試練
前回のあらすじ
・召喚院に呼び出されたよ!
・新しいワールドイベントが始まるよ!
「さて、こうして全ての来訪者に対して召喚院から依頼を出したのはいいが、流石にそれだけの戦力を動かすとなる各国との調整が必要だ。それにメライス六魔将が帝国軍相手に奇襲であろうと正攻法であろうと勝利していることを考えれば来訪者の実力ははっきり言って足手まといに近い。このままだとまさに文字通り肉壁となるだけだ。桃、君レベルとまでは言わないがせめてレベルが80はないとこの先きつくなるぞ。」
レオンは魔力を静め俺を見据えてさらに続ける。
「それに一部の、そう、桃のような来訪者の中でもずば抜けた強さを持つ人間にはさらに強くなって貰わなければならない。最低でもレベルは100。それに加えてステータスではない強さを身につけてもらう必要がある。」
確かにそうだ。俺や白、青龍寺なんかがいてもここにいる人たちにはおそらく勝てない。ってことは俺たち来訪者が全員力を合わせても召喚院と比べれば1000分の1にも満たないだろう。
今は来訪者が肉壁としてだけでなくきちんと戦力として機能するためにも強くなる時間が必要だ。
それに次のイベントはPvPって言われてる。当然、白が出てくるだろう。今の俺ではおそらく勝てない。あいつに勝つためにはレベルだけでなくプレイヤースキルも磨かなければ勝負にすらならない。
それにレオンたち召喚院の面々が同等と認める帝国軍を蹴散らし帝都を落とした六魔将の存在も気になるところだ。間違いなくソロ向けの敵ではない。ほぼ確実にレイドボスになるんだろう。
「さて、他の来訪者のことはともかくとして桃、君は召喚院の一員として今後の作戦の要となってもらわなければならない。そして君にはあいつの唯一の弟子としてその素質と義務がある。上位統治機構として1人の来訪者に肩入れするのは好まれないがそれでも君には強くなってもらう。」
「へぇ、それは願ったり叶ったりだな。」
「なるほど、気持ちは十分か。ならば早速桃には課題を出そう。以前話した召喚院のランクは覚えているかな?」
確か鉄、銅、銀、金、白金、金剛の順にランクが上がっていくはずだ。昇格には基準があって俺は最低のレベルだけは聞いている。銀級へはレベル60以上、金級へは80以上、隊長クラスとなる白金級へは120以上、金剛級へは160以上が必要となる。そしてレオン達のように召喚老となるためには最低でもレベル250以上が必要になってくる。
「その通りだ。今の桃は銅級召喚騎士だな。それを作戦までに金級まで上げてもらう。銀級へ昇格するための最低レベルは満たしているのは知っている。まずは銀級への昇格試験を受け、その後すぐにレベルアップと金級への昇格試験を兼ねて精霊結晶を集めてきて欲しい。」
そう言えば今のレベルは銀級への昇格基準の最低ラインは満たしていたな。それに今回のレベルキャップは100。もしレベルキャップまでレベルをあげることができるのなら、金級への昇格基準の最低ラインは満たす事になる。
「まずは銀級への昇格試験だ。内容は個人の実力を見るものだ。具体的にはエルモさんの作り出した幻影と戦ってもらう。その内容を俺たち召喚老が見て判断する事になる。」
「なるほど。」
「準備は出来ているようだな。早速だが始めようか」
レオンに連れられて部屋にいた全員で技術開発局へと移動する。スタンはついて来ないと思ったがどうやら強いやつを殺す方法があると言った俺の戦いを実際に見るつもりのようだ。
「俺様に向かって殺せるっていったんだ。その実力、とくと見せてもらおうじゃねぇか」
と、これは本人談である。
そんなわけで技術開発局にたどり着いた俺はエルモさんの指示で闘技場のような施設に入る。
『今から試験を始めるよ。試験相手は僕たちが集めた全召喚騎士の中の銀級の召喚騎士のステータスを平均化して試験専用の相手と第3階級の英霊の擬似ユニットだ。この中には特殊な結界で覆われているから万が一致命傷を受けても死にはしないけど・・・って来訪者である君には関係なかったね。それじゃ始めるよ』
エルモさんの声がスピーカーのような魔道具から聞こえてきた。今回の試験では俺は英霊の使用は禁止されている。もちろん勝てば文句なしで合格ではあるが、負けても一定以上の実力があるとみなされれば合格になるらしい。その辺の基準はよくわからんな。
まぁ、いい。今は相手に集中するか。流石に六英雄やアーク、ルシファーや青龍寺なんかよりは弱いとは思うが、それでもこの世界で生きてきた超がつくほどのエリートの平均だ。気を引き締めないと万が一があり得る。
現れた敵は召喚騎士っぽい剣を持った擬似ユニットが1体と魔法使いっぽい格好をした擬似ユニットが1体の計2体。前に召喚騎士の戦い方を見せてくれたサーシャも同じような構成をしていたのでオーソドックスな組み合わせなのだろう。
『それじゃあ、始め』
掛け声と同時に剣士ユニットは俺に向かって駆け出し、魔法使いユニットは詠唱っぽいことを始めた。
「ま、時間ももったいないしさっさと殺すか。」
まず俺は短距離転移を発動して魔法使いユニットの背後に転移。そのまま首を切り飛ばしにかかる。しかしさすがは銀級(あるいは英霊かもしれないが)のユニット。何かの兆候を感じ取っていたのか詠唱を破棄し、とっさに身をかがめて俺の剣を躱し、かつ立ち上がる勢いを利用して逆に懐に忍ばせていた短剣で切り掛かってきた。
「高性能だな。だけどその程度の攻撃じゃ俺には通用しない。」
突き出された短剣を闘気を部分的に纏わせた素手で掴む。そして動きが止まった魔法使いユニットの顔面をもう一方の手で掴む。
「こいつ倒したら相手するから邪魔すんな。グラビティ」
魔法使いユニットの腕を掴んだところで剣士ユニットが戻ってきて俺に斬りかかろうとしてきたので【重力魔法】を発動して地面に縫い付ける。これでしばらくは身動きできないはずだ。
「おっと。さすがは試験を務めるだけある。この状況でとっさに無詠唱で魔法を放ってくるか」
魔法使いユニットが無詠唱で放ってきたファイヤーボールを躱す。とっさのことで残念ながら掴んだ腕を離してしまい、距離を取られた。
「距離をとっても無駄なんだけどね」
俺は今度は【瞬歩】を使って一瞬で間合いをつめる。さすがの魔法使いユニットも魔力を使用しない高速移動は見切ることはできなかったのか不意に目の前に現れた俺を見て目を見開いた。
しかし腐っても試験ユニット。反射なのかはわからないが驚くべきことに短剣を突き出そうと手を動かした。
「残念だけど同じ轍は踏まないよ」
俺はそこからもう一度【瞬歩】を発動して今度は魔法使いユニットの背後に周り、今度は躱せないように最短距離で背後から心臓の付近を一突き。確かな手応えと共に魔法使いユニットがビクンと一回震え霞むように消えていった。
「これで1体目。っと!?」
【危機察知】に反応があったのでとっさにその場を飛び退く。俺が避けた直後、俺がいた場所に剣が振り下ろされた。
「俺の重力魔法から抜けてきただと?」
舐めていたつもりはないがそう簡単に抜け出せるほど甘く発動してねぇぞ?一体どういうことだ?
『あぁ、言い忘れてたけどそのユニットはどっちかが倒されると残った方のユニットに倒された方のステータスが加算されるから気をつけてね』
チッ、本当にいうのが遅えよ!そういうシステムならチマチマ倒さずに両方まとめて瞬殺してたわ!
「なるほど、ってことは魔法使いのMIDが加わったせいでこんなにも早く抜け出したのね。見た感じ魔法で身体強化もしてるみたいだけどまぁ、無駄?一切合切を無に帰せウロボロス」
俺はパワーアップした剣士ユニットに向かって【獄炎】と【聖炎】を合わせた必殺技の1つである【ウロボロス】を放つ。
剣士ユニットは避けるのは無理と判断して剣で襲いくる龍を断ち切ろうと剣に魔力を込めて振るうもその魔力ごと食い尽くして腐食させるウロボロスの前には無力。抵抗虚しくあっさりとウロボロスに飲み込まれ姿を消した。
『そこまでだね。お疲れ様』
再びスピーカーからエルモさんの声が聞こえてきた。突然パワーアップするとかいうハプニングもあったけど一応試験は突破できたな。めでたしめでたし。




