第76話 イベントとイベントの狭間で
前回のあらすじ
・桃、青龍寺どうしノックアウト!果たしてどうなる?
「第2回公式イベント【No Baseball No Life】の表彰式を行います。」
甲子園球場を模した仮想空間に本戦に出場したチーム全員が整列している。本戦に出場できなかったチームのプレイヤーは希望すればスタンドに入ることができ、表彰式を見ることができる。
結果自体はすでにわかっているためにさほど見る価値はないような気はするが、それでもお祭り好きが多いのか、はたまた何かイベントを待っているのか。とにかく人がかなり詰めかけている。
「・・・そして第1位、チーム名【高天原】!」
長い待ち時間を経てようやく名前が呼ばれた。そう、第2回のイベントの優勝はなんと俺らのチームなのだ!
正直に言って青龍寺率いる【筋肉塾♂】との激闘の記憶が濃すぎてそれ以降の試合は決勝戦も含めてほとんど記憶にない。
優勝インタビューがあるけどその前に少し記憶を掘り返してみるか・・・
確か青龍寺との試合で、双方HP全損でゲームから除外されたあたりからあやふやだからしっかりと思い出そう。
あの後、本来ならば消えるかと思われていた英霊たちだが、こんなこともあろうかと俺の【召喚術】をそれぞれに刻印してあったので俺が死んでも彼らが消えることはなかった。まぁ、青龍寺が相手だし、俺が死ぬ可能性も十分にあったから一応の準備のつもりで刻印しておいたのが役に立ったな。
青龍寺がゲームから除外されたことは筋肉塾のメンバーの相当な精神的ショックを与えるかと思いきや彼らは会長の敵を取らんと一致団結し、より筋肉を滾らせてレイたちに牙を向いたそうだ。
しかし、彼ら塾生の中心であったであろう倭建命の攻撃はルシファーに完全に封じ込められてた。そしてこっちにはフェルドという炎熱系最強の英霊がいる。青龍寺ともう一人、達磨ヒゲと呼ばれていた人物を欠き、戦力的に差があった両チーム。じわじわと点差を広げ、最後はフェルドが敵チーム全てを溶岩まで操作して焼き払い勝負あり。結果としては5回で敵チームが全滅して勝負ありだった。
続く第4回戦の相手はえーっとなんだったかな?
「もう忘れたのかい?第4回戦の相手は【ケモミミ最高】とかいう獣人だけのチームだったじゃないか。あれはもう凄惨すぎて思い出したくもないよ・・・」
あぁ、思い出した。そう、第4回戦の相手は獣人族を選択したプレイヤーのみで構成された性癖の塊のような奴らだった。獣人族の特徴は人と比べて高い身体能力、その代償として魔法系の能力が低いっていう特徴をもった種族だ。
当然魔法対策なんてしてくると踏んだ俺はとある作戦を決行。うん、青龍寺との戦いで疲労困憊だったから手間かけたくなかったんだよ。だいたい魔法ありきとはいえ身体能力の高い獣人とスポーツをする方が間違ってるんだよ。
「だからといって、魔振も魔球も無視して超高刺激の香辛料(IWOオリジナル)とかなぜか濃縮還元されていた超酸っぱいお酢とかを【飛翔魔法】で空とんで相手ベンチに散布するかな?普通。ついでにヴォートとクリスタの能力まで悪用して味方に被害が出ないようにしてたけど!」
おや?なぜかレイはお怒りのようである。別に俺はネガティブルールに抵触したわけではない。イベント前のレベリングで空間魔法のレベル上げをしてアイテムボックスという技を覚えていたのだ。
そこによく使うモノをインベントリから移しただけだ。インベントリはわざわざメニューから操作しないと取り出せないがアイテムボックスはイメージだけで出し入れが可能だからよく使うものはアイテムボックスに移したんだよ。香辛料が入ってたのはたまたま。そしてそれを使おうと思いついたのは昨晩読んだラノベの影響だ。俺は悪くない。
「俺は悪くないって・・・またパクリとか言われるよ?」
「馬鹿をいうな、俺にそこまでの文才と発想力はない。そして俺に触手は生えてこない(予定だ)」
メタい話はこれぐらいにしてもう少し第4回戦を振り返ろう。と、言っても人族より身体能力が優れている獣人族は感覚器官も人族以上。当然香辛料の雨に耐えられるわけもなくあっけなくサレンダーした。
うん、雑魚だったな!まぁ、涙と鼻水でボロボロのぐちゃぐちゃの状態で続けられてもこっちが困ったし汚いし、サレンダーすることがお互いにとってウィンーウィンってやつだ。
さて、次だ。準々決勝の話をしよう。確か準々決勝の相手はこれまた優勝候補の1つであった【NINJA’s】だ。しかし、これもまた酷かった。相手は忍術を巧みに使ってこっちを翻弄しようとしてくるが、その全てをヴィクティムのもつ【百科事典】に見破られ、それがルーセントの【教導】によってみんなに暴露される。
この【教導】スキル、最初は全く価値がないなと思っていたが、教える相手を指定すれば距離の制限がない。さらにレベルが上がれば上がるほど短時間に情報を教えることができる。さらに教えられた情報を元に罠や隠密を見破ると与ダメージが増加するというとんでもないスキルであることが判明した。
そのチートスキルのおかげでNINJA’sはなすすべもなく蹂躙されて終わった。いやー、スキルの悪用はよくないね。うん、南無。
準決勝の相手は【チーム万屋】名前だけ聞くと最強の銀髪木刀侍とメガネと大食いアルヨチャイナっ娘とでかい狛犬がいる銀の玉を想像するけどそんなことはなかった。そのチーム名の由来はキャプテンだった。
「見たことあると思ったら王都防衛戦の時に俺たちと一緒に戦った生産職のまとめ役の彼だな?」
「うん、そうだけど名前忘れたね?」
「仕方ねぇだろー!だって何話登場してないんだよー!」
「確かにそうだけどメタい発言はいいかげん止めようね?ケル君だよ!」
「・・・あー、確かにそんな名前だったな!うん、名前探すついでに見返したら勇者なんてのもいたな!すっかり忘れてたぜ!」
「他にもいろいろいるんだからしっかり覚えておいてね?」
「ハイドリョクシマス」
試合前にこんなやりとりがあったとかなかったとか。話を戻すと【チーム万屋】はそのケル君がいろんな生産職に手を出していて万屋って二つ名で呼ばれているところから来たらしく、さらにチーム全員が生産職というある意味特化のチームだった。
「いや、確かに生産職はこのイベントでは欠かせない存在だけどそればっかりで集まってても戦闘職がいないと案外脆いんだよ?」
そう、生産職は戦闘職と比べて火力と耐久が低い。それはもう生産職がいなければ生産職だけでも十分に戦えたが、準決勝まで来て、ましてや俺たち相手に戦闘職がいないのは少々物足りない。
最初の方こそ予想以上の火力と防御力に戸惑ったものの、それを上回る火力がこちらにはある。その火力をもってゴリ押し。終わって見れば5回の時点で10点差がついておりそこで相手が白旗をあげた。
そして運命の決勝戦。相手は予想通りアーサー率いる【円卓の騎士】だ。流石に王道的に強かっただけあって想像を絶するような激闘が行われた。
「嘘付かないでよ?すぐに試合終わったじゃないか!」
「はて?そうだっけか?」
「そうだよ!君がアイテムボックスのスキルで投げる度に溶岩とか大岩とかを投げつけるから一瞬で相手チームが壊滅したんじゃん!一番早く終わったよ!攻撃になったらなったで君も英霊たちも最後だからって全力で魔振を放ったじゃないか!ルシファーなんて一撃で球場を崩壊させてたよね!?」
そうだったっけ?まぁ、とにかくアーサーのチームは王道の正統派だった。そんな奴ら相手に真正面から戦う必要もないだろうなーって奇策も奇策でアイテムボックスを悪用したら瞬殺してしまったよ。
うん、あいつら物理耐性とか魔法耐性とかガンガンつけてたくせに溶岩耐性とか質量耐性とかつけてないんだもん。そりゃ多少物理も関係あるけど、たかがスキルで大岩が切れるわけないだろ?青龍寺みたいなよくわからん奴は別として普通は溶岩とか大岩はダメージ入るんだよ!
そんなわけでアーサーチームを瞬殺して俺たちの優勝が決定したというわけだ。意識を表彰式に戻そうか。
俺たちのチーム名が呼ばれたので表彰台に立つ。このイベントは色物だけあってかなり賞品が豪華だった。
まずは優勝旗と称号。称号はまぁ、第1回目のイベントと同様に【第二回イベント『No Baseball No Life』優勝】とみていたプレイヤーによる投票だった。この表彰式で候補が発表され、後日集計して送られるらしい。
候補は以下の5つ【暴虐の悪魔】【環境破壊野郎】【想定外】【脳筋】【無慈悲な悲劇】
うん、ろくなのがねぇな!
優勝旗はフィールドアイテムだそうだ。これを立てた場所から半径50メートル以内に完全な安全地帯を作るという便利アイテム。野外での野宿とかに便利そうだ。ちなみにレイ優勝旗と一緒に立てると半径が100メートルになる優れものだ。
次に副賞。今回もポイント制であったがそれとは別に俺たちには運営側から好きなものを1つもらえるそうだ。ラインナップは結構豊富だからあとでじっくり考えよう。まぁ多分レイは成長武器だと思うけど。
さらには次回イベントであるPvPの予選免除権がベスト8以上のチーム及びファン投票で選ばれた青龍寺に与えられた。PvPにはあの「白」も出てくるだろうし、アーサーだって雪辱に燃えているはず。さらにはこの大会には出てこなかった勇者さんも出てくるだろうし、次のイベントが待ち遠しいな。
大方の予想に反してこの表彰式でのワールドイベントの進展はなかった。何事もないまま表彰式が終わり、アップデートのお知らせが入った。時間は今から1時間後からで内容はレベルキャップの解放がメインでそれに付随して街中でも一部機能の制限やNPCのレベルアップが行われるそうだ。
「それでは最後に【高天原】のリーダー、桃さんにPvPへの意気込みを聞いて表彰式を締めたいと思います。それでは桃さんお願いします」
おや?そんな話は聞いてなかったがどうやら何か話さなきゃならんらしい。いいだろう、ならば宣戦布告といこうじゃないか。
「突然なので話すことなんて考えてなかったが、関係ないな。優勝するのはこの俺だ。俺は持てる全ての力で優勝を勝ち取りに行く。俺の前に立ち塞がる奴は全て倒す。全員まとめて掛かってこい。以上だ」
俺の宣言に場が静まりかえる。その一瞬の静寂のち爆発するような歓声と怒号が鳴り響く中で俺たちは入ってきた場所へと転送された。
これにて第2回イベント、閉幕である。
そして、俺たちがイベントに浮かれている間に悪意は少しずつ、確実に世界を蝕んでいた。
ここで読者の皆様にご投票願いたいと思います。もちろん内容は桃の称号です!
どれがいいでしょうか?以下候補
【暴虐の悪魔】【環境破壊野郎】【想定外】【脳筋】【無慈悲な悲劇】
このあとは報酬の選択して掲示板回してまたメインストーリーに戻りたいと思います。ちなみに私の中で第4回イベント、第5回イベントの内容は決定しました(変更の予定は大いにあり)




