります。そのため、弱い落ちを、そのまま使ってしまうのは、ショートショートのタブーです。


 同じ落ちでも、ちょっとよく見せる方法というのがあるので、そういう工夫を施すわけですね。


 その基本は、必ず伏線を張ること、です。



 伏線と聞くと、答えにつながるヒントのように思えるかもしれませんけれど、ショートショートは、ミステリーとは違うので、全ての伏線が、必ずしも正解につながる伏線でなくても構いません。


 例えば、ミスリードも立派な伏線の一種です。


 ただし、フェアでないと読者の不満につながるので、そこは、要注意です。


 勘違いさせてしまったかもしれませんけれど、ミスリードを推奨しているのではなくて、”全ての伏線が必ずしも正解につながっていなくても良い”ということが、重要なんですね。


 説明が難しいですけれど・・・、例えば、



 落ち→落ちのための伏線→落ちのための伏線のための伏線・・・



 と言う感じで、伏線をリレーしながら数珠つなぎにしていく、という方法があります。


 幾つか、パターンがあるのですけれど、代表的なものだと、



 いったん持ち上げて、落して、また持ち上げて、落す



 みたいな、読者を振り回しにかかるタイプですね。



 他には、



 たとえ落ち自体は簡単でも、その落ちにたどり着くためのヒントとなる伏線をはっきりとは書かないでおいて、その重要な伏線のぼやかした部分がどんな事だったのかがわかるための伏線をはる



 というパターンがあります。


 例えば、



 テレて顔が赤くなっちゃう、というのが最後の落ちだとすると


 赤を連想させるための金魚の描写を入れておいて、水槽にうつった顔を、金魚に見立てて描写する



 見たいな感じですね。




 後よく使うのは、伏線を数珠つなぎにすることで、不意を突くという方法です。


 どういう事かと言うと、


 落ち→落ちのための伏線→落ちのための伏線のための伏線・・・


 というようにつなげている場合、落ちに直接つながる伏線は、落ちの直前まで出てこないわけです。つまり、落ちを予想されることを避けつつ、バン!、バン!、と、最後に落ちまでたたみかける、というような使い方が出来ます。


 これは、落ちのための伏線が少なく、アンフェアに思えるかもしれませんが、”物語の先へとつながる伏線”というもの自体は、物語を通して張られているので、読者が不満に感じる危険は少なくなります。



 それでは、実際の使用例を見てください。



『ガラスの小瓶』


 ミステリーは、無理かなあ。


 ハンカチにくるんで密かに持ち込んだガラスの小瓶だなんて、絶好のシチュエーションなのだけれど、残念。


 だって、ここで、これから起こるのは、服毒事件なんかじゃなくて、無差別テロ、なんだもの。


 ウフフ、こんな小瓶でも、この教室にいる人たちくらいなら、十分すぎる量のバニラエッセンス。


 さぁ、生殺しだ!




 これは、”持ち上げたり、落したりして、読者を振り回す”というタイプと、”落ちに直接つながる伏線を、ギリギリまで出さない”というタイプの合わせ技になっています。


 前の一文を受け、次の一文の伏線を張る、というリレーをし続けているんですね。


 その伏線で、毒を盛るのを印象付け → それを否定しておいて → 無差別テロだとエスカレートした発言をして → 事件ではない、という感じで、上げて下げてを繰り返しています。


 そして、最後の落ちに直接的につながる伏線(ここでは、バニラエッセンス)は、直前まで出てこずに、最後は、勢いで、えいやあっ、と落しています。



 おまけとして、技術的なことを説明しますと、ミスリードのテクニックのひとつとして、文章としては否定文の形になっていますけれど、実際には、読者に印象付ける目的で書かれている、ということをしています。


 ミスリードと言うのは、間違った情報なわけですから、ちゃんと否定していたでしょ、という体裁を整えているわけですね。


 ”熱湯につき入浴厳禁”


 みたいに、書かれていたら、否定する文章なのに、”熱湯”を印象付けることができる、というわけです。


 この書き方は、ミスリードとは、逆の目的にも応用できます。


 ミスリードは、正解ではない物を印象付けるのが目的ですが、そうではなく、不正解の物は、否定されていたのですから、ちゃんと正解につながるヒントにはなっていましたよね、という使い方です。


 正解に直接的につながる言葉を使わずに、ヒントを出すことで、気づかれにくいようにカモフラージュする、という使い方です。




 さて、それでは、もう一つの例文も見てください。




『金魚』


「やあ、お前、元気にしてた」


 腰を落として、水槽をのぞくと、赤い金魚が、こちらを見つめ返している。


「遊びに来たよ、私のこと覚えてるの?」


 ぽわぽわしながら、口をパクパクして、ふふふ、可愛い。


「この子たちって、あの縁日のだよね?」


「そうだよ」


 ふーん、もしかして、案外、大切に思ってくれていたりするのかな。


「ねぇ、名前とか、つけてる?」


「そいつの名前は、ヒレ」


 付けてた!


「あははは、金魚だから、ヒレって」


 でも、そっかそっか、名前つけてたかあ、結構、大切にしてくれてるんだ。


「じゃあ、あっちの子は?」


「ロース」


 ・・・そうでもないのか?


 首をかしげるそぶりが、ガラスに映り、それが、ふと目にとまって、つい前髪に手を伸ばしたら。


「髪、切ったの?、似合ってるよ」


 かけられた声に、振り向けず、ひたすら水槽をみつめてしまう。


 んー、んー、んーっ。


 ああっ、もしかして、こらっ、なにを笑ってるんだよ、こいつめ。


 水槽からこっちを見ている、その鼻先を、ちょんとつつく。


 なにさ、赤い顔なんてしちゃってさ。





 こちらは、”落ち自体は簡単でも、落ちのための伏線がぼやかされていて、そのぼやかされた伏線のための伏線を張る”というパターンです。


 落ちは、顔が赤くなる、というだけの事でも、伏線の張り方次第で、ショートショートになりますよ、と言う事ですね。



 これも、おまけで、技術的な話をひとつしますと、見立てを使ってダブルミーニングを作るというテクニックがあります。


 ダブルミーニングというのは、ひとつの文章が、捉え方によって、複数の意味にとれるように書かれている物の事です。


 見立てというのは、”何かを別の何かに例えて描写をする”ことです。


 ○○は、まるで、××みたいだ


 と言う事ですね。


 この時、○○の本来もっている意味と、××と同じ意味の、二つの意味を獲得したことになります。


 これを、二つの意味を持つ文章を作るために利用するわけですね。


 見立てをあらかじめ伏線として張っておくことで、ダブルミーニングを成立させるというトリッキーなことも可能とする、そんな伏線の奥深さと大切さ、感じ取っていただけたでしょうか?



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『このヒロイン、実は・・・』
 SF?、ミステリー?、コメディ?、そんな感じの短編です。

『月の音色』

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