第12回『ツッコミ』
ショートショートの最難関は、落ちを作ることですが、落ちができたとしても、それをアレンジして、ショートショートの形にしなければなりません。
「落ちをショートショートにアレンジする方法」は、よくあるパターンを覚えておいて、ショートショートにする作業を、いくらか楽にしようという算段です。
これまでに説明した、「言い間違い」にしても、「言い訳」にしても、ショートショートの構造としては同種です。
何か最初に台詞があり、それを何らかの理由で変更して、言い直します。
この、言い直すというのがポイントです。
最初の台詞と、言い直した台詞、二つをつなぎ合わせることで、ショートショートにすることができます。
これを踏まえると、「落ちのアレンジの方法」を得るには、ごく自然に言い直しが発生するシチュエーションを考えればいい、ということになります。
もちろん、これは、数ある方法のひとつでしか有りませんけれど。
それでは、どのようなシチュエーションがあり得るでしょうか。
ひとつ、とてもなじみ深い物があります。
「突っ込み」です。
あー、突っ込みって、そういう仕組みだったのか、と察せられた方もいると思います。
相手の発言を、強く否定するという意味合いを持ち、さらに、訂正まですることがあります。
これにより、最初の台詞と、言い直した台詞、二つをつなぎ合わせることができます。
「おかしな言葉」と「正しい意味の言葉」の順番が、「言い訳」とは逆になりますけれど。
この順番の違いが、小説としては、大きな影響を持つことになります。
突っ込みは、たたみかけるテンポの良さが持ち味の一つですが、読者が、落ちの意味を考える前に、正解を突きつけてしまっては、読者が読解力を養うことができません。
いくら読んでも、読解力が身につかないのでは、小説は、読者に貢献することがありません。
なので、私は、何の工夫もなしに、落ちとしては使いません。
逆に言えば、突っ込みを使うときには、何らかの工夫を施します。
自分の書いた物は、小説なのだと、胸を張れる突っ込みの仕方を紹介します。
① はっきりと正解を言ってしまわないようにぼかしたり、突っ込みの台詞の意味を考えなくてはいけないようにします。
『みどりの竜の第一話』
「あなたの人生で今日が最良の日でありますように。」
「ちょっ、あと3分で日付が変わるんだけど!」
② 突っ込みがあって、はじめて、ボケに気がつくようにします。
そこだけを読んだときには、何もおかしな事は無いけれど、そこに、もう一言付け加えた瞬間に、前の文章がおかしくなるようにします。
『競歩』
「こら、プールサイドを走るな!」
「先生、これは、競歩です。」
「少しは、泳ぐ努力をしろと言っているんだ!」
③ 突っ込みの後に、さらにもう一言付け加えます。
突っ込みは、強く否定した上で、正解を言ったように見えるので、逆用すれば、間違った認識を、読者に植え付けることができ、ミスリードにできます。
また、強い否定を乗り越えて、さらに、一歩前に進むので、落ちを強化できます。
『ゆずは九年の花盛り』
「わあ、きれいな花束、これを先生に?」
「そう。」
「ありがとう、でもどうして?」
「彼氏とケンカした先生のために、そなえようと思って。」
「供養しないで!」
「そなえるのは、ぼくが大人になる九年後にだよ。」
普段は、ショートショートでほのぼのコメディ集を連載しています。
ショートショートの実例がいっぱいありますので、良かったら見てください。
『月の音色』、『ほんのり、ほのぼのしてもらえたら嬉しいです』、『みどりの竜』です。




