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荷車を牽く馬の手綱を引く友人たるナバトが苦笑いしてな。
「それは大変だったね」ってな。
「そら大変だったてぇ~のっ!
魔術院でも引き止められた訳だが、飯時に帰って来ないって親父が迎えに来てな。
それで漸く解放てな」
「あはははっ!
親が迎えにって…過保護だねぇ」
「ちゃうわっ!
親父は非番時の鍛練相手である俺が帰って来ないてぇ~んで、怒鳴り込んで来ただけだ!
対外的には迎えに来たってなってけどな、ありゃぁ、鍛練相手を取られたから怒鳴り込んだだけだぞ」
友人であり、同行者紅一点たるルージュへとな。
したらさ。
「はぁ?なにそれ?
ガムラン隊長って…そんなんだ…
クールだと思ってたよ、アタイ」ってな。
いや、ルージュがどう思おうが勝手だがなぁ…あの親父がクールねぇ…
「晩飯食った後、鍛練に付き合わされたんだが?」
まぁ、1日たらい回しされたから、俺的には良い発散になったんだがな。
「それで、朝から疲れてんだね」っとナバト。
「違ぇよっ!」
「えっ?」
「いやな、親父との模擬仕合は良かったんだよ!
それなりに発散できたしな。
それに、あれくらいで疲れるかぁっ!」
「なら何で、そんなに疲れてんだよ?」
のほほ~んとダムラがな。
「お袋が煩いって水をな。
親父と一緒に頭からザバッってよ。
そんで説教だな。
いゃ~、長ぇ~のなんのって…ゲッソリよ、ゲッソリ」
「「「あ~っ…」」」
皆して納得かぇ?そうですか、けっ!
コヤツらは幼なじみでもある。
小せぇ頃にお袋に捕まり一緒に説教食らったこともな。
「そら…災難だったねぇ…」
おいナバト、顔引き攣てんぞ。
この程度のことで商人が顔色変えて遣って行けんのかねぇ。
俺たち4人は来年に学園を卒業する最高学年の学徒なんだが、ナバトは実家の商会所属の商人になる予定だ。
2人は行商人となるナバトの護衛士として、ナバトんとこの商会が雇い入れることになってんだ。
本来の護衛士は護衛士組合へ入り、見習いを経てから雇われる。
だが、たまに伝で護衛士と雇われた後に護衛士組合へ所属する場合もな。
ナバトの行商は、今回が初めてではない。
学園の長期休暇にて行商の移動を経験しているんだ。
その際に2人も付き添ってから慣れたものだ。
まぁ数年前までは大人の護衛士が同伴してたけどな。
俺も何度か同行してるし、兵士志願のヤツやハンター志望のヤツらが同行したかともな。
ヤツらは夏休み中にフライング的だが知り合いの傭兵やハンターに付いて出掛けてるそうな。
問題を起こさなきゃ良いんだが…
俺はナバトからと言うよりナバトの親父で商会長たるバナールさんから頼まれてな。
本来はバナールさんかナバトの兄貴達が行うべき行商らしいのだが、貴族絡みの案件対応で人手がな。
で、本来は馬車3台に荷を積み行う行商なんだと。
その規模だと人手もだが規模的にも目立つ。
だから俺の空間魔術にて荷を持ち移動とな。
所謂ひとつの荷物持ちってな。
まぁ、カモフラージュでもある。
さらに剣も扱えるから護衛としてもな。
さらに治癒術も使え、魔術も使えるから色々と保険にもなるってね。
便利でしょ、僕。
便利に使われてるよね、僕。
まぁ、当然、吹っ掛けたけど、なにか?
そらさぁ、魔術で水を産み出し火を出す。
馬が食む飼い葉を種から生やし、新鮮な食料を空間魔術にて持ち運べる…
うん、魔術が使えるようになって数ヵ月、我ながら便利になったものだ。
ってもな、攻撃などに使えるかと訊かれたら…うん、まぁ…便利なら良いやんね。
癒しも軽い風邪や切り傷ならさ。
斬り合いで負った裂傷などは無理だからね。
まだ調薬した傷薬の方が良いってお薦めしますよ。
まぁ、適正知れて数ヵ月なんだからさ、こんなもんだよ、うん。
っか、霊力、魔力、気力の内、いちばん扱えてるのは気力だな。
何せ家の親父は脳筋だかんなぁ。
幼い頃から家系的に武術鍛練をな。
まぁ、先に鍛練を始めた兄貴に憧れて自主的に初めてから、なし崩してきってね。
そのお陰か気力操作が、いちばん楽なんだわ。
で、霊力、魔力を使う入門先が焦って色々と…
色々と知れて楽しくはあるが全てが中途半端ってね。
なんとかならんもんかねぇ、ふぅ。
「なんだか…凄く贅沢な悩みよねぇ。
まぁ、アタイが言えた義理じゃないけどさ」
そんなん言うルージュにナバトがな。
「確かに僕たち3人は進路が確定してるからね。
ダリルみたいに進路先が多過ぎて困ってる訳でもないしさ」
「いやいや、今の時期は進路が決まらないヤツらの方が多いって」
そうダムラが呆れて告げる。
っか告げつつ「よっ」ってな。
「こらこらダムラ、何匹目だ、それ?」
思わず呆れて尋ねる。
「ん~っと…いっぱい?」
「数えてらんのかぁ!15匹目じゃボケぇっ!
食いきれんわっ!」
「またまたぁ~
ダリルが空間魔術で…」
「じゃぁ、ダムラはウサギ肉メインな。
俺たちは街で購入してきた料理を食うから」
「マジ?」
「マジ」
いや、そんなにガァ~ンっう顔されてもなぁ…
「イヤならウサギを狩るなっ!
つか16匹目を狩るんじゃねぇ!
てか、なんで街道沿いにウサギがポコポコ現れるんだぁっ!」
空間魔術内がウサギだらけになるわっ!