装備回の続きとウノの街で
前回のあらすじ
・装備の確認をするよ
さてさて、第2回のイベントでも賞品の獲得方法はポイント式だ。当然俺らのような本戦出場でベスト4位上に進んだチームは成長武器が手に入るぐらいにはポイントが配られている。
レイは経験値を稼ぐのがかなり上手いので成長武器を数多使いこなすタイプ。それに対して俺はどちらかと言えば1つのものを大事に強化して使いたいタイプなので成長武器はもういらない。
なので装備と職業に関連がありそうなやつから先に探して行こう。まず装備で足りないのが頭、腕、靴、ベルト、それからネックレス。イベントのポイントで交換できるものだからダンジョン産のワンオフ品ほどの性能はないだろうがそれでも今よりはマシになるはずだ。
・・・とそう思っていた時期が俺にもありました。今回は変なスキルや職業アイテムに馬鹿高い賞品がないな〜と思っていたところだったのに装備ページが酷かった。
罠、これは確実に罠だ!
その罠の正体は装備ページで各装備において最も高額な賞品となっている「古の源塊」というアイテム。この「古」とか「太古」と名前のつくアイテムはだいたいが錬金とか鍛治とか合成とかを使って気の遠くなるような素材をぶち込んでようやく真の力を発揮する装備。
その内容は多岐に渡り、使える装備が出てくるかは完全に博打である。ましてやそれぞれ必要なポイントは驚愕の10万。しかも都合の良いことに俺のもらったポイントは全部で50万で俺の不足している装備枠は全部で5つ。・・・完全な御都合主義だな?
こうなってしまっては買うしかない。うん、全部まとめてチェック入れて一気にタップして購入完了。一瞬で俺のインベントリにアイテムが送られてきた。
【百科事典】で見てみるとこんな感じ
古の源塊 レア度7 耐久値不明
【ALL5%ダウン】
効果はこれだけ。これだけだと何もしなければステータスが5%もダウンするという本当に邪魔な装備。しかし【錬金術】が反応しているからやっぱりスキルの力を使って失われた力を取り戻すパターンだな。
そして説明テキストにはこんなことが
【かつての大戦の時代の英知の結晶。時間と共に経年劣化して現在ではその姿と力は失われている。特定のスキルを用いることによって本来の力を取り戻す】
うーん、やっぱり思った通り復活させてゆくタイプの装備だったようだ。【百科事典】で見てみたけど今の俺のスキルでは復活させることは不可能。考えられるとしたらランザだろうな。装備のこともあるし一度顔を見せにいくか。
そんな訳でめちゃくちゃ久しぶりにランザの工房【夕弦】に顔を出す。これまでのいろいろな素材を送ったのはいつの間にか実装されていたフレンド機能による贈り物だった。ある日突然レイから贈り物が届いてそれで初めて知ったんだよ。この機能。
そう、俺はメールで依頼をして、ひたすら素材を送りつけるだけで顔を出していない。むしろ最初に黒鉄装備を貰って以来会ってないような気が?
夕弦へ続く道を歩く。初めて見つけた時は気がつかなかったがこの辺りには気がつかないぐらいに弱い魔法が掛かっている。効果は精神に作用する思考誘導と一部空間の認識疎外。今の俺の感知系スキルでかろうじてわかる程度なので普通に生活していれば全くわからないと思う。
しかも向上的に発動できるように石畳に魔法陣が散りばめられており、ここを通過する人からわずかな魔力を吸い出し、魔法を維持しているようだ。
まぁ、夕弦の場所はわかるしおそらく面倒ごとを避けたいランザが仕掛けた罠だろうから変に弄らず工房へと向かう。
一応ランザにはメールで今日訪問することは連絡してあったが返事はなかった。いるのかいないのかはわからないがまぁ、行ってみよう。
工房の扉に手をかけるとすぐに【危機察知】がアラームをならす。中に人がいるのは察知できていたがまさかまたこの展開になるとはな。
だが今の俺は初めてあった時の俺ではない。真正面から戦う地力も英霊と力を合わせた殲滅力も戦わずにただ一方的に相手を嵌め殺す悪辣さも身につけた。ちょうど良い機会だ。ランザに俺の成長を見せてやろう。
扉に向かって急速に気配が近づいてくる。この感じだと扉を開けて友好的にこんにちはとは行かずにそのまま扉を蹴破ってくるだろう。そしてそのままの勢いで俺に突撃してくるパターンかな?
魔法や魔術の発動兆候や変な魔力の動きは感じないのでおそらく物理攻撃。真正面から受けるには少々分が悪いな。
だったら俺は罠を仕掛けるに決まってる。まぁ、ランザのことだし空を飛んだりすることはないだろう。変態軌道もないはずだ。すなわち愚直に速度と力で攻撃してくるタイプ。
猪突猛進タイプで一番効果が高いのは落とし穴。これがレイ相手なら落とし穴は通用しないがランザにはどうだろうか?
とりあえず落とし穴を仕掛けて。その上にマジックシールドを展開。これで仮に落とし穴に反応して飛び上がっても展開したマジックシールドに頭を強打するはずだ。さらにこれを抜けてきても最初の威力はないはず。それぐらいなら真正面から撃ちあえるはずだ。
バーン!罠を設置し終えた直後、激しい音がして扉が破壊されて中からランザが飛び出してきて・・・落ちた。
「うおおおお・・・おおおお!?』
最初は威勢よく雄叫びを飛び出してきたがそのままその声は悲鳴へと変化した。そして全く落とし穴に対応できないまま落ちてゆくランザ。
「・・・」
「お、おい!待つんだ桃!なに淡々と魔法を発動してるんじゃ!しかも見るからに【魔力操作】に加えて他のスキルで相当威力を増しているんだろ!?流石にそんなの食らったら死ぬわい!」
「久々に訪れた友人に対して攻撃を仕掛けてくるからそうなるんじゃ?しかも不意打ち気味に。そこで一回頭を冷やしたらどうだ?ってな訳でGO!」
「ぎゃああああああ!」
その日、閑静な住宅街に汚いおっさんの悲鳴が響いたとの通報がエリック率いるウノの街の衛兵の元に入った。しかしその報告を聞いたエリックは何もすることがなく、事件は迷宮入りを果たした。
実際は桃がランザのところを訪れると同時にエリックにも連絡を入れていたことが理由であった。
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「全く、酷い目にあったわい」
「いや、誰のせいだよ。いきなり攻撃を仕掛けてくるなよ」
「桃が全く工房に顔を出さんのが悪いんじゃろうが。あれだけの素材を送ってきよって。それでいて全てこちらに丸投げする依頼主がどこにおる」
「こっちにもいろいろあったんだよ」
「・・・確かにいろいろあったみたいだな。その身のこなし、その装備、その戦い方、そしてその身に纏ってる空気。どれも出会った頃のひよっこな桃とは全く違う。わずかな期間に結構な修羅場を潜っているな?」
「さすが歴戦の戦士。見ただけでわかるか。」
「無駄に年は経ておらん」
それからしばしこの街を出てから野球大会まで、俺がどこで何をしていたかを話した。まぁランザには第1回イベントの時はここウノの防衛で力を貸して貰っていたし、野球大会では本戦まで出場していた。残念なことに俺たちのチームと当たる前にアーサーのチームに負けてしまっていたが。
ランザはとりわけ鬼ヶ島の話と召喚院で召喚老と対峙したところに食いついてきた。
「それでわざわざ来たってことは何かあるんだろ?強くなるためにワシの力が必要な何かが」
この辺は理解が早くて助かる。そう、ここまでの話は割と俺自身の敗北の歴史でもある。その原因の1つは間違いなく神器のローブに頼り切った装備の脆弱性だ。それを解消するべくここに来た。
「さすが、察しが良くて助かるな。ランザ、これを見てくれ。」
そういって取り出したのはイベントの賞品である「古の源塊」と2つの幻創霊器。ヴェルガンドの方もここに来るまでに経験値を稼いでおりすでに次の段階へと進んでいるのだ。
「これは・・・。これほどのものをこの目で拝むことになるとはな。」
「知っているのか?」
「あぁ、それでも文献程度だがな。こっちの古の源塊はその名の通り、遥か昔にダンジョンで見つかったアイテムやその当時に生み出された強力な装備の成れの果てだ。普通の装備やアイテムならいずれ朽ちて消えるが強力な力や魔力を持つものは極めて劣化が遅く、こんな形になることがあるそうだ。それからそっちの幻創霊器というのは聞いたことがないな。でも儂のスキルが反応しておる。これ以上手を加えることは不可能そうだが強化ぐらいはできよう。」
「そうか。ランザがそれぐらいしか知識がないとなると他はどこを当たっても難しそうだな。それじゃ頼むわ。」
「儂の仕事をこれ以上増やすな!・・・って本気で言っているのか?儂とて職人の端くれ、自分の技術には自信と誇りを持っているがこれらの装備を扱える自信はないぞ?それに幻創霊器の方は満足に素材も揃っておらん。」
「それでも、俺が知っている中で1番腕の立つ職人はアンタなんだよランザ。俺はその自信と誇りを信じる。」
「そこまで言われて断れば職人の名折れ。このランザ、全力で腕を振るうことを約束しよう。」
「任せた」
「うむ。それで話は終わりか?なら儂の方からもいくつか話があるのでな。少し待っておれ。」
そういうとランザは工房の方へと消えていった。




