第10回『擬音祭り・その2』
擬音が、プログラムの関数の様なものだと説明しました。
その音が、何の音なのかを説明することで、その一音を書くだけで、一連の動作や出来事を描写したのと同じ意味を持たせることが出来ます。
これが、どんなご利益をもたらすのか、説明します。
前回、同じ描写を繰り返し行う際に、便利だと書きましたが、それにしか役立たないと思われてしまったかもしれず、大失敗をしてしまいました。
もちろん、それ以外にも、役に立ちます。
ショートショート、あるいは、ミステリーの流れとして、何かを隠しておいて、伏線でヒントを出し、種明かしをして終わる、というのは、イメージしていただけると思います。
擬音は、ただ使うだけで、上記の流れと同じことが起きます。
例えば
シャッ。
一瞬のカーテンレールの音。
開いた隙間からガラスに映り込むのは、若い女性がすがるように布地を握りしめたまま倒れ込む姿。
これは、拙作、『むしろ犯人はコイツだ』の冒頭の部分です。
擬音は、必ず、それが何の音かを説明する伏線とセットで使われます。
それが大事なのです。
一行目の「シャッ。」と書かれた時点では、それが何をあらわすのかわかりません。
ですが、一種のヒントにはなっています。
その後、カーテンレールの音だと判明します。
この流れ、上記のショートショートやミステリーの流れと同じでしょ?
擬音は、ただ使うだけで、ある種のショートショートやミステリーと同種の効果を発生させるのです。
それだけでは、ありません。
段階を踏んで、盛り上げていく、という効果があります。
上記の例で言うと、擬音 → 擬音の説明 → それがさらに次の文につながっていく、という構成になっていて、バン、バン、バンと段階を踏んで、カードを一枚ずつ表にしていき、その情報が積み重なっていく、という演出になります。
これが、自動で発生します。
擬音は忌避すべきものと思われがちですけれど、でも、擬音、凄いでしょう?
さらに、擬音は、一連の動作や出来事を、格納した関数の様なものです。
これは、一連の出来事を、記録して保存したのと同じです。
次に、同じ擬音を使う時には、それが再現されます。
最初に、その擬音が使われたシーンを思い出させるのです。
それは、読者の意識を、そのシーンの場所まで戻して、ループさせたり、思い出したシーンがヒントになって、そう言う事だったのか!と気がつくトリガーになったり、回想シーンにつなげたり、以前のシーンと同じ心理状態にある事を伝えるのに使ったり、ああ、またやってるよ、みたいな空気をもたらしたり、など色々と応用することが出来ます。
まだあります。
このシーンの時に説明するには、ちょっと雰囲気が合わないな、という場合、説明自体は、タイミングをずらして別のシーンで行って、その問題のシーンでは、擬音によるトリガーだけを仕掛けておく、という使い方が出来ます。
例えば、スピード感が欲しいシーンなどで、悠長に説明なんてしてられない、なんてときに、文章をコンパクトにして、スピード感を増したり、あるいは、一瞬で何が起こったのかを理解してほしいときにも同様の事ができます。さらには、ちょっと軽めの雰囲気がほしいのに、説明文が長くなるのは嫌だなあ、というときにも使えます。
擬音は、物書きの大切な武器となるものです。
あと、ひとつ、これだけは言わせてください。
『むしろ犯人はコイツだ』
https://ncode.syosetu.com/n6995ge/15/
よろしくお願いします。
普段は、ショートショートでほのぼのコメディ集を連載しています。
ショートショートの実例がいっぱいありますので、良かったら見てください。
『月の音色』、『ほんのり、ほのぼのしてもらえたら嬉しいです』、『みどりの竜』です。




