第1回『ショートショートを書くための下準備』
最初に言っておく!
このエッセイは、かーなーり、長い!
ショートショートを書くときには、必ず、してほしいことがあります。
①下書きをすること
②下書きの段階で、必ず、人に読んでもらうこと
③その意見を聞いて、推敲を重ねること
ショートショートは、読者をだましたり、意表を突いたりします。
書いた本人は、その内容の全てを知っているため、自分で読み返しただけでは、何も知らずに初めて読んだ人が、騙されてくれるのか、あるいは、ちゃんと理解できるのか、それがわからないのです。
必ず、人に読んでもらってください。
小説全般の練習として、ショートショートを書こうとしている場合には、下書きの前にプロットを作ってほしいのですけれど、ショートショートの場合は、プロットを書いたら、もうほとんど下書きと変わらなかった、ということも多いので・・・
より長い作品を書く際には、先にプロットを作ってくださいね。
それでは、ショートショートの書き方を解説します。
ショートショートの基礎は、次の5つです。
①落ち
②小説のラスト
③伏線
④構成
⑤書き出し
入れ替わることもありますが、基本は、上記の順番で考えます。
①の前に、ジャンルを決めることもありますね。
「①落ち」と「②小説のラスト」は、兼ねることもありますが、別々のものと考えてください。つまり、一本のショートショートには、二つのアイディアが必要ということです。
このアイディアが二ついるというのは、とても重要です。
ショートショートがなかなか書けなくて、詰まってしまうのは、実は、アイディアが二ついることを知らずに、ひとつのアイディアだけで書こうとしているのが原因なことも多いのです。
明言しますが、ストーリーに落ちをつけるよりも、落ちにストーリーをつける方が絶対に楽です。
最初に、落ちを考えてください。
落ちの作り方ですが、とにかく、ネタ帳を肌身離さず持ち歩くことから始めてください。少しでも面白いと思うことがあったら、その場ですぐにメモを取れる体制を整えます。
その際、メモを後から読み返しても、ちゃんと意味が分かるように書いてくださいね。自分で書いたはずなのに、一体、何のことだろう?っていうのは、とても多いのです、シクシク。
ショートショートのために、日々、ネタ探しに明け暮れる覚悟を完了してくださいね。
ネタを集める際のコツについても説明していきますが、とりあえず、映画やドラマなどの創作物の映像を見ながら、ネタを探す訓練を心がけてみて下さい。
映画やドラマなどの創作物は、監督、演出家、役者など、観察力に優れた人たちが、面白いと思ったものをあらかじめピックアップして詰め込んでおいてくれたものです。もちろん、その作品オリジナルのアイディアをパクってはダメですけれど、何もないところからネタを探すよりかは、ずっと見つけやすいはずです。
そうやって、ネタを探す訓練をしていると、観察力がついて、普段の生活の中からも、ネタが探せるようになると思います。
ネタを探すアンテナの感度をより高めるためには、ショートショートのテクニック的な知識を覚えることをお勧めします。知識が感性の邪魔になる可能性もありますけれど、ルールを知らない人が囲碁の対局を見ても、それがどれほど良い手なのかがわからないのと同じで、知識がないと気づけないことも、多くなります。
知識があれば、人と同じものを見ていても、より多くのネタを集めることが出来ます。
それでは、どういったものがネタになるのかを説明します。
ショートショートには、何種類かの基本的な落ちがあります。
①発想の飛躍
②ミスリードを利用したもの
③ギャップ
④ダブルミーニング
⑤言葉遊び
⑥気づき
②は、説明の都合で挙げはしましたが、独立した落ちとしていいのか迷います。ミスリードは、分類的には伏線です。
④のダブルミーニングとは、ひとつの文から、複数の意味が読み取れる文章のことです。
⑤は、④以外の言葉遊びですね。
⑥の「気づき」とは、意味が分かった瞬間、あっ!となったときに感じる楽しさを利用した落ちの事です。仕組みとしては、①と同様ですが、謎解きっぽい感じですね。ちなみに、「気づき」という言葉は、私が勝手に言っているだけなので、正式な呼び名が他にあるやもしれません。
ここでは、どんなものがショートショートの落ちになるのか、なんとなくイメージしてもらうことができれば、それで構いません。
わからないなあ、という場合には、私に質問をしてください。
残念ながら、日常に、面白い出来事や事件は、そうそう転がってはいません。そういうものばかりを探していては、徒労に終わります。
集めるのは、パーツや素材です。
それひとつだけでは、落ちにならなくても、組み合わせることで使えるようになる、そういう素材を集めます。
では、どういったものが素材として使えるのか、いくつかピックアップしますね。
①知らなかった単語、変わった言い回し、複数の意味を持つ言葉、ことわざ、故事、慣用句、決まり文句、名言、専門用語、隠語、古い言葉、擬音語、擬態語、比喩、韻、別名、語源、駄洒落、回文、ぎなたよみ、男ことば、女ことば、方言。
どの言葉が使えるか分からないので、手当たり次第にメモります。
②何かとセットで使われるもの、セットで用意されているもの、単体では使わないもの。
例えば、靴べら、ピーナツバター、水着、手袋、水槽のポンプ、クレヨンなどです。
これらは、「あるべきものがない」、「描写はされていないが実はあった」、「おかしな組み合わせを作る」など、利用価値がとても高いです。
③場所、季節、時間、状況、立場などを”一度に複数”表すことが出来る言葉。
放課後、終電間際、残業、雨宿り、バス停の時刻表、忘れ物、白衣、いらっしゃいませ、などです。
直接落ちに使うというよりは、伏線として使うと、とても優秀な言葉たちです。気がついたらメモっておくと重宝します。
④習慣、慣習、マナー、ゼスチャー、仕草、癖など、ある特定のイメージを想起させるもの。
初詣、ナンパ、七五三、レディファースト、おかゆ、ほほをかく、サムズアップ、手のひらに人と書いて飲み込む、などです。
伏線としても重宝しますが、より狭い特定の状況を表すので、嫌味など、含みのある言葉として使う事で、より直接的に落ちに使えます。また、特に心理描写につながる仕草は、小説的に使い勝手が良いです。
⑤本来の使い方とは違う利用方法、壊れて本来の使い方が出来なくなった物の利用方法、代用品としてよく使われるもの。
苺シロップ→血のり、バケツ→雪だるまの帽子、穴の開いた長靴→植木鉢にする、などです。
そのまま見せるのにも、騙すのにも、意表を突くのにも、使えます。
代用品としてよく使われるもので、紙吹雪の雪、ライトの代わりに携帯、手のひらにメモ、などのポピュラーな方法の場合は、逆に描写を省いても伝わることを期待したりも出来ます。
⑥特定の使い道や状況に限定されるもの。
流し台の前の踏み台→背の低い子供がいる、スポーツ用品、ペット用品、野菜の名前の書かれた小さな立て札、処方されたクスリの袋、などです。
暗示として使うことが出来ます。
⑦一連の動作。
お皿を洗う前には袖をまくる、靴ひもを結ぶ前には手荷物をおく、電話を片手にメモを探す、手のひらで雨を確認するときは顔に雨が当たった後である、などです。
次の行動がある程度予測できるような、連続して起こる動作は、ショートショートにしやすいです。
⑧何かの代名詞的な表現。
六日知らず、安打製造機、栗よりうまい十三里、などです。
比喩や誇張表現を用いて、直接的な描写を避けられるものは、便利です。
⑨助詞や述語を省いても成り立つ文章。
「そうそれ、その箱、しまっといて」 → 箱”を”しまうのか、箱”に”しまうのかで意味が変わるのに、言い回しとしては、普通に使えます。
こういうのは、ネタにできます。
⑩何かを自動的に連想させるもの。
魚の漢字がいっぱい書かれた湯呑、飯盒、蛍の光、音楽家の肖像画、などです。
何かを強く暗示させるけれど、そうとも限らないという、表と裏、どちらにも使えます。
これは、一対一の関係でなくてもよく、複数のものが集まったときに、ひとつのものが思い浮かぶでもいいです。
扇子+手ぬぐい+座布団→落語、みたいなのです。
この場合、ミステリーっぽい話が作れたりもします。
⑪音、香り、温度、触り心地など、視覚以外の描写。
シャンプーの香り、後ろから近づく足音、雨が降る前の空気、ふかふかの毛並み、などです。
視覚以外の情報は、読者が得る情報が増えるだけではなく、実は、同時に減らします。
代わりに、視覚情報を奪われるのです。
後ろから近づく足音 → 服の色、年齢、身長、性別、正確な距離、といった情報を隠せます。
⑫心理描写につながる言葉。
バレンタインのチョコレート、映画のペアチケット、ハイタッチ、ほっぺを膨らませる、そっぽを向く、たたく真似をする、などです。
これらは、映画やドラマからもネタを得られるので、積極的に集めてください。
上記の①~⑫の例は、普通にしていては見逃してしまいがちなものをピックアップしただけです。それ以外にも、面白いことがあったら、すかさずメモを取ってくださいね。
ここまでで、いくつか大雑把な共通点に気がついていると思います。
・何らかの連想が働く。
・複数の意味を持つ。
・ヒントを与えつつ情報を隠す。
・心理描写につながる。
これらは、ショートショートの代表的な落ちである、「発想の飛躍」、「ギャップ」、「ミスリード」、「ダブルミーニング」、「言葉遊び」、「気づき」などにつながる素材採集です。
ネタ集めのコツを掴めそうですか?
ショートショートの知識があれば、拾えるネタが増えることも、伝わりましたか?
落ちを作るためのネタ集めは、ショートショートの最大の難関です。
ここさえ、突破できれば、ショートショートが書けます。
とはいっても、まだ、ショートショートを書き始める前の段階です。
頑張ってください。
でも、そうですね、一番簡単なショートショートの書き方を、ひとつ説明しますね。
起承転結の「結」を書かない。
それだけです。
ここまで書けば、最後まで書かなくてもわかるよね?
というところで、筆をおき、最終的な結末は、書かないようにします。
落ちの種類で言うと「気づき」ですね。
この手法は、「落ち」と「小説のラスト」を、同一にしやすいです。
その点でも、難易度は少しだけ下がります。
例文です。
ネタ帳のどの項目が、どんな風に使われてるのかも、少し気にしながら読んでみて下さい。
『そのぷりん、さんじになるまで』
「うまく割れないの、手伝って。」
卵を手に、彼女が言った。
「ゴメン、両手、塞がってる。」
「じゃ、額にキスしてあげると言ったらどうする?」
「えっ。」
「少しかがんで。」
こんな感じです。
この手法で、大事なのは、伏線です。
伏線のヒントだけで、結果がわからないといけません。
ショートショート全般にとっても、伏線は、大切なことです。
この手法は、上手なヒントの出し方の練習を積むのにも向いていると思います。
ただ、あんまりバレバレでも、面白くありません。
私の場合は、わかる人にはわかるかな、くらいにします。
けれど、この手法だと、「落ち」の答え合わせが出来ないので、分からない人は、完全に置いてきぼりです。
その点がネックですね。
分かりやすいのが好きな人もいます。
狙っている読者の層に、留意してください。
伏線の話は、いずれガッツリしようと思うのですけれど、簡単なテクニックをひとつ、お教えしますね。
『お月見』
「わぁ、このお団子、お月様にそなえているの?」
「いや、君の襲来に。」
駄洒落です。
駄洒落は、同じ音の言葉が、文章の欠けているところに入る、というヒントを出すことが出来るため、この手法に、向いています。
ついでに、駄洒落も、あえて最後まで言わないことで、少し、かっこよくなります。
駄洒落という「言葉遊び」と、文章が欠けている「気づき」が、いっぺんに使われているからですね。
最初は、ショートショートの書き方を、手順を追って、一通り書くつもりだったのですけれど・・・
力尽きました。
というわけで、連載します。
普段は、ショートショートでほのぼのコメディ集を連載しています。
ショートショートの実例がいっぱいありますので、良かったら見てください。
『月の音色』、『ほんのり、ほのぼのしてもらえたら嬉しいです』、『みどりの竜』です。