第17回『文章を削る』
落ちのネタを集める方法、連想ゲームで落ちを作る方法、落ちからショートショートにアレンジする方法、小説のラストシーン、伏線と構成。
それぞれの工程で工夫ができる、ということは、伝わりましたか?
第1回で、ショートショートの基礎は次の五つだと書きました。
①落ち
②物語のラスト
③伏線
④構成
⑤書き出し
入れ替わることもありますが、上記の順番で作っていきます。
ショートショートが、他の小説と違うところは、ストーリーよりも、シチュエーションが重視されるという点です。
落ちを成立させる状況をつくり、それを説明しながらも、同時に、落ちがバレないように隠し通す、という相反することを成功させなければなりません。
その上で、面白くなければなりません。
落ちを効果的に使う工夫を施します。
これだけのことをしていると、自然と話の流れができています。
落ちとラストを決める → 伏線を考える → それを成立させる状況を考える
この時点で、ショートショートの概要はできます。
さて、問題はここからです。
できたショートショートが、そのままでも面白ければ良いのですが、物足りないと思うときには、さらにアイディアを追加します。
ショートショートは、短い文章の中に、アイディアがギュッと詰まっているほど、評価が上がります。
アイディアを追加するというと難易度が上がる気がするかもしれませんけれど、実は、すごく面白いネタを一つ見つけるよりも、些細なネタを二つみつけるほうが、簡単なのです。
それに、必ずしも新たにアイディアを考える必要はありません。
ショートショートには、いわゆる「弱い落ち」を補助したり、強化する技がいくつもあります。
そうした技を使って工夫したことも、追加するアイディアに数えられます。
例えば、終わらせ方を工夫するというのは、そのうちの一つです。
第1回で、一番簡単なショートショートの書き方として、起承転結の「結」を書かない、というのを紹介しています。
ショートショートでは、ラストを書かなかったり、落ちを隠すためにあえて書かないことがあったりと、小説なのに、「書かない」ことが大切です。
いわゆる「弱い」落ちを強化して、使える落ちにするという考え方もあるのですけれど、落ちを強化するのではなく、文章の量の方を減らして、落ちにかかる負担を軽減させる、という方法もあります。
落ちは、その強度によって、支えられる文章の量が決まっています。
延々と長い文章を読まされたあげくに、たいしたことのない落ちだったら、うんざりしますよね。
逆に、たとえ、ささやかな落ちだったとしても、文章が短ければ、面白いと思ってもらえます。
ショートショートの評価は、短い文章の中にアイディアがギュッと詰まっていることで上がりますからね。
同じ意味の文章を、より短く表現するための工夫も、アイディアに含まれるのです。
本文の冗長部分を可能な限り削ってコンパクトにすることで、落ちにかかる負担を減らし、相対的に、ショートショートを面白くすることができます。
第1回で、「場所、季節、時間、状況、立場などを”一度に複数”表すことが出来る言葉」は、ネタになると紹介しています。
一言で、複数の情報をもたらすので、文章が短くなります。
そう、それらは、ここで生きてくるわけですね。
例えば、「放課後」です。
授業が終わったばかりの学生で、おそらくは制服姿です。
時間、場所、身分、年齢、服装、持ち物、グループの人間関係などが、全部ひとことで説明できてしまいます。
それらは、あらためて書く必要がなくなります。
この書かれていないのにわかる、ということが重要なことなのです。
第1回で紹介していた、基本的な落ちの中の「気づき」と同じ効果があります。
「気づき」というのは、「あっ、そういうことか!」とわかった瞬間に感じる楽しさを利用した落ちのことです。
実際には、文章として説明はされてはいないけれど、伝わるようにはなっていた、という場合、落ちを読んだ瞬間に「あっ!」、さらに、ヒントがあったことに気がついて「ああっ!」と連続で起こります。
結果的に、落ちの強化にもなります。
わざわざ新しく別のアイディアを持ってこなくても、むしろ文章を削っていくことでも、ショートショートを面白くすることができるわけですね。
普段は、ショートショートでほのぼのコメディ集を連載しています。
『月の音色』、『ほんのり、ほのぼのしてもらえたら嬉しいです』、『みどりの竜』です。
ショートショートの実例がいっぱいありますので、良かったら見てくださいね。




