はいはい、婚約破棄ですか。で、どうすんの?
後れ馳せながら流行りにのっかって。
「ザイレーン・ガレアナ、今宵を以て貴女を、婚約破棄とし
妹のサイレア・ガレアナを婚約者とする」
今夜は私と殿下が通う学園の卒業パーティー。夜空の星々は祝福するように煌めいてます。
そしてたった今、公衆の面前で婚約破棄を指示されたのは、私ザイレーンでございます。
全く、殿下と妹は何をお考えかしら。
「殿下、いかなる理由でしょうか」
まぁ、噂に加え、今夜のエスコートをされなかった時点で、破棄されるとは思ってましたが。
「すまない。君と婚約していたのに、僕はサイレアに恋してしまった。不誠実なのは理解していたが抑えられなかった。君との婚約を破棄し、サイレアと婚約する。」
そっと殿下が、妹の肩を抱く。あらあら、お熱いですわ。
「お姉様、申し訳ございません。私達は惹かれ合ってしまったのです。どうか、お願いいたします。」
妹の顔から優越感が滲み出る。
このこったら、ホントに私のもの取るの好きね‥
「はぁ‥殿下とサイレアがその様にお考えとしても、陛下と我が両親の同意は得られますか、殿下。」
「問題ないですわ!だって、私のお腹には殿下のお子がいますもの!」
困った顔で二人を見上げると妹が食いぎみに答えます。
馬鹿みたいな回答に思わず顔色が悪くなったわ。
「で、殿下‥まさか、冗談ですよね‥‥」
「いや、事実だ。私はサイレアと一線を踏み越え、子を成した。」
殿下は、力強い眼で、私を見返しました。
ああ、どうやら本当のようですわ。
「念のため、再度確認致します、二人は合意の上、婚約していないにも関わらず子を成したんですね。」
「ああ。」
「ええ。」
なんてことをしてくれたのよ!!
思わず私は顔を覆ってしまうわ。
普段は、表情を見せない私でも、これだけの事をされればさすがに堪えますの。
本当は聞きたくないわ。でも、聞かねばならないわ、姉として。
「それで‥いつ妹の処罰と子を堕ろすのですか。」
「なんて酷いことを!!やっぱり私の事嫌いなんですね!!」
妹が殿下の腕を掴み私を睨み付ける。殿下は、驚いた様に私を見返した。
だけど、私はそれどころではないわ。最悪の事態が頭を掠めてしまったから‥。
「ま‥まさか‥あなた達、貴族法23条を知らない‥わけないわよね‥?」
答えを聞くのが怖すぎて声が震える。そ、そこまでこの子達馬鹿じゃないわよね!?
「私、法律は分からないわ。」
「僕も、ちょっと分からないな。」
この二人の発言で、周囲は無音になった。
そして、ようやく二人も何か不味いことをしたと悟ったようね。
無知って怖いわ。
「嘘でしょ‥貴族なら全員覚えるべき法律よ。」
「みんながみんな、お姉様みたいに頭良くないのよ!!何、頭良い自慢なの!?」
だめだ、今後の事を考えると涙がでてしまう。
「貴族法23条では、王家と貴族の婚姻について制定されているわ。
王位継承権のある男児と婚約を結ばず子を成した場合、その子は血筋に関わらず速やかに堕胎もしくは処すこと。また、王家を誘惑した者は、血筋に関わらず不妊とする。
そう定められているのよ。」
声にするのもおぞましい内容。涙なくては、この私ですら話せなかったわ。
「う、う、嘘よ!!」
「そ、そんな法律無効だ!!父上に撤回を依頼する!!」
二人は青ざめて私に抗議するけれど、我が国は野蛮な他国と違って王家も議会も法を遵守する国家。
「二人とも、我が国は立憲君主国です。殿下がいかに陛下にお願いしても、法律を変えるには議会の承認が必要です。仮に承認されても、妹の処遇判決前に法は変えられないでしょう。」
「でも!私はそんな法律知らなかったわ!!」
妹は青ざめて自分の体を抱き締める。
「知らないわけないでしょ。貴族教育に必ず含まれる内容ですし、万が一知らなくとも、姉の婚約者と一線を越えるなんて‥貴女の倫理観はどうなってるの‥」
貞操観念については、類をみないほど厳しいわ。
それこそ、小さい頃から絵本で習うくらい。不貞をした者は社会的信用を失うと言っても過言ではないのに‥。
「だって!!お姉様の婚約者だったから気になって‥そしたら好きになっちゃって‥。お父様にお願いしてもダメだったから、子どもができれば大丈夫だと思って‥」
妹がぽろぽろと涙を流す。さながら悲劇のヒロインの様ね。でもここは、法治国家よ。同情は買えても、判決は変わらないわ。
いつも、ねだられたら譲って上げてたのがダメだったのかしら。おねだりが可愛いから、甘やかしていた私にも罪が有ったわね。
殿下が苛立った様に私に近づき肩を掴まれた。
ギリギリとなる肩は、令嬢に向けていい力加減を越えているわ。
「僕の子に間違いないのに何で、堕胎させねばいけないんだ!ましてや不妊にするなんて‥」
「私は、法律家ではございませんのでなんとも。
憶測でよろしければ‥‥王家の血筋を乗っ取られないようにでしょう。また、不貞された方が何を言っても信頼にかけてしまいます。
もし、妹の同意なく殿下が一方的に一線を越えたのであれば恩情として、子を救えなくとも不妊にはならなかったかもしれませんが‥」
思わず周囲を見回しました。
学園には教師、生徒、及び来賓の方々がいらっしゃる。こんな公衆の面前で話していては揉み消せないわ。もし、公然の場ではなく密室で知っていれば、妹が無理やりされたこととして、責任を取る形で王家に嫁げたかもしれないわ。
でも、もう過ぎた話よね。
そろそろ、事態を収束させなければならないわ。
「こうなった以上、然るべき裁判に則り、妹の処分を決めます。また、必ず妹を側室として召し上げてくださいませ。」
恐らく判決は、堕胎と不妊手術の実施だろう。子を成せねば正妃になれないので、殿下は責任をもって、妹を側室に迎えてもらうしかない。いくら可愛かろうと、子を成せない貴族の女の結婚相手はほぼいないんだから。
「また、私は、我が家の血筋を守るため婿を取ることになるでしょう。殿下との婚約は妹の判決後解消されるかと存じます。」
これ以上話すことはない。直ぐ様、衛兵に指示をだす。
衛兵は、優しく妹を別室に送り届ける。
殿下は、立っているのが精一杯っといった様子で見送る。
こうして、最悪な卒業パーティーは終わった。