ルシファーとその部下
前回のあらすじ
・六英雄の相棒を召喚するよ!
「少し待つがいい、我が召喚主」
さて、六英雄全員分の相棒を召喚し終えてダンジョンにでも行くかと思っていたところで不意に現れたルシファーから待ったがかかった。
「・・・ルシファー、俺は召喚してないはずだが?」
「我にかかれば召喚時の魔法陣を解析することなど造作もない。それに我がそんなスキルに縛られるとでも?」
「・・・まぁいいや。それで?わざわざ出てきて俺を呼び止めるってことはここに何かあるんだろ?」
「もちろんだ。異空間よりしばし見ていたが、あの魔法陣に強い意思と縁故のある魔力を流せば望むものを召喚できるのだろう?」
「その理解で間違いないな。」
「ならば我にも使えそうだな。我が召喚主よ、召喚結晶を。見たところ戦力増強なのであろう?我にも部下が居てな、其奴らが中心に数多の眷属を率いてたゆえ召喚すれば我が召喚主の戦力の一端ぐらいは担えるであろう。実力も我には劣るがそこそこ使える奴らぞ」
「ルシファーがそこまで言うか。いいだろう、召喚してみよう。」
実際俺たちの中でルシファーはずば抜けて実力が高い。俺の正真正銘の切り札にして最後の砦だ。ルシファー自身の底はいまだに見えておらず、ルシファーが負ける=俺たちの敗北だ。
まぁ、そのルシファーとアークとレオーネの3人を同時に相手しても一瞬で消し去ったどこぞの召喚老が居たがあれが異常なだけだ。
そのルシファーがそこそこ使えると言った。どんなに低く見積もってもアーク達以上の実力はあるだろう。ルシファーが現在第七階級でアーク達が第五階級だと考えると第六階級と見積もるのが妥当か?
そんなことをつらつらと考えつつ召喚結晶を台座にセットする。
そして例の召喚の演出が始まる。そこでルシファーに変化が起こった。これまでは純白と漆黒の翼が左右対象に生えていたが、漆黒の部分が純白に染まっていった。
その姿は正しく天使。よく見ると頭上にはいわゆる天使の輪が浮かんでいる。そしてルシファーも魔力も澄み切った静謐な魔力へと変貌していた。
『我が光の眷属よ、幾億の時を超え、再び我の前に姿を表すといい』
ルシファーからあの聖女とされているレオーネをも上回るほど純粋な光の魔力が放たれ召喚部屋を満たす。召喚陣がその魔力に反応して目も開けられないほどに光を放つ。
思わず目を覆い、光が治ったのを感じてゆっくりと目を開ける。そこには純白の翼に身を包み、ルシファーに向かって片膝をついている1人の天使がいた。
「成功だ、我が召喚主。」
「そうみたいだな。」
『ルシファー様、こちらの方は?人族・・・ではあるようですが、、、』
「ふむ、違和感を覚えるのも無理はない。そこのところは奴を召喚してからだ。今言えるのは我が召喚主、この我を現世へと呼び戻した召喚騎士だ。お前も名前ぐらいは知っているであろう?」
『なるほど、ルシファー 様の御霊を英霊として。であるならばルシファー様の配下たる私もまたこの方の配下と言うわけでございますね?』
「その通りだ。」
『申し遅れました。ルシファー様が配下、大天使エルドラと申します。ルシファー 様の主ある貴方にも忠誠を』
「俺は召喚騎士、桃だ。よろしく頼む。」
『はっ!』
「エルドラ、我が召喚主への挨拶が済んだのなら少し下がっていろ、奴も呼ぶ」
『・・・かしこまりました』
ルシファーが言うと苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべて渋々後ろに下がった。どうやらこれから召喚する部下とエルドラの相性はよくなさそうだ。
この時点でルシファーは元の姿も戻っており、魔力や翼に乱れはない。美しくも荒々しい元のルシファーだ。
「さて、奴も呼ぶか」
そう言った瞬間、再びルシファーの気配がガラリと変わった。純白の翼が漆黒に染まってゆく。そして翼が完全に漆黒に染まると同時にルシファーから身も凍るような禍々しい魔力が溢れ出した。
「これがルシファーの2つの顔。天使界最強の熾天使と堕天使にしてコキュートスに幽閉されし傲慢な悪魔か。」
あのアークすら凌駕するほどの禍々しい闇の魔力に気圧されつつも召喚結晶を台座にセットする。そしてルシファーの禍々しい魔力が魔法陣を侵食してゆく。
「聞こえているのであろう?再び我の前に跪け!」
これまでに聞いたことのないような一方的に押さえつけるような荒々しい口調とそれに呼応するように荒ぶる闇の魔力。
突如として空間が裂け、その裂け目からバッと血に塗れた無数の腕が飛び出してきた。流石にそのあまりにホラーな光景に一瞬脳がフリーズするがエルドラが一瞬にして俺の前に立ち塞がり、その手を全て切り落としてくれた。
『あ〜?なんだよ失敗かよ。』
腕が全て切り落とされすっきりした空間の裂け目から中を覗いてみると、そこは俺の使う獄炎のような黒い炎があたりを満たすまさに地獄のような光景が広がっていた。
そして聞こえてきた声の主はその地獄をまるで庭でも散歩するかのように悠々と歩いて出てきた。
『けっ、クソ天使が居やがるのかよ。』
「貴様、いつの間にそこまで偉くなったのだ?この我に跪くこともせずなにを話している?」
『へっ!いちいちウルセェんだよ。いったいいつまで支配者面してんだ?あ?そのなりじゃあの時の力はねぇんだろ?なら俺が貴様に従う理由なんざねぇ!むしろここでお前を嬲ってこれまでの仕返ししてやってもいいんだぜ?』
『貴様!さっきからルシファー様になんと言う口の聞き方か!』
「エルドラ、良い。」
『しかし!」
「良いと言っている。」
『・・・はっ!』
「さて、しばらく見ないうちに随分と偉くなったものだな、アバドン?」
『チッ、また上から目線かよ!いつもいつも上から言いやがってムカつくんだよ!どっちの方が格上かその身に刻みやがれ!』
アバドンと呼ばれた悪魔がルシファーに襲いかかる。しかしルシファーは表情1つ動かさず冷徹にアバドンを見つめている。そしてアバドンの爪がルシファーの胸に突き刺さらんとした瞬間、漆黒の羽がアバドンを貫き、そのまま地面に叩きつけていた。
『がっ!?ぐ・・・なんだよ・・・この力は。てめぇその姿になって弱体化してるんじゃなかったのかよ!』
「誰が弱体化したと言った?我はこの姿で全盛期を超える力をすでに得ている。」
『なっ!?』
「さて、我がいない間に随分と傲慢になったものだ。躾が必要だな。我が召喚主、しばし時間をくれ。このゴミを多少は使えるゴミに変えてくる。」
そう言うなりルシファーはアバドンの首根っこを掴んでどこかへと消えていった。
それからエルドラと模擬戦をしたり、スキルレベルのレベリングをして時間を潰すこと1時間。ようやく戻ってきたルシファーの手には丸められた黒い塊。
ルシファーはそれを無造作に地面に投げつけ踏んだ。
「一体いつまで寝ているつもりだ?我が召喚主の御前だ。」
『ひっ!さ、先ほどは失礼いたしました!俺・・・私はしがない悪魔のアバドンでございます!桃様の奴隷となって働きますので!どうか!どうかご慈悲を!』
・・・うーん、ルシファー?やりすぎたな?ジト目でルシファーを睨むもどこ吹く風。むしろ当然だと言うような表情すら浮かべている。
「・・・はぁ、まぁいいや。よろしく、アバドン」
『は、はい!このアバドン、この御恩は絶対に忘れませぬ!』
こうして俺は頼りになる(?)強力な仲間を手に入れたのだった。
ちなみに実力的にはアバドンとエルドラは完全に互角なのだそうだ。そしてあの1時間でルシファーになにをしていたのか聞いたが凄惨な笑みを浮かべるだけでなにも答えてくれなかった。
アバドンにも聞いたけど、何かトラウマを抱えているのか、その話になると膝を抱えて蹲り「ごめんなさい、もうしません」とひたすら呟くbotになったのでそれ以降触れることはなかった。




